グラジオラスの恋

ノクス

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「なら、こっち向け、よ!!」
言いながら尚もしつこく先端をいじり回していると青の瞳から涙がボロボロと零れ落ちる。
「わか、わかったからぁ……っ、それやめろ……っ!!」
ようやく合った視線にタイガは釘付けになる。
真っ赤に染まった頬と泣きすぎたせいか赤くなった目尻。血流が良くなりいつもより赤い唇とそこから漏れ出る喘ぎ声と共に覗く赤い舌。散々いじり回したせいか額には汗をかいて前髪がしっとりと濡れている。
深い青の瞳は潤んでいて、目の奥にはドロドロに溶けた劣情がはっきりと見える。
どくん、と自身のペニスが脈打つのが自分でも分かった。
擦り合わせているユキオにもそれは伝わったらしい。
「ひ、でかくすんなぁ……っ!」
「いや、むりだろ……っ、」
そんなこと言われては余計に止まれない。
目の前のユキオの唇に噛み付くようなキスを送る。
舌を絡めると今までとは違い、ユキオもおずおずとその舌の動きに合わせて絡めてくる。
ようやく応えてくれるようなユキオの動きに胸が高鳴る。
「ん……ふぅ……っ、」
「……は、ゆきお……、」
手の中も口の中もぐちゅぐちゅと音が鳴る。
自身のもユキオのもビクビクと手の中で震え、限界だった。
「……ゆきお、一緒イって……」
「あ……っ、あ゛……たいがぁ……ぁあ゛――っ!!」
生暖かいものが手の中で溢れる。
ユキオの絶頂する声を聴きながらタイガも後を追うようにしてユキオの手の中で達した。




はぁはぁとお互いに肩で大きく息をする。
ユキオなどタイガに好き勝手されたからか横になりながらぐったりとしていた。
その姿を見てタイガはようやく自身のやらかした事に今更ながら気づく。
「わ、悪いユキオ!!!」
真っ青になりながらタイガはガバッと彼から勢いよく離れた。

――守ると豪語していた奴が手を出してどうするんだ!!

タイガは頭を抱える。ユキオが挑発的なのはいつものことだというのについムキになってしまった。それどころか真っ赤になる様を見てどうしようもなく胸がざわついた。
もっと見たいと思ってしまった。
今思い出すのはまずい。
また欲が頭をもたげそうになってタイガは全力でそれを鎮めた。
「もー、俺今変だから今日はもう帰れ」
両手で顔を覆ってそう告げる。
これ以上一緒にいると何をするか分からない。
今までは自身と一緒にいることが一番安全だと思っていたのに、今では自分が一番信用ならない。

――俺どうしちまったんだ?

自問自答するが悶々として答えが出せない。
その間に部屋を出て行くと思われたユキオはというと未だタイガの前にいた。
ゆっくりと上体を起こす気配がする。
ユキオの顔を見ることが出来ずに下を向いていると上から声が降ってきた。
「どう変だって?」
この期に及んでまだおちょくる気か。
怒りが降って湧いたタイガがはバッとユキオの方を見る。
ニヤニヤしているであろうと予想していたのに、そこには澄んだ青の瞳があった。
「どう変なの?」
真剣な目でこちらを見定めるユキオにタイガは戸惑う。

どうと言われても返答に困る。
しおらしい様子に胸がざわつくし真っ赤な顔を見ればもっと見たくなる。男だからとか関係なく良くしてやりたい、それどころか暴きたいと欲が出てしまった。
それが何なのか、考えれば答えは決まっている。
「あー、」
気づいた瞬間、じわじわとまた体温が上がっていく。
首も耳も真っ赤になっていると自覚してタイガは顔を手で覆った。
「見んな。良いからあっち行ってろ」
「やなこった」
いつものタイガの口調を真似される。
茶化されてるなと思いつつ手の中から恨みがましい視線を向けると、目を細め嬉しそうな表情のユキオを目があった。

――何だその表情かおは……!

心底嬉しいですと体現したような蕩けた表情。唇の端は自然に上がって、さっきまでとは違う純粋な笑みだ。
未だに先程の行為の余韻を引きずっているからか、どこか妖艶にも映る。
見慣れていない部類の微笑みにタイガの心臓がバクバクと脈打つ。
「お前は――俺とどーなりたいの?」
コテンと首を傾げられるがタイガは硬い声で返す。
「………………分からん」
「はぁ?」
先程までのとろけた表情が嘘のように一変し、眉間へ眉を寄せて険悪な表情へと変わる。ある意味顔芸とも取れるそれにやや臆しつつ、タイガは小さくなって答えた。
「だってよぉー、ずーっと守ってきたのに俺がそれ言ったらダメだろう」
ずっと自分が守って行くのだと、傲慢なほどにタイガは思い込んでいたのだ。
それを今更覆すには年月が経ち過ぎていた。
そんなタイガの返答にユキオは努めて静かに、しかし強い口調で言い返す。
「ダメかどうかは俺が決める」
「いやそうだけど……っ!俺が!自分を!許せねーの!!」
顔を上げて叫ぶとユキオの怒声が飛んだ。
「こん……っの、ヘタレ!!」
「うるせー!」

自分の気持ちもユキオの気持ちも同じなのはタイガにも分かっている。
しかし長く凝り固まった信念が邪魔してそれを素直に認められなかった。
大きな身体を小さく丸め、うじうじとしながら唸るタイガを見てユキオは大きく溜息を吐く。一呼吸置いた後、ユキオは静かにタイガへと投げかけた。
「…………俺のこと、大事か?」
ポツリ、不安げにも聞こえる声音にタイガは顔を上げてはっきりと言い切った。
「大事だ」
それは即答出来る。
何があっても自分が守るんだと決めた大切な人なのだ。
まっすぐに向く視線にユキオがほんのりと頬を染める。
への字に曲がった口元が可愛らしい。


認めてしまえば楽になるのに、心とはどうしてこうも上手く扱えないものなのか。


タイガは再び視線を下に落とした。
それを見ていたユキオは小さくため息を吐く。気配で肩をすくめるのが何となく分かった。
幻滅されただろうか。自身を押し通しておいて今更そんなことが気になった。
しかしユキオの方は自身の中で一区切りついたらしく、存外明るい声が降ってきた。
「まぁ、今はそれでいいや」
「ユキ……痛て……っ!」
思わず顔を上げると鋭い痛みと生暖かい感触が鼻先を襲う。どうやらユキオが鼻先に噛み付いたらしい。ヒリヒリと主張する鼻先を無意識に抑えた。
「ばぁか」
頬を染めながらも拗ねた様に眉をひそめるその表情にまた胸がキュウっと締め付けられる。


バクバクと主張する鼓動に気づかないふりをして、タイガはその場を何とかやり過ごしたのだった――。













-あとがき-
最後はくっ付けるつもりでしたが何故かくっつきませんでした……!
いつかくっつけてあげるつもりですが、とりあえず今はここまでです。
閲覧ありがとうございました!
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