グラジオラスの恋

ノクス

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その後は行く先々で知らない生徒に声を掛けられながらも何とか無事に学校へ到着し、授業までこぎつけることが出来た。
タイガはこの背丈故、席替えに関わらず常に1番後ろの席を陣取っている。ユキオはというと、ついこの前の席替えでタイガの二つ前の席に変わった。授業中は舟を漕ぐ頭が良く見える。
ちゃんと起きてろと言ってもユキオは聞かない。大抵午前中は寝て過ごし、下手をすれば食後も寝ている。
本人曰く飽きてしまうそうだ。それでも勉強は出来るのだから元の作りが良いのだろう。

「藤崎、いつまで寝てる気だ」
「……ん、」
「ほら、次の問題解いてみろ」
眠っているのに気づいた教師がコツンと机を叩き、ユキオを起こす。朝以外は割りとすぐに起きれるユキオはパチリと目を覚ました。恐らく多少緊張感を持っているからだろう。家以外では本当に寛げる場所は限られている。
ユキオは問題文をちらりと見ると気だるげに立ち上がった。白い指がチョークを掴み、サラサラと黒板に数式を書いていく。
どこかでため息を吐く声が聞こえる。斜め前でひそひそ話す女子が見えるのできっとあそこの席からだろう。
前々からユキオに憧れがあるらしく、彼が前に立つ際はよく見られる光景だ。
それを眺めているうちにユキオの方は問題を解き終えたらしい。
「解きました」
素っ気なくそれだけ言うとユキオは席へと戻ってきた。
戻る途中で目が合う。パチリと瞬くと口の動きだけでバーカと言われた。多分八つ当たりだろう。
いや、バカはお前だ。
そう思いを込めて目を細めると知らん顔される。
教師はと言うと、答え合せをしてそれが正解と分かると困ったような、複雑そうな表情で「正解」を告げる。
割とこんな調子なので教師達はユキオに手を焼いているらしい。とはいえ、勉強は出来る上周りからの評判も良いので怒るに怒れない。

ちょうど問題文に大きく丸を付けたところで終了の鐘が鳴った。
この後は昼食だ。私立の学校でもない限り高校の大半は学食ではなく弁当の持参になる。東葉高校ここもまた同じく持参、もしくは購買で購入することになっていた。
タイガとユキオは持参派だ。
ユキオはハルコさんが弁当を作るのを楽しみにしているからだが、タイガは純粋に食べる量が多いからだった。
通常運転で3人前は平らげるのでいちいち買っていたのでは間に合わない。
弁当箱もネットで1番大きな物を注文して使っているが、それでも足りずおにぎりを持参したりユキオ宅からパンを購入しているくらいだ。

教室で食べるのは落ち着かない。
入学したばかりの頃、ユキオと話したいあまり昼食の度に同級生が代わる代わるやってきて質問責めにしてきたのでそれから教室で食事を取るのは諦めた。
「ほら、行くぞ」
鞄を持ったユキオがそう言って立ち上がるので、タイガも荷物を持つと立ち上がった。
ユキオは基本的に荷物をその場に置いていかない。以前手紙どころか盗聴器紛いのものを入れられたことがあったのだ。
トイレなどの時は大抵タイガがいるので持っていかないが、昼休憩は人の出入りが激しいのでこうして離れる際は鞄ごと持っていくようにしている。

学校生活を送るだけだというのになんとまぁ大変なことか。

そんな理由もあり、昼食は一緒に屋上で食べることにしている。
屋上は通常鍵がかかっているのだが、どういうわけかこの幼馴染みは代々先輩から受け継がれてきたという屋上の合鍵を僅か1ヶ月で入取してきたのだ。
屋上を使うようになって随分と経つが、今のところバレたことは一度もない。最上階の教室は空き教室ばかりなので教師達はそこで食べていると思っているのだろう。

今日も今日とて合鍵を使い、屋上へと出る。今日は風もなく爽やかだ。昨日は湿気が酷かったのでだいぶ良い。
屋上から更に固定されているハシゴで上へ上がった先が二人の定位置だ。ここなら万が一誰か入ってきても見つからない。
二人は弁当を広げると早速食べることにした。
ユキオなんて見かけはベジタリアンに見えるというのにがっつりしたものが好きだ。今日も和食を中心としたバランス良い食事が敷き詰められている。
かくいうタイガも見かけ通り肉っ気のあるものを好むので弁当の中身は食べ応えのあるものばかり揃っている。
とはいえ、タイガの方が明らかに食べる量は多い。
そもそもの体格が違うので仕方ないだろう。
ユキオ曰く、タイガのそれは大食いの域を超えているらしい。
ちらりとこちらの弁当を見やったユキオは呆れたような表情で呟いた。
「……バカ食い」
「腹減ってんだからしょうがねーだろ」
そこからは無心でお互い食事にがっつく。高校生男児などそんなものだ。
ある程度腹が膨れてきてようやくポツリポツリと会話が始まった。今日話し始めたのは近所に住んでいる兄貴分についてだった。
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