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「なまえをよんで」
しおりを挟むリナは洞窟の中でふらふらと歩き回りながら、金貨や宝石を指でつついていた。
キラキラと光るそれらを見ても、彼女の顔には不満げな表情が浮かんでいる。
「ねえ、厄災さん。」
その言葉を聞いた瞬間、ドラゴンの眉間に皺が寄った。
――いや、ドラゴンではない。今はリューだ。リューという名前がついたのだ。
だが、彼はその怒りをどう表現すべきか分からず、ただのどを鳴らして威嚇するだけだった。
「おい、その“厄災さん”というのはやめろ。」
「え? なんで? 厄災そのものみたいだから、ピッタリじゃない?」
リナが悪びれもせず笑うと、リューはうなり声をあげ、床を爪で引っ掻いた。
「ピッタリとかそういう問題じゃない! そもそも俺には名前があるだろう!」
「ああ、そうだったね。昨日、リューってつけたっけ?」
「そうだ! お前がそう決めたんだろう!」
リューの声が大きく響くが、リナはまったく動じない。むしろ、その様子を面白そうに見ている。
「でも、厄災さんのほうが分かりやすい気がしてね。怒るならリューって呼んでほしいって頼めばいいじゃない?」
リューはその言葉に一瞬言葉を失い、そして目をそらした。
頼む――だと? この俺が?
そんなことはできるわけがない。彼女に頭を下げるなど、捕食者としてのプライドが許さない。
「俺が頼むわけないだろう!」
「へえ、じゃあ厄災さんでいいってことね?」
「ぐっ……!」
彼は言い返せない。厄災と呼ばれるのは屈辱だが、それを訂正するには自分から頼まなければならない――という矛盾に苛まれる。
リューはもどかしさのあまり、尾を床に叩きつけた。
リナはその様子を見て、ふっと笑った。
「なんだかさ、リューって意外と人間くさいとこあるよね。」
「なっ、人間だと!? 俺をそんな弱い存在と一緒にするな!」
リューが声を荒げると、リナは肩をすくめて言った。
「でも、こうやってムズムズしてるのって、どう見ても人間っぽいじゃない。」
「ムズムズなどしていない!」
「じゃあ、リューって呼んでほしい?」
「……!」
リューはぐっと口を閉ざした。心の中では「呼んでほしい」と叫びたかったが、その一言がどうしても言えない。
「やっぱり人間くさい。」
リナが笑うと、リューは顔を真っ赤にして洞窟の奥へ歩き去る。
「勝手に呼べばいいだろう!」
そう吐き捨てたが、背中に視線を感じて足が止まる。
「分かったよ、リュー。」
リナが柔らかく、けれどしっかりとした声で彼の名を呼んだ。
その瞬間、リューの胸の奥がじんわりと温かくなった。
「そ、それでいい。」
リューは顔をそむけたままそう言い、尻尾を揺らして歩き去った。
リナはそんな彼の背中を見つめ、クスクスと笑うのだった。
「素直じゃないんだから。」
こうしてリューは、初めて自分の名前を誰かに呼ばれる喜びを感じつつも、それを認めるのが恥ずかしくてたまらなかったのだった。
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