グラジオラスの恋

ノクス

文字の大きさ
10 / 10

10

しおりを挟む
「なら、こっち向け、よ!!」
言いながら尚もしつこく先端をいじり回していると青の瞳から涙がボロボロと零れ落ちる。
「わか、わかったからぁ……っ、それやめろ……っ!!」
ようやく合った視線にタイガは釘付けになる。
真っ赤に染まった頬と泣きすぎたせいか赤くなった目尻。血流が良くなりいつもより赤い唇とそこから漏れ出る喘ぎ声と共に覗く赤い舌。散々いじり回したせいか額には汗をかいて前髪がしっとりと濡れている。
深い青の瞳は潤んでいて、目の奥にはドロドロに溶けた劣情がはっきりと見える。
どくん、と自身のペニスが脈打つのが自分でも分かった。
擦り合わせているユキオにもそれは伝わったらしい。
「ひ、でかくすんなぁ……っ!」
「いや、むりだろ……っ、」
そんなこと言われては余計に止まれない。
目の前のユキオの唇に噛み付くようなキスを送る。
舌を絡めると今までとは違い、ユキオもおずおずとその舌の動きに合わせて絡めてくる。
ようやく応えてくれるようなユキオの動きに胸が高鳴る。
「ん……ふぅ……っ、」
「……は、ゆきお……、」
手の中も口の中もぐちゅぐちゅと音が鳴る。
自身のもユキオのもビクビクと手の中で震え、限界だった。
「……ゆきお、一緒イって……」
「あ……っ、あ゛……たいがぁ……ぁあ゛――っ!!」
生暖かいものが手の中で溢れる。
ユキオの絶頂する声を聴きながらタイガも後を追うようにしてユキオの手の中で達した。




はぁはぁとお互いに肩で大きく息をする。
ユキオなどタイガに好き勝手されたからか横になりながらぐったりとしていた。
その姿を見てタイガはようやく自身のやらかした事に今更ながら気づく。
「わ、悪いユキオ!!!」
真っ青になりながらタイガはガバッと彼から勢いよく離れた。

――守ると豪語していた奴が手を出してどうするんだ!!

タイガは頭を抱える。ユキオが挑発的なのはいつものことだというのについムキになってしまった。それどころか真っ赤になる様を見てどうしようもなく胸がざわついた。
もっと見たいと思ってしまった。
今思い出すのはまずい。
また欲が頭をもたげそうになってタイガは全力でそれを鎮めた。
「もー、俺今変だから今日はもう帰れ」
両手で顔を覆ってそう告げる。
これ以上一緒にいると何をするか分からない。
今までは自身と一緒にいることが一番安全だと思っていたのに、今では自分が一番信用ならない。

――俺どうしちまったんだ?

自問自答するが悶々として答えが出せない。
その間に部屋を出て行くと思われたユキオはというと未だタイガの前にいた。
ゆっくりと上体を起こす気配がする。
ユキオの顔を見ることが出来ずに下を向いていると上から声が降ってきた。
「どう変だって?」
この期に及んでまだおちょくる気か。
怒りが降って湧いたタイガがはバッとユキオの方を見る。
ニヤニヤしているであろうと予想していたのに、そこには澄んだ青の瞳があった。
「どう変なの?」
真剣な目でこちらを見定めるユキオにタイガは戸惑う。

どうと言われても返答に困る。
しおらしい様子に胸がざわつくし真っ赤な顔を見ればもっと見たくなる。男だからとか関係なく良くしてやりたい、それどころか暴きたいと欲が出てしまった。
それが何なのか、考えれば答えは決まっている。
「あー、」
気づいた瞬間、じわじわとまた体温が上がっていく。
首も耳も真っ赤になっていると自覚してタイガは顔を手で覆った。
「見んな。良いからあっち行ってろ」
「やなこった」
いつものタイガの口調を真似される。
茶化されてるなと思いつつ手の中から恨みがましい視線を向けると、目を細め嬉しそうな表情のユキオを目があった。

――何だその表情かおは……!

心底嬉しいですと体現したような蕩けた表情。唇の端は自然に上がって、さっきまでとは違う純粋な笑みだ。
未だに先程の行為の余韻を引きずっているからか、どこか妖艶にも映る。
見慣れていない部類の微笑みにタイガの心臓がバクバクと脈打つ。
「お前は――俺とどーなりたいの?」
コテンと首を傾げられるがタイガは硬い声で返す。
「………………分からん」
「はぁ?」
先程までのとろけた表情が嘘のように一変し、眉間へ眉を寄せて険悪な表情へと変わる。ある意味顔芸とも取れるそれにやや臆しつつ、タイガは小さくなって答えた。
「だってよぉー、ずーっと守ってきたのに俺がそれ言ったらダメだろう」
ずっと自分が守って行くのだと、傲慢なほどにタイガは思い込んでいたのだ。
それを今更覆すには年月が経ち過ぎていた。
そんなタイガの返答にユキオは努めて静かに、しかし強い口調で言い返す。
「ダメかどうかは俺が決める」
「いやそうだけど……っ!俺が!自分を!許せねーの!!」
顔を上げて叫ぶとユキオの怒声が飛んだ。
「こん……っの、ヘタレ!!」
「うるせー!」

自分の気持ちもユキオの気持ちも同じなのはタイガにも分かっている。
しかし長く凝り固まった信念が邪魔してそれを素直に認められなかった。
大きな身体を小さく丸め、うじうじとしながら唸るタイガを見てユキオは大きく溜息を吐く。一呼吸置いた後、ユキオは静かにタイガへと投げかけた。
「…………俺のこと、大事か?」
ポツリ、不安げにも聞こえる声音にタイガは顔を上げてはっきりと言い切った。
「大事だ」
それは即答出来る。
何があっても自分が守るんだと決めた大切な人なのだ。
まっすぐに向く視線にユキオがほんのりと頬を染める。
への字に曲がった口元が可愛らしい。


認めてしまえば楽になるのに、心とはどうしてこうも上手く扱えないものなのか。


タイガは再び視線を下に落とした。
それを見ていたユキオは小さくため息を吐く。気配で肩をすくめるのが何となく分かった。
幻滅されただろうか。自身を押し通しておいて今更そんなことが気になった。
しかしユキオの方は自身の中で一区切りついたらしく、存外明るい声が降ってきた。
「まぁ、今はそれでいいや」
「ユキ……痛て……っ!」
思わず顔を上げると鋭い痛みと生暖かい感触が鼻先を襲う。どうやらユキオが鼻先に噛み付いたらしい。ヒリヒリと主張する鼻先を無意識に抑えた。
「ばぁか」
頬を染めながらも拗ねた様に眉をひそめるその表情にまた胸がキュウっと締め付けられる。


バクバクと主張する鼓動に気づかないふりをして、タイガはその場を何とかやり過ごしたのだった――。













-あとがき-
最後はくっ付けるつもりでしたが何故かくっつきませんでした……!
いつかくっつけてあげるつもりですが、とりあえず今はここまでです。
閲覧ありがとうございました!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

処理中です...