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2話「仰向け(あおむけ)」
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ボクがここに来て初めての朝を迎えた。
動き始めるここの人たちにまたドキドキが止まらなくなってきた。
小さい子がこっちに来た。
しかしボクの不安を取り払うかのようにたくさん撫でてくれただけであった。
次々と他の人たちも同じことをし、またご飯もくれた。
小さな子がボールのようなものを投げて、それを何回か繰り返すうちに、ボクも少しずつわかってきた。走って取りに行って、咥えて持って帰ってくる。
そうするとすごい笑顔で迎えてくれる。
「もしかしてボクと遊んでくれているのかな?」
そう思った。
人間の言葉は相変わらずわからない。
けどみんなボクを見ながら何度もこの言葉を繰り返すことがわかった。
「サン」
「サン」と。
ボクは何日かをここで過ごし、何十回とそう呼ばれることで違和感を感じ、何百回と呼ばれる頃には「ボクの名前なのだ」と理解できていた。
それでもまだまだボクの不安が消えたわけではなかった。だが「何かをされてしまうかも」という恐怖がすぐ目の前に待っているかも。
とゆう感覚はきえていたのかもしれない。
この家に来て、それなりの日々を過ごしただろう。何日も何日もかけてボクはここにいる人たちの言葉をいくつか理解できていた。
一番大きい男の人は「パパ」って名前だ。次に大きい女の人は「ママ」って名前。そしていつもボール遊びを一緒にしてくれているこの男の子は「あっちゃん」だ。
みんなそう呼び合っている。
その中にはボク(サン)の名前も一緒に呼ばれることが度々あり、呼ばれるたびに飛び上がるほどの嬉しさだった。
でもまだ「お散歩」は怖い。ここの家から出るのが怖かった。また別のどこかへ連れていかれて、もう戻れなくなるのではないかと。
お散歩に出かけるたびに不安を感じて、みんなが首にひもを付けに来るのを拒んだりした。
もちろん外の見たことない景色を見たらワクワクするし、公園というところに寄り道してくれたりして遊んだりしたら楽しいし。
でもボクの心の奥底では、「今日も無事に家に帰れますように」
とゆう想いを捨てることはまだ出来ていなかった。
何度もお散歩に行っているうちに、みんなの家に戻っていく道と匂いを覚えてきた頃、その帰り道だけは心の底からお散歩を楽しめていた。
そして何よりもお散歩から帰ってきたときの安心感と、ママにもらえるご飯とお水のおいしさはたまらないものがあった。前に過ごしていた場所で食べるご飯とは比べ物にならない幸福感がこの食事にはあった。
「おすわり」や「お手」「待て」も出来るようになってきた。
散歩の後のご飯やおやつのときはボクのテンションが上がりすぎて、まだママが持ってきてくれる前から座って、そしてまだ早いのに焦って片手を浮かしちゃうときもある。
そんなボクを見てみんなは笑っていた。
ある日のことだった。ぼくはあっちゃんとパパとお散歩に出かけていた。
たくさん公園で遊んでもらった帰り道、狭い道で同じように散歩している他の犬とすれ違う時だった。
ボクよりずっと大きかったからなのか、とっさにボクは繋がれたひもを引っ張り、方向を変えた。
そのときうっかり道路脇の排水路に落ちてしまった。
ボクもびっくりしたが小さな溝だったし、パパもすぐ抱えてくれたからすぐ上がってこれたのだけど、全身が泥だらけになってしまった。
そしてそのときにすれ違ったボクよりずっと大きい茶色い犬にこう言われた。
「おまえそんなドジなことしてたらご主人様に捨てられちまうぞ」
「ほら、お前の主人、困った顔をしているだろ」と。
ボクもあっちゃんとパパを見上げたら、確かに困った顔をしているように見えた。
そのあとボクはしょんぼりと道を歩いていた。
「このままじゃ家に入れてもらえないかな」「きっとボクに呆れているだろうな」など色々と考えていた。
そして家の前に着いたとき、あっちゃんがボクをよいしょと重たそうに持ち上げた。ボクはびくびくしていたが、そのまま家の中のある場所に連れていかれた。
ここはボク以外のみんなが体とかを毎日洗っているところだ。
ボクは少し生ぬるい水であっちゃんとパパに汚れた体を丁寧に洗ってもらった。
途中でかゆくてブルブル震わせて二人に水をかけちゃったりしたが、二人ともすごく笑ってくれた。
丁寧に丁寧に、洗って拭いてくれて、ボクの汚れはきれいになくなった。
それからボクはいつもの定位置に戻ると、また変わらずママさんが食事を出してくれた。
こんな迷惑をかけたのにボクを怒るわけでもなく、いつもと変わらずにみんな笑顔でボクを撫でながら話かけてくれている。
今までボクはずっと不安だった。
いつかまたどこか違うところへ連れていかれるのではないかという心配を常に頭の片隅に置きながら生きていた。
でも今日のことがあって、
「もしかしたらずっとここにいていいのかも」
と感じることができた、そんな一日であった。
ボクはここへきてまだ長くはないが。
あっちゃんに遊んでもらい、パパに守ってもらい、ママにお世話をしてもらい、みんなからたくさんの愛情をもらっていることになんとなく気づいてきた。
ボクはこの家に来て初めて、もしかすると生まれて初めてのことだったかもしれない。
