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7.行動開始
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「………これは?」
驚きを通り越して冷静になれた。
こんな物が存在するという事は父が承諾したという事。
紙切れに穴が空くほど凝視するが、内容は変わらない。
「今父様が抗議の為に教会へと向かっているが…多分無駄足だな」
「お父様は知らなかったのですか?」
「ああ、こんな強硬手段に出るとはな。ルーファス王子も背に腹は変えられぬって言うことか」
「ここの教会は王家の懇意にしている教会ですね」
少し離れた場所に立っていたカインが近付いてきて私の手元を覗き込みながら口許に手を当てて考え込むような雰囲気を出す。
慕っている相手に自分の婚約が締結してしまった証を見られるのも複雑な気分だ。
「カイン、お前居たんだな」
「お兄様より先にこの部屋に居ましたよ」
「また逢い引きか」
兄がニヤニヤしながら肘でカインを突く。
カインを弟のように扱う兄の表情は悪戯っ子のように輝いていた。
「マイオン様、この手紙は今日届いたものですか?」
カインは兄の態度に慣れているからか、思いっきり流して話を進める。
その顔はふざけている兄とは対照的に困惑のような少し怒っているような不思議な表情だった。
「先刻。教会の使いという男が届けに来た。ダンが対応したみたいだが、相手は名乗らずに手紙を届けてすぐに帰ったらしい」
「怪しさ満点ね」
どこの使いでも名乗らずに物だけを置いていくなんて有り得ない。
素性を知られたくない人に違いないと誰もが確信していた。
「だが、うちの秘書は優秀なもんでな、その男の顔を覚えていた」
「誰だったのですか?」
「聞いて驚け。うちの仕事に携わってるラムーダ商団、団長補佐のミュルヘという男だ」
ここで出てきた名前にカインと目を合わせて驚く。
まさかここで名前が出てくると思わなかった人物は、今回の私の婚約問題にも何かしら関わりがあるようだ。
これで何となくだがルーファス様との繋がりが見えてきた気がする。
私達にとって吉兆なのではないかと勝手に心が踊り始めた。
「ここでその名前を聞くとは思わなかったわ」
「ん?ミュルヘを知っているのか?」
「はい、カインが見つけてきたの」
先程私が見ていたカインが集めた資料を兄に差し出す。
一枚一枚丁寧に確認していく兄は、普段大雑把な性格だが仕事は丁寧かつ正確と評判のある男だ。
「これは驚いた。お前をシルヴィアに付けているのは勿体ない。すぐに俺の補佐にしたいくらいだ」
「それはお断り致します」
「即答かよっ!まっ知ってたけどな!」
丁寧に頭を下げるカインの頭を兄が笑いながらぐしゃぐしゃにするように撫でる。
「それにしても俺も父様でさえここまでたどり着けなかったのに、この短期間でよくここまで揃えたな」
「偶々。運が良かったのです」
「…………」
「…………」
にこやかなカインと訝しげな兄の間に奇妙な空気が流れる。
手をパンッと鳴らして二人の意識を自分に向け、立ち上がって腰に手を当てて笑いかけた。
「もう残された時間が少ないようだから、カインが″偶々″見付けてくれたこの資料を使って証拠の発見を急がないと!」
資料の入った紙袋を抱えようと手を伸ばすと、それよりも先にカインが持ち上げてくれた。
「急ぎましょう」
心休まるような笑顔を向けられて、少し力が湧いた気がした。
父が教会へ出掛けている為、ダンが兄を呼びにやって来た。
「俺に仕事が回ってきたか…シルヴィア、荷物の整理は早めにしておけ。身軽に動けるようにな」
兄の言いたいことが理解出来た事が嫌だった。
夜逃げへのカウントダウンが始まったみたいだ。
「カインも一緒にどうだ?」
「やめてください。カインを巻き込まないで下さい」
家族が巻き込まれるのも嫌なのに好きな人まで巻き込みたくない。
そんな思いが声音に乗って、少しきつめな言い方になってしまった。
「後悔だけはするなよ」
兄は怒るでもなく少しだけ悲しそうな表情をしながら部屋を後にした。
