愛するということ

緒方宗谷

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49.合流

3.ピンチ

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 有紀子の耳には、なぐり合う音だけが聞こえた。
 最初の一撃を交差させた左腕と右の手のひらで受けた陸は、即座に内ももを蹴り上げて鉄パイプを奪い取り放り投げた。そのまま乱打戦に縺れこむ。
「大丈夫、有紀?」
 加奈子が身を支えに駆け寄って来てきた。かけられたその声に有紀子がようやく目を開けると、からくも殴り倒した陸が馬乗りになって殴打している只中だった。
「大丈夫だよ、有紀、陸君強いみたいだから」
 加奈子が言う。震えながらも落ち着いたトーン。
 長髪は、キノコ頭が勝てないことをすぐに察していた。逃げることを考えたが、辺りを見渡して人が見ている様子が無いのを確認する。
(ギャラリーが来ないなら、このクソガキ殺してやる)
 女を1人さらってやれないか、という考えが頭をよぎる。しかし、乗ってきた黒のワゴンは大分離れた駐車場に停めてある。
「調子に乗ってんじゃねーぞ、クソガキめ」
 落ちた鉄パイプが長髪の目に留まった。咽び泣きながら繰り返し謝るキノコ頭にもはや戦意は無い。やるなら今だ、と長髪は意を決した。
「あっ! 後ろ‼」
 有紀子の声に陸が振り下ろす腕を止めた時、後ろでは長髪が歩み寄って鉄パイプを振り上げたところだった。
(落ちろ‼)
 長髪が力む。
 ガツッという鈍い音と同時に、陸の視界がすぐさま砂嵐に覆われプツッと途切れたように真っ暗になった。
 陸は、這うようにキノコ頭から離れ、頭を押さえてよろけて膝をつく。頭部から流血していた。生温かい血が首筋を伝う。
「チッ、落ちなかったか」長髪が唾を吐く。
 死んでいたかもしれない一撃に悪びれる様子もなく、長髪が続けて言った。
「さあ、どうしてくれようか」
 さっきまで泣いて懇願していたキノコ頭も、一転して陸を見下ろしてほくそ笑む。
「おー痛ってー。このバカこんなに殴りやがって。聡、最後俺にやらせろや」
 キノコ頭がそう言った時、工事現場の出入り口に騒ぎが起き始めた。2人が見るとギャラリーが集まり出していた。
「おい聡、やべー逃げっぞ」
 駆けだしたキノコ頭を見た後視線を陸に移した長髪は、野球のバッターの様なポーズをとった。
「これで最後だ!」
 左足をあげて鉄パイプを振るう。
「陸君‼」
 有紀子が叫んだ。
 意識が朦朧とした陸の脳裏に、7歳の有紀子が叫ぶ姿が浮かんだ。

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