愛するということ

緒方宗谷

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30.友達関係 

1.有紀子と希海

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 2月。暦では春なのに、夜のうちに降った雪が積もって町は一面銀世界だ。有紀子の家の周りには、家庭菜園や貸菜園が多いので、足跡一つない雪景色が窓から見える。
 玄関に母親が用意したコートは、一昨年の年末に加奈子とデパートに行って選んだやつだ。けっこうな押し問答があった後にこれを買ったんだと有紀子は思い出す。
 学校に着ていくのだから地味な方が良い、と主張する有紀子と、色気が無いから別のにしろ、と主張する加奈子との攻防があった。
 結局有紀子の主張が通って濃い紺色のダッフルコートを買ったが、加奈子が一矢報いて丈がお尻くらいまで短くなった。それに、可愛い裏地付きライトモッサーで、シルエットも女の子らしくて可愛い。有紀子が選んでいたら、もっと学生コートらしいデザインで色気も何もなかっただろう。
 学校へ向かう途中、短い黒髪を揺らしながら後ろから駆け寄って来た希海が、有紀子に声をかけた。
 「おはよう、ゆっこ」
 「あ、おはよう、今日寒いね」
 「本当、私起きれなくて遅刻しそうだったよ」
 ここ最近、有紀子は、希海、苺花、真奈美の3人と一緒にいることが多い。特に希海とは小学校の時友達だったから、今は一番の仲良しだ。
 寒い朝らしい挨拶が済むと、すぐに希海が言った。
 「そう言えばゆっこって、最近ずっと加奈ちんと話さないね、まだ仲直りしてないの?」
 「んー、ケンカしたわけじゃないの、ほら、今音楽にご執心だから」
 「ああ、ああ言うの、ゆっこ聴かなそうだもんね、私もだけど」
 希海がケラケラ笑って続ける。
 「でも私、またゆっこと友達になれてうれしいよ。だって中学の時は全然だったじゃない? クラスも一緒にならなかったし」
 有紀子は、当時のことを思い出して言った。
 「そう言えばそうだよね、私、希みんと離ればなれになったって気が付いた時、とても悲しかったんだよ、なんか離れ小島同士になっちゃったみたいで」
 「あ、分かる、お互いに新しい仲のいいグループができちゃうから、近づく機会がなかなかないんだよね、クラスも違うし。
  なんか、中学に上がった途端、色々なことが複雑になるよね。ついこの間まで小学生だったのにさ」
 「本当、小学生の時は少数派だったおませさんの地位が急に上がって、憧れの的になるの。私ついていけなくて置いてかれちゃった」
 「あはは、ゆっこはまだいいよ、可愛いもん。私必死だったよ、可愛いメイク覚えてさ。ついていけないと絶対いじめられるし」
 それを聞いて、有紀子は加奈子の顔が頭に浮かんだ。
 「でも私、中1の時はほとんど1人だったよ。中2になって加奈子と友達になってから、沢山友達ができたの」
 「ふうん、加奈ちんって誰とでも友達になっちゃうもんね」
 「うん、私が加奈と出会えたのは奇跡かも。そうじゃなかったら、今でも1人で本読んでたかも」
 「あはは、大丈夫よ、私と同じクラスだから」
 有紀子が加奈子と会話を交わさなくなってから、だいぶ経つ。今まで色々な人と友達になったり、そうでなくなったりしてきた。有紀子は、加奈子ともそうなってしまうかもしれないなんて、とても信じられない。
 小学生の時あんなに仲の良かった希海と、中学では一言も声を交わしていなかったことを思い出して、有紀子は加奈子との距離をまざまざと思い知らされた気分になった。
  
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