転生ドラゴンの魔法使い~魔法はガチでプログラムだった~

喰寝丸太

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第1章 森のドラゴン

第1話 ドラゴンに転生、魔法との出会い

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 むっ、薄暗くて狭い。
 あれ、昨日はカプセルホテル泊まったっけ。
 たしか、デスマーチ中だったような。
 寝落ちしたんでカプセルホテルに放り込まれたのかな。

 スイッチ、スイッチと。
 手探りでスイッチを探すと手が奇妙な感触を伝える。
 壁に弾力がある、薄い膜があるようだ。
 膜の向こうは硬い壁か、暴れる人対策かな。
 とにかく脱出しようとしてもがく。
 その時ピシリと音がした。
 やばい、カプセルホテルの一部屋弁償か、どれだけ請求されるんだ。
 ひびはどんどんと大きくなり、俺は外をみる事ができた。



 なんじゃこりゃー。
 視界は木で埋め尽くされていた。
 ふと手をみると赤いウロコで覆われた手が見えた。
 背中とお尻に違和感があり首を180度曲げると、背中には翼がお尻には尻尾が見えた。
 そういえば首はこんなに曲がらない。
 とにかく落ち着け。
 深呼吸を何度もすると口から炎がちろちろと漏れる。
 ああ、ドラゴンに転生したんだな。
 納得できないが納得。

 さてと何はなくとも食料だな。
 さっきから本能が卵の欠片を食えと促してくる。

「ぎゃお(いただきます)」

 卵の殻は味がしなくてじゃりじゃりした。
 美味くはないが腹は少し満たされた。
 視点の高さと周りの木から俺の身長は50センチぐらいと推測される。
 狼にでも会おうものなら美味しく頂かれてしまうのに違いない。
 まずは安全なねぐらだな。



 飛ぼうと思い翼を数回動かすと風が巻き起こった。
 飛べるみたいだ。
 本能に従い飛行を始める。
 ねぐらを探す途中で角が生えた兎に出会う。
 俺と同じぐらいの大きさだ。
 滑空して近づくとジャンプして角を使った頭突きをかましてきた。
 思わず叫ぶと炎が兎の顔面を直撃。
 どうやら殺したようだ。
 肉の焦げる匂いに涎が垂れる。

「ぎゃお(いただきます)」

 ふう、喰った喰った。
 お腹がぽっこりする。
 飛べるのか不安だったが羽ばたくと遅いながらも飛べた。

 ちょうど良い木の洞があったのでそこで寝る事にした。
 ドラゴン生も案外と悪くないな。
 そんな事を考えていたらいつの間にか眠ってしまった。



 次の日に起きると驚いた。
 うわなんだこのがさがさと皮膚に付く物は。
 病気か病気なのか。
 よく観察してみると脱皮していて体が一回り大きくなっていた。
 樹に体を擦りつけ、こびりついた古い皮膚を落とす。
 ふう、すっきりした。

 ドラゴンていうのは喰えば喰うだけ大きくなる生き物なのかな。
 狩られないためにも大きくなるぞ。
 俺は空中からブレスを浴びせかけるという卑怯な戦法で獲物を次々に狩った。
 ファンタジーでドラゴンが最強とされるのがよく分かった。
 体の二倍ほどある猪も空中からのブレスには敵わない。
 ブレスを使ってくる敵もいたが華麗にかわし、こちらもブレス。
 油断してブレスを食らってもウロコが全て弾き返した。



 そんな無敵の食っちゃ寝生活を気の遠くなるほど続けていた俺は何時しか10メートルほどの巨体に育っていた。
 そしてある日、気まぐれで森の外へと飛ぶ。
 森の縁に近い所に昼寝したら気持ち良さそうな御花畑をみつけた。
 そこでくつろいでいたら鎧を着た六人の人間と遭遇。
 人間だ、初めての人間だ。
 この星にも知的生命体が存在したんだな。
 もっと早く探せば良かった。

