真紅の瞳と小さな灯

夜明けのハリネズミ

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「……たすけて……!」

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 赤い外套を抱えて村へ急いで戻ったリューは、目の前に広がる光景に息を呑んだ。

 村全体が燃えている。

 黒い煙が空高く立ち上り、木造の家々が次々と崩れていく。その熱と焦げた臭いが鼻を刺す。

 リューの胸がどきりと鳴った。

「……どうして……?」

 ドラゴンの姿のまま村に降り立つと、さらに胸が締め付けられた。
 女子どもの姿がどこにもない。人々の気配が消えている。

「……リナは?」

 リナの匂いを必死に探すが、どこにも感じられなかった。

「リナ……どこだ……!」

 リューの大きな爪が無意識に地面を掻きむしる。けれど、どれだけ探しても、彼女の痕跡は見つからなかった。

 リューは、その後どうしたのか覚えていなかった。

 ただ気づけば、赤い外套を抱えたまま、広い空を飛び続けていた。
 彼女の匂いを求め、空から森を、街を、川を探した。

「リナが危険なら、鱗が教えてくれるはずだ……。なのに……。」

 心の中で何度もそう繰り返したが、リナの気配はどこにもなかった。

 春が来て、夏が過ぎ、秋が去り、また冬がやってきた。

 その間、リューは世界中を飛び回り、手当たり次第に村や街を訪ねてはリナを探した。
 赤い外套は砂埃で汚れ、色あせかけていた。

「……こんな状態で渡せるか。」

 リューは川のそばに降り立ち、外套を静かに洗った。
 羽で優しく温風を送り、外套を乾かしていくと、元通りの美しい赤色がよみがえった。

「リナ……どこにいる……。」

 リューの胸には焦りと不安、そして果てしない寂しさが広がっていた。

 空から探すのをやめたリューは、街を歩いて探すことにした。
 けれど、どこの街にもリナの匂いはなかった。

「……どうしてだ……。」

 リューの足が重くなりかけたそのとき、胸の奥に不思議な声が響いた。

「……たすけて……!」

 それは、微かに聞こえる叫び声だった。

 リューは目を見開き、その声の元を辿るように飛び立った。

「リナ……!」

 たどり着いたのは、オウトと呼ばれる大きな街だった。
 城壁に囲まれたその街は、賑やかで強固な作りを誇っている。

 だが、そんなことはどうでもよかった。

 リューはドラゴンの姿のまま街に降り立ち、建物を壊しながらリナを探した。

「リナ! どこにいる!」

 彼の炎は街を覆い、人々が逃げ惑う中、リューはただひたすらに叫び続けた。

「出てこい……リナ!」

 街全体が炎に包まれたそのとき、不意に耳に届いた声があった。

「そこのでっかいヤツ。こんな風に火を放って、楽しいわけ?」

 その声に、リューは動きを止めた。

 炎の向こう側に見えたのは、一人の少女の姿だった。
 鎖に両手を縛られたままのリナ。

 彼女の髪は乱れ、顔にも泥がついていたが、その瞳はあの日のまま、真っ直ぐリューを見つめていた。

 リューの胸が再びどきりと鳴った。

「リナ……!」

 彼の低い声が街中に響き渡ると、リナは疲れたように微笑んで言った。

「……リュー、遅いよ。」

 その瞬間、リューの目には涙が浮かんでいた。

 リューは急いでリナの元に駆け寄り、鎖を鋭い爪で断ち切った。

「大丈夫か?」

「うん……でも、寒い。」

 リナの震える声を聞いて、リューはすぐに赤い外套を取り出した。
 長い旅で汚れてしまったが、綺麗に洗って乾かしておいた、大切な外套だった。

「これを着ろ。」

 リューはリナの肩に外套をかけ、優しく包み込むように整えた。

「……リュー、これ……。」

「お前のために作ったんだ。似合ってる。」

 リナは外套をぎゅっと握りしめ、目に涙を浮かべた。

「ありがとう……リュー。」

「礼はいい。寒さがなくなれば、それでいい。」

 リナが微笑むと、リューは少し顔をそらしながら、優しくリナを抱き上げた。

「さあ、ここから出るぞ。」

 リューの赤い鱗と、リナの外套が街の炎に映えていた――二人が再び会えた、その喜びとともに。
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