女乗せない戦闘機

阿愛

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第3話 毒された男達

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遠い故郷のアメリカも
鬼も逃げ出すベトナムも
人の心の奥底は
所詮変わらぬ浅ましさ

手柄を立ててご機嫌の二人だったが、好事魔多しで撃墜の憂き目に逢う

ベトナムの鬼将校グエン少佐は二人に恐ろしい屈辱を与える!



 敵機撃墜の報は新聞にも掲載され、センチピートとボーイスカウトのコンビは一目置かれる存在となった。二人のその後の成績も良好であり、半年後には揃って大尉へと昇進した。

 その一方、二人の裏の関係はますます深みへとはまっていった。危ない目に遭えばボーイスカウトがセンチピートにせがみ、手柄を立てればセンチピートがボーイスカウトを求める。

 近頃は休暇にも酒場へ繰り出したりせず、適当なホテルの部屋を取って二人で延々交わっている有様だった。

「俺達、どうなっちまうんだろうな」

 マニラのとあるホテルの一室でセンチピートは呟いた。ボーイスカウトはセンチピートに組み伏せられ、正常位で攻められて声にならない声で喘いでいた。

「どうなるって…」

 完全に雌という趣のセンチピートは、焦点の定まらない瞳で弱々しく答えた。

「俺達のこんな仲が知れたら、軍には居られないってことさ」

 興奮で反り返ったボーイスカウトの砲身がびくびくと脈打った。どうもボーイスカウトにはマゾの気があるらしいのに近頃のセンチピートは気付き始めていた。

「いいよ。明日俺達は死ぬかもしれない。悔いを残したくないよ」

 ボーイスカウトはジョッキーとワイオミングの二人を皮切りに、あれから何人かの仲間の死に直面してきた。ボーイスカウトのアナポリスの同期の仲間達にも既に数人の戦死者が出ている。

 それとともにボーイスカウトは気難しい面がますます強くなっていったが、こうしてセンチピートと交わっている時だけ本音と弱みを見せた。それがセンチピートをたまらなく興奮させるのだった

「死なせてたまるか。おれが操縦してるんだ」

 センチピートも内心怖かった。日に日にアメリカは劣勢になりつつあり、熱帯の暑さでファントムの調子も悪くなる一方だった。

「あっ!センチピート!」

 センチピートが興奮に任せて激しくボーイスカウトを突き立てると、ボーイスカウトはセンチピートにしか聞かせない甘い声を上げて悶える。

 ボーイスカウトの砲身からはオイルがだらだらと漏れ、限界が間近なのを言外に訴えていた。

「この、イくぞ !」

 センチピートは一層激しくボーイスカウトに腰を打ち付けたかと思うと、瞬間動きを止め、ボーイスカウトに激しく発射した。それと同時にボーイスカウトも達し、自らの白い弾で顔を汚した。

「良かったよ、センチピート」

 恍惚の表情を浮かべながら、ボーイスカウトは自らの白い弾をタオルで拭き取った。一度はボーイスカウトの身体から離れたセンチピートは、その姿を見てまた興奮を煽られ、後ろからボーイスカウトに襲いかかった。

「ああっ!そんな慌てて…」

「うるさい。悔いを残したくないんだろ?」

 センチピートはボーイスカウトを四つん這いにして、たちまちのうちに臨戦態勢に入って突撃した。

「す、素敵だよ。センチピート!」

「今日は徹底的にやるぞ」

 死の恐怖が生殖本能を突き動かすのだろうか。日に日に二人の回数は増える一方であった。

 何度交わったかもわからない激しい夜を終えたその次の夜、二人は夜間爆撃に出撃した。陸の基地から出撃した爆撃機を護衛し、ある都市を吹き飛ばすのが二人とその僚機に課された役目だった。

「伯父さんが日本を空襲した時の話を思い出すな」

 ボーイスカウトは不安そうに呟いた。

「おい、俺にそんな話をする気か?」

 センチピートは嫌そうに答えた。日系人にとって楽しい話とは思えなった。

「伯父さんの僚機が撃墜されてな。パラシュートで降下して助かるには助かったんだが、降りた先で日本人に竹槍で突き殺されたんだ(注1)」

「縁起でもない…」

 そう言い終わるが早いか、凄まじい轟音と閃光に機体が襲われた。

「高射砲だ!エンジンがやられた!」

「こんな所にはいないはずだろ!」

 アメリカ軍の空襲を迎え討つため、ジャングルの木陰に巧みに隠匿された高射砲の一門が、二人の機体の右の主翼とエンジンを吹き飛ばした。

 編隊は総崩れになり、コクピット中の警報がブザーを響かせながらランプを明滅させ、気の狂うような有様になった。

「神様!」

「ボーイスカウト、お前のせいだ!」

 センチピートはなんとか機体を水平に保っていたが、墜落はもはや時間の問題だった。

「脱出するぞ!」

 墜落を覚悟した二人は風防を爆破装置で吹き飛ばし、射出座席を作動させた。まずは後ろのボーイスカウト、少し遅れてセンチピートが、座席下に備えられた火薬ロケットで座席ごと空中へ飛び出した。