アンルーシーの事を思っているのかなと勝手に想像する。
「マイオン様はシルヴィア様が心配なんですよ」
「それくらいは分かっているわ」
静かに閉まった扉を見つめて自然と溜め息が出る。
「…何とかしないと。ミュルヘは何か知っているのかしら」
資料にはミュルヘの事が事細かに明記されていた。
住所に家族構成、行きつけの店や好みのタイプ。
明らかにこの情報はおかしいのが分かる。
カイン曰く最下層の人間にも情報網や人との繋がりがあると言っていた。
私はそれをそのまま飲み込み、追求するのを止めた。
「ミュルヘに直接接触する方がいいかもしれないわね」
「では、私がやります」
「駄目よ。時間も無いし、私が直接行くわ」
カインが言うであろう言葉は分かっていた。
だから顔を真っ直ぐ見つめながら食い気味に反対する。
「シルヴィア様がですか!?それは賛成出来ません」
「お父様とお兄様、ダン達は論外。カインとアンルーシーは面が割れているし、他を雇っている時間もお金もない。家の者はこの危険に巻き込む訳にはいかない。必然的に私自身が最適な人物だと思うの」
「シルヴィア様だって面が割れてます」
「カインは見慣れてるだろうけど、この素顔は家の者以外には馴染みがないのよ?そこに少し大人っぽい化粧をすれば大丈夫よ」
手近な棚にあった手鏡を覗きながら髪をサラリと揺らして見せる。
それを少し頬を染めたカインが俯きながらも見ていた。
「しかし相手は商団なんです。働き手は男が圧倒的に多いのは分かっていますか?」
「それは……分かっているわ」
自分の精神面を気にしてくれている。
それが分かっていてももう待てないし止まれない。
「では私を共に連れて行って下さい。それが最低条件です」
「でも…」
「ここで押し問答している場合じゃないですよね?私と一緒にミュルヘに会ってルーファス様の事を聞き出し、速やかに帰宅する。よろしいですね」
いつもの柔らかい表情ではなく、真面目で冷たさまで感じるカインの顔を見て反射的に頷いてしまった。
今のカインは犬のような可愛さが感じられない。
誰でも頷いてしまうような威圧感と王者のような風格が漂っていた。
驚きを通り越して冷静になれた。
こんな物が存在するという事は父が承諾したという事。
紙切れに穴が空くほど凝視するが、内容は変わらない。
「今父様が抗議の為に教会へと向かっているが…多分無駄足だな」
「お父様は知らなかったのですか?」
「ああ、こんな強硬手段に出るとはな。ルーファス王子も背に腹は変えられぬって言うことか」
「ここの教会は王家の懇意にしている教会ですね」
少し離れた場所に立っていたカインが近付いてきて私の手元を覗き込みながら口許に手を当てて考え込むような雰囲気を出す。
慕っている相手に自分の婚約が締結してしまった証を見られるのも複雑な気分だ。
「カイン、お前居たんだな」
「お兄様より先にこの部屋に居ましたよ」
「また逢い引きか」
兄がニヤニヤしながら肘でカインを突く。
カインを弟のように扱う兄の表情は悪戯っ子のように輝いていた。
「マイオン様、この手紙は今日届いたものですか?」
カインは兄の態度に慣れているからか、思いっきり流して話を進める。
その顔はふざけている兄とは対照的に困惑のような少し怒っているような不思議な表情だった。
「先刻。教会の使いという男が届けに来た。ダンが対応したみたいだが、相手は名乗らずに手紙を届けてすぐに帰ったらしい」
「怪しさ満点ね」
どこの使いでも名乗らずに物だけを置いていくなんて有り得ない。
素性を知られたくない人に違いないと誰もが確信していた。
「だが、うちの秘書は優秀なもんでな、その男の顔を覚えていた」
「誰だったのですか?」
「聞いて驚け。うちの仕事に携わってるラムーダ商団、団長補佐のミュルヘという男だ」
ここで出てきた名前にカインと目を合わせて驚く。
まさかここで名前が出てくると思わなかった人物は、今回の私の婚約問題にも何かしら関わりがあるようだ。
これで何となくだがルーファス様との繋がりが見えてきた気がする。
私達にとって吉兆なのではないかと勝手に心が踊り始めた。
「ここでその名前を聞くとは思わなかったわ」