ボクはその夜、
仰向けになって熟睡した。
ボクがここに来て初めての朝を迎えた。
動き始めるここの人たちにまたドキドキが止まらなくなってきた。
小さい子がこっちに来た。
しかしボクの不安を取り払うかのようにたくさん撫でてくれただけであった。
次々と他の人たちも同じことをし、またご飯もくれた。
小さな子がボールのようなものを投げて、それを何回か繰り返すうちに、ボクも少しずつわかってきた。走って取りに行って、咥えて持って帰ってくる。
そうするとすごい笑顔で迎えてくれる。
「もしかしてボクと遊んでくれているのかな?」
そう思った。
人間の言葉は相変わらずわからない。
けどみんなボクを見ながら何度もこの言葉を繰り返すことがわかった。
「サン」
「サン」と。
ボクは何日かをここで過ごし、何十回とそう呼ばれることで違和感を感じ、何百回と呼ばれる頃には「ボクの名前なのだ」と理解できていた。
それでもまだまだボクの不安が消えたわけではなかった。だが「何かをされてしまうかも」という恐怖がすぐ目の前に待っているかも。
とゆう感覚はきえていたのかもしれない。
この家に来て、それなりの日々を過ごしただろう。何日も何日もかけてボクはここにいる人たちの言葉をいくつか理解できていた。
一番大きい男の人は「パパ」って名前だ。次に大きい女の人は「ママ」って名前。そしていつもボール遊びを一緒にしてくれているこの男の子は「あっちゃん」だ。
みんなそう呼び合っている。
その中にはボク(サン)の名前も一緒に呼ばれることが度々あり、呼ばれるたびに飛び上がるほどの嬉しさだった。
でもまだ「お散歩」は怖い。ここの家から出るのが怖かった。また別のどこかへ連れていかれて、もう戻れなくなるのではないかと。
お散歩に出かけるたびに不安を感じて、みんなが首にひもを付けに来るのを拒んだりした。
もちろん外の見たことない景色を見たらワクワクするし、公園というところに寄り道してくれたりして遊んだりしたら楽しいし。
でもボクの心の奥底では、「今日も無事に家に帰れますように」
とゆう想いを捨てることはまだ出来ていなかった。
何度もお散歩に行っているうちに、みんなの家に戻っていく道と匂いを覚えてきた頃、その帰り道だけは心の底からお散歩を楽しめていた。
そして何よりもお散歩から帰ってきたときの安心感と、ママにもらえるご飯とお水のおいしさはたまらないものがあった。前に過ごしていた場所で食べるご飯とは比べ物にならない幸福感がこの食事にはあった。
「おすわり」や「お手」「待て」も出来るようになってきた。
散歩の後のご飯やおやつのときはボクのテンションが上がりすぎて、まだママが持ってきてくれる前から座って、そしてまだ早いのに焦って片手を浮かしちゃうときもある。
そんなボクを見てみんなは笑っていた。
ある日のことだった。ぼくはあっちゃんとパパとお散歩に出かけていた。
たくさん公園で遊んでもらった帰り道、狭い道で同じように散歩している他の犬とすれ違う時だった。
ボクよりずっと大きかったからなのか、とっさにボクは繋がれたひもを引っ張り、方向を変えた。
そのときうっかり道路脇の排水路に落ちてしまった。
ボクもびっくりしたが小さな溝だったし、パパもすぐ抱えてくれたからすぐ上がってこれたのだけど、全身が泥だらけになってしまった。
そしてそのときにすれ違ったボクよりずっと大きい茶色い犬にこう言われた。
「おまえそんなドジなことしてたらご主人様に捨てられちまうぞ」
「ほら、お前の主人、困った顔をしているだろ」と。
ボクもあっちゃんとパパを見上げたら、確かに困った顔をしているように見えた。
そのあとボクはしょんぼりと道を歩いていた。
「このままじゃ家に入れてもらえないかな」「きっとボクに呆れているだろうな」など色々と考えていた。
そして家の前に着いたとき、あっちゃんがボクをよいしょと重たそうに持ち上げた。ボクはびくびくしていたが、そのまま家の中のある場所に連れていかれた。
ここはボク以外のみんなが体とかを毎日洗っているところだ。
ボクは少し生ぬるい水であっちゃんとパパに汚れた体を丁寧に洗ってもらった。
途中でかゆくてブルブル震わせて二人に水をかけちゃったりしたが、二人ともすごく笑ってくれた。
丁寧に丁寧に、洗って拭いてくれて、ボクの汚れはきれいになくなった。
それからボクはいつもの定位置に戻ると、また変わらずママさんが食事を出してくれた。
こんな迷惑をかけたのにボクを怒るわけでもなく、いつもと変わらずにみんな笑顔でボクを撫でながら話かけてくれている。
今までボクはずっと不安だった。
いつかまたどこか違うところへ連れていかれるのではないかという心配を常に頭の片隅に置きながら生きていた。
でも今日のことがあって、
「もしかしたらずっとここにいていいのかも」
と感じることができた、そんな一日であった。
ボクはここへきてまだ長くはないが。
あっちゃんに遊んでもらい、パパに守ってもらい、ママにお世話をしてもらい、みんなからたくさんの愛情をもらっていることになんとなく気づいてきた。
ボクはこの家に来て初めて、もしかすると生まれて初めてのことだったかもしれない。
ボクはその夜、
仰向けになって熟睡した。
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