 この射出座席を使うと身体に過度の負担がかかり、かなりの割合でパイロットとして再起不能になってしまうと噂されていた。しかも降りた先は敵の真っただ中だ。

 あるいはボーイスカウトの伯父さんの仲間と同じ運命をたどるかもしれないと、パラシュートで漂いながら二人は暗澹とした気持ちになった。

 二人はジャングルのそう離れていない場所に着地し、座席に収められた拳銃や非常食といった気休め程度の装備を取り出して合流した。

「ボーイスカウト、これでネクタイが貰えるぞ(注2)。勲章の授賞式に締めていこう」

「ネクタイも勲章も、あの世には持っていけないよ」

 センチピートは小声でボーイスカウトを励ましたが、暗闇の中でも顔が笑っていないのは明白だった。

 二十分もせずに敵軍が捜索に現れた。拳銃程度の武器で抵抗しても生きてその包囲を脱出することなど不可能だ。二人にできるのはこれから始まるだろうひもじい捕虜生活の足しにするために、非常食をやけ食いすることだけだった。

 二人は持ち物を何もかも取り上げられたうえで縛られて目隠しをされ、トラックの荷台に放り込まれて寺院を利用した捕虜収容所に運ばれ、地下牢のような部屋に入れられた。他の部屋には同じ境遇のアメリカ人が何人も入れられているらしかった。

 二人は別々に訊問された。作戦内容や空母の数、その他のパイロットが知っているだろう程度の情報について根掘り葉掘り聞かれたが、教育された通りに名前と階級と認識番号以外は喋らなかった。

 初日はこれだけで済んだが、いまに恐ろしい拷問が始まるのは明白だった。時々地下牢には他の捕虜が拷問されているらしき叫び声が聞こえてきた。

「俺達、どんな目に逢わされるのかな」

 同胞の悲痛な叫び声が聞こえるたび、ボーイスカウトは怯えきった表情で耳を塞いだ。

「そんな怖がりでよくアナポリスを卒業できたな」

 そんなボーイスカウトに皮肉を飛ばすセンチピートも、所詮は虚勢を張っているだけだった。

「俺の親父は提督だ。そうと知れたら何をされるか…」

 ボーイスカウトはセンチピートに抱き付いた。こんな状況だというのに、ボーイスカウトの砲身だけはカスター将軍の如く勇ましかった。

「お前、根っからの変態だな」

 センチピートは呆れるしかなかった。ボーイスカウトはもう服を脱ぎ始めていた。

「変態でいい。死にたくない」

「まあ、お互い様だな」

 センチピートも服を脱ぎ始めたその瞬間、折悪く部屋のドアが開いた。番兵が二人、汚い物を見る目をして何やらベトナム語で囁きあい、二人に銃を突き付けて外に出るように促した。

