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プロローグ
夏の昼下がりのこと
しおりを挟む「なにかお探しですか?」
少し低めの凛と良く通る声に呼び止められ、振り返る。
古い住宅街の路地の奥、石畳の崩れた階段を仰ぎ見れば塗装の剥げた古めかしい鳥居があった。
強い日差しがアスファルトを照りつけているすぐ後ろには小さな森と言っても過言ではない程の深い緑がありその狭間では陽炎がゆらゆらと揺れている。
鳥居か、はたまた陽炎なのか声の主を目で探っていると温い風がそよぎ鬱蒼とした木々を揺らした。
まだらの影が落ちる中、揺らめきは一瞬で霧散して額から汗が流れ落ちる。こつこつと石畳を叩く靴音が近付きそれは姿を現した。
真夏の午後に似つかわしくない黒い外套が足取りに合わせはたはたとなびいている。
真っ白な肌。クリーム色がかかったウイングカラーの首元には濃い小豆色のアスコットタイが巻かれていた。
大柄な体躯の胴回りを締め付けるような薄手のベストは外套と同じ黒色でいよいよ暑苦しい。
日の木漏れ日とは異なる出所のわからない光源にきらきら反射する銀色の癖毛を後ろに流し陰る薄暗がりの中爛々と光る眼は赤にも金色にも見えた。
背景とあまりにもそぐわないその風体はまるでそこに無いようにも思える。
まじまじと観察している内視線が合うとその眼は自然な動作で細められ笑った。
それは正に妖艶としか言いようがなくおよそ温度を感じられない異質さがあった。
夏の盛りの真昼間にも関わらず陶器のようななだらかさを持つその肌からは汗のひとつも流れていない。
なるほど、ヒトと同じ形を取ってはいるがこれはヒトでは無い。
視線を反らさず対面に向き合いじっと見上げれば男の存在を無視してまた風が吹いた。
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