「ドラゴンだと」
「逃げられないだろう。情報にはなかったがやるぞ」

 なぜか言葉が分かる。
 まあたぶん転生特典だろう。
 驚いている俺に弓を構えた人間達が一斉に矢を放つ。
 矢はウロコで弾かれた。

「魔法を使う時間を稼げ」

 剣を抜いた人間が切り掛かってくる。
 俺は爪で払いのけた。
 それよりも気になる事がある魔法と言ったな。
 早く見せろ。

「ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・
ハニスイろコチリリろカイトカゆよレ・む」

 魔法と思われる詠唱が終わり、火の玉が飛んで来た。
 おお、魔法だ。
 俺は尻尾で火の玉をなぎ払った。
 火の玉は火の粉を散らして掻き消える。
 しょぼいな。
 でも魔法には非常に興味をそそられる。

「撤退だ。バラバラになって逃げるぞ。幸運を」
「「「「「幸運を」」」」」

 人間達はバラバラに逃げて行く。
 本能は追いたがっていたが、追わないよ。
 人間は不味そうなんだもん。



 魔法について考える。
 俺にも使えないかな。
 使いたい、魔法が使いたい、使いたいったら、使いたい。
 こうかな。

「ギャ・ギャオギャギャ・ギャガオガウガウギャウ・ギャン」

 当然の事ながら魔法は出ない。
 そうだよなドラゴンの声帯は人間とは違う。
 それに詠唱が出来ても魔力とかの問題が発生する可能性もある。
 念じたら出来ないかな。

 さっきの魔法の詠唱を念じてみる。
 何も起きない。
 くそう、何かくやしい。
 魔法の一つ出来ないで何が無敵生物だ。



 それから俺は人間から魔法の知識を盗む事にした。
 森に来る人間をストーキングするのだ。
 目立たないように巨体には泥を塗り、足音を立てない歩き方を身につけた。
 飛ぶのは滑空すればさほど音は立たない。
 俺は夜の森を滑空して野営する人間を探した。

 いたぞ、焚き火を囲んで野営している。
 俺はこそっと近づく。
 虫の鳴き声が一斉に止まる。

「リーダー」
「分かってる。おい、あれを」
「ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・
リニキクカろカイトカゆよレ・む」

 おっ新しい呪文だ。
 魔法使いから光の玉が湧き出るように出現した。
 泥で迷彩した俺の体は照らされた。
 人間には黒い小山が出現したように見えただろう。

「ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・
テチカイスろコチリリろカイトカゆよレ・む」

 魔法使いから水の玉が発射されて俺の体の泥を落とした。
 月明かりを俺のウロコが反射する。

「ひっ、このウロコの輝きはドラゴンだ」
「撤退! 撤退!」

 人間達は暗闇に紛れて逃げて行く。
 ドラゴンの目には逃げて行く人間の姿がばっちり見えていたが追わなかった。



 俺は上機嫌でつい声を上げる。
 人間の逃げる速度がさらに加速した。

 俺は怪物なんだなと思うと少し気分が沈む。
 『良いじゃないか。今回は二つも呪文が手に入った』と気を取り直す。
 それで、気づいた事がある最初の『ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が』の部分がどの詠唱でも同じだ。
 という事はこれが魔法を使いますよって鍵なのかも。
 そして『が』というのが始まりで『む』で終わるのかも。

 解析を進めた結果、呪文を理解できる形に翻訳する事に成功した。
 最初の呪文は俺のイメージで翻訳するとこうなる。

void main(void)
{
 fire_ball_test();
}

 他の呪文ではこの『fire_ball_test();』の所がライトだったりウォーターボールだったりするわけだ。
 testがついているのは気分だ。
 もっと高威力の呪文もあるんじゃないかという期待だ。
 そしてどの呪文も『む』で終わっている。
 これが終わりの合図なのだろう。
 間違っている可能性もあるので、もっとサンプルがほしい。

 なぜこんな事を推測するかと言えば前世はプログラマーだったのだ。
 法則を見つけるのはわりと得意だ。
 それにしても悔しい。
 魔法が自由に作り出せそうなのに詠唱出来ないとは。
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