 二人は司令室らしき部屋で椅子に縛り付けられ、大量の勲章を軍服に付けた将校と相対した。

「私は基地司令のグエン少佐。君たちの処遇を決める権限を持っている」

 グエンと名乗った少佐はフランス訛りの英語で挨拶をして意地悪く笑った。

「君たちをどんな風に拷問しようか楽しみにしていたのだが、資本主義的頽廃に毒された汚らわしい性的異常者など拷問する価値もない(注3)」

 グエンはボーイスカウトの顔に唾を吐きかけた。

「羨ましいか?」

 震える声でボーイスカウトが思わぬことを言った。たちまちグエンの顔に怒りが浮かび、ボーイスカウトの顔を力任せに殴りつけた。

「お前たちは我が党の為に働いてもらう」

 グエンが合図をすると、周りを固めていた兵士が二人を椅子から離し、銃で小突きながら部屋の外へと追い出した。

 その日はそのまま部屋に戻された。どちらも流石にもう交わる気にはなれなかった。

 翌朝早くに番兵がやってきて、二人に裸になるように命じた。二人は全裸になると、そのまま基地の中庭に引き出された。

 庭の真ん中に小高い舞台が造られていて、グエンと兵士が数人立っていた。舞台の周りにはどこから連れて来たのか、数百人の将兵が立錐の余地もない程に集められていた。

 二人が舞台に立たされると、グエンが何やらベトナム語で演説をぶち始めた。それを聞くにつれて将兵は興奮し、二人に幾つかの石が投げつけられた。

「さあ、昨日の続きをしろ。さもなければこの場で処刑してやる」

 グエンは残酷な笑みを浮かべ、拳銃を空めがけて撃った。聴衆がそれにこたえるように大歓声を上げた。

「さあ、やれ!」

 今度は二人に銃口が向いた。グエンはとても正気とは思えない顔をしていた。

「仕方がない。やるぞ」

 半ばやけになったセンチピートはボーイスカウトを押し倒した。その瞬間、あろうことかボーイスカウトは激しく射精してグエンの軍服を汚した。

「この!」

 激怒したグエンはボーイスカウトを蹴りつけた。観衆も殺気立っている。しかし、ベトナム人が怒れば怒るほどボーイスカウトの砲身は元気になった。

「センチピート、俺達は資本主義的頽廃の見本だってさ」

 興奮で顔を赤らめながらボーイスカウトはセンチピートにそう告げた。ボーイスカウトはアナポリスでベトナム語を習っていた。

「俺が毒されたのはお前のせいだ」

 苦々しい表情を浮かべながらセンチピートは自分の砲身をしごいてなんとか戦闘態勢に入り、覚悟を決めてボーイスカウトに突入した。ボーイスカウトがたまらず上げた声は観衆の歓声とも怒号ともつかない声にかき消された。

「ほら、もっと腰を使え!」

 拳銃をまた空に向けて乱射し、グエンは吠えながらボーイスカウトの頭を軽く蹴りつけた。その瞬間、センチピートは激しく砲身を締め付けられてうめき声を上げた。

「センチピート、いつもより感じる…」

「お前はそうだろうな」

 周りが騒がしすぎて、二人の会話はグエンにさえも聞こえないようだった。

「あの少佐、俺と『同志』だよ」

「まさか」

 センチピートはなんとか早く事を済まそうと必死だったが、ボーイスカウトには違う物が見えていた。

「ああいう風にゲイを目の仇にする奴は大抵そうさ。俺達が羨ましいんだよ」

「そういうもんか」

「見てみろよ。奴も元気だ」

 そう言われてセンチピートが視線を上げると、ボーイスカウトの読み通りなのか、グエンのズボンの前が微かに張り出していた。

「女々しい奴だ」

「終わったら殺されるかも。せめて羨ましがらせてやろうぜ」

「よし、一世一代のセックスだ!」

 ボーイスカウトの意外に冷静な分析で生来のいたずら心を取り戻したセンチピートは、ボーイスカウトを抱え上げ、対面座位の姿勢に移った。ギャラリーはこれには大いに盛り上がった。

「社会主義者は正常位しか知らないな」

 いたずらっぽく笑ったセンチピートは、激しくボーイスカウトを突き上げながら濃厚なキスをした。

 観衆はあまりに倒錯した光景にどよめいた。グエンに目をやると、なるほど羨望のようなものを感じる複雑な表情をしている。

「ああ、センチピート!もう限界…」

「俺もだ!イくぞ!」

 二人は急ごしらえの舞台ががたがたと音を立てるほど激しく交わり、次の瞬間同時に果てた。

 殺されるかもしれないという恐怖が麻薬的なスパイスになったのか、いつもの何倍もの弾を撃ちまくったような気がした。

「ご苦労。君達には当分こうしてプロパガンダのために働いてもらうぞ」

 グエンはそう言い残して舞台を降りた。二人は番兵に銃で小突かれながら、また元の部屋に戻された。命が助かったという安堵と、何百人という敵に見られながらのセックスという新しい快感の予感に、ボーイスカウトは
臨戦態勢のまま舞台を降りた。 
 


注1:日本軍の捕虜の扱い 空襲の際に降下してきたパイロットは激しく憎まれ、官憲が駆けつけるより先に付近の住民にリンチされる事件が多発した

注2:射出座席とネクタイ 射出座席のメーカーであるマーチンベイカー社は、射出座席を使用して生還したパイロットにネクタイ他の粗品と証明書を贈るサービスを行っている

注3:社会主義とLGBT 北ベトナム他の社会主義国家は一般にLGBTに厳しく、国や体制次第では死刑になることもある。同性愛を資本主義的頽廃と称した
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