「ん?ミュルヘを知っているのか?」
「はい、カインが見つけてきたの」
先程私が見ていたカインが集めた資料を兄に差し出す。
一枚一枚丁寧に確認していく兄は、普段大雑把な性格だが仕事は丁寧かつ正確と評判のある男だ。
「これは驚いた。お前をシルヴィアに付けているのは勿体ない。すぐに俺の補佐にしたいくらいだ」
「それはお断り致します」
「即答かよっ!まっ知ってたけどな!」
丁寧に頭を下げるカインの頭を兄が笑いながらぐしゃぐしゃにするように撫でる。
「それにしても俺も父様でさえここまでたどり着けなかったのに、この短期間でよくここまで揃えたな」
「偶々。運が良かったのです」
「…………」
「…………」
にこやかなカインと訝しげな兄の間に奇妙な空気が流れる。
手をパンッと鳴らして二人の意識を自分に向け、立ち上がって腰に手を当てて笑いかけた。
「もう残された時間が少ないようだから、カインが″偶々″見付けてくれたこの資料を使って証拠の発見を急がないと!」
資料の入った紙袋を抱えようと手を伸ばすと、それよりも先にカインが持ち上げてくれた。
「急ぎましょう」
心休まるような笑顔を向けられて、少し力が湧いた気がした。
父が教会へ出掛けている為、ダンが兄を呼びにやって来た。
「俺に仕事が回ってきたか…シルヴィア、荷物の整理は早めにしておけ。身軽に動けるようにな」
兄の言いたいことが理解出来た事が嫌だった。
夜逃げへのカウントダウンが始まったみたいだ。
「カインも一緒にどうだ?」
「やめてください。カインを巻き込まないで下さい」
家族が巻き込まれるのも嫌なのに好きな人まで巻き込みたくない。
そんな思いが声音に乗って、少しきつめな言い方になってしまった。
「後悔だけはするなよ」
兄は怒るでもなく少しだけ悲しそうな表情をしながら部屋を後にした。
アンルーシーの事を思っているのかなと勝手に想像する。
「マイオン様はシルヴィア様が心配なんですよ」
「それくらいは分かっているわ」
静かに閉まった扉を見つめて自然と溜め息が出る。
「…何とかしないと。ミュルヘは何か知っているのかしら」
資料にはミュルヘの事が事細かに明記されていた。
住所に家族構成、行きつけの店や好みのタイプ。
明らかにこの情報はおかしいのが分かる。
カイン曰く最下層の人間にも情報網や人との繋がりがあると言っていた。
私はそれをそのまま飲み込み、追求するのを止めた。
「ミュルヘに直接接触する方がいいかもしれないわね」
「では、私がやります」
「駄目よ。時間も無いし、私が直接行くわ」
カインが言うであろう言葉は分かっていた。
だから顔を真っ直ぐ見つめながら食い気味に反対する。
「シルヴィア様がですか!?それは賛成出来ません」
「お父様とお兄様、ダン達は論外。カインとアンルーシーは面が割れているし、他を雇っている時間もお金もない。家の者はこの危険に巻き込む訳にはいかない。必然的に私自身が最適な人物だと思うの」
「シルヴィア様だって面が割れてます」
「カインは見慣れてるだろうけど、この素顔は家の者以外には馴染みがないのよ?そこに少し大人っぽい化粧をすれば大丈夫よ」
手近な棚にあった手鏡を覗きながら髪をサラリと揺らして見せる。
それを少し頬を染めたカインが俯きながらも見ていた。
「しかし相手は商団なんです。働き手は男が圧倒的に多いのは分かっていますか?」
「それは……分かっているわ」
自分の精神面を気にしてくれている。
それが分かっていてももう待てないし止まれない。
「では私を共に連れて行って下さい。それが最低条件です」
「でも…」
「ここで押し問答している場合じゃないですよね?私と一緒にミュルヘに会ってルーファス様の事を聞き出し、速やかに帰宅する。よろしいですね」
いつもの柔らかい表情ではなく、真面目で冷たさまで感じるカインの顔を見て反射的に頷いてしまった。
今のカインは犬のような可愛さが感じられない。
誰でも頷いてしまうような威圧感と王者のような風格が漂っていた。
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