蜜吸のスズと白蛇のハル

緒方宗谷

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友達を見捨てない  

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 キラキラと煌めく木漏れ日が差し込む梢の下は、そよ風が木々の間を吹き抜ける度に、ササラササラと精達のお喋りが木霊します。
 楽しいハイキングであるのでしたら、今頃上を見上げて大きく深呼吸していることでしょう。なんせ空気はとても澄んでいますし、吹き抜ける風が頬を撫でてヒンヤリとても気持ちが良いのですから。
 そんな清々しい森林の中で足元ばかり見て歩いてきたスズでしたが、いくらか余裕が出てきました。
 「ちょっと、休憩していきましょう? わたし、羽根も乾いてきたし、もう飛べそうなのよ。
  お昼食べそこなっちゃったから、何か探してくるわね」
 そう言ってスズは飛んでいきました。ハルも辺りを探します。
 「何か土の中に埋まっているのね? あなたはだーれ?」何かに気付いたハルが尋ねました。
 「ん? ワシかい? ワシはトリュフだよ」
 掘ってみると、ちょっと柔らかい石ころが出てきました。
 「ワシャ石ころじゃないよ、れっきとした茸じゃよ」
 「本当に? 変な形、とても茸には見えないわ」
 ハルは、久しぶりに笑顔を見せました。
 「泣いていたようだね。そうだ、良いことを教えてあげよう。
  少し行ったところの赤松にマツタケの爺さんがおるんじゃが、とてもさっぱりとした味わいなんじゃわい。
 それにまた良い香りがするんじゃ、清々しくてのう、心の雲なんか飛ばしてくれて、晴れやかになれるぞい」
 「本当? でもお爺ちゃんも美味しそうよ」
 「ああ、そうだとも、だがワシは大人の味じゃからな、あと9000年位したら、また来なさい」
 ハルは言われた通りに、赤松の精霊の所に行って言いました。
 「赤松の精霊様、あっちにいたトリュフのお爺ちゃんが、マツタケのお爺ちゃんを食べてごらんていうから来たのよ」
 「そうかい、良いとも、今生やしてあげるから待っておいで」
 そう言って眷属のマツタケに言って、新しい松茸を生やしてくれました。赤松の精霊は、とても疲れているハルの様子を見て、自分で作った松脂の飴と、松の種で作った薄焼きお煎餅をくれました。
 「ありがとー、精霊様」
 ハルは、大喜びで戻って行きました。
 トリュフの精とハルがお話をしていたちょうどその頃、スズは楓の精とお話をしていました。
 「楓の精霊様、どうかあなたの蜜を分けてくださいな」
 「良いわよ、ちょうど沢山溜まって、壺に詰めようと思っていたところなのよ。  
  手伝ってくれるのなら、少し分けてあげても良いわよ」
 スズはとても疲れていましたが、木の実や葉っぱを食べられないハルの事を思うと、何としてでも蜜を持って帰ってあげなければと思っていたので、気力を振り絞って、くちばしで何か所も皮を突いて、筒状の笹竹を刺していきました。その下に、楓の精霊が壺を置いていきます。
 なんとか言われた通りに笹竹を刺したスズは、もうクタクタで動くことが出来ません。しばらくして、小さな壺にメープルシロップが溜まったので、それを1壺もらうことが出来ました。
 「ありがとー、精霊様」
 本当はその場で飲み干してしまいたかったけれど、スズは我慢しました。メープルシロップなんて、ハルは舐めた事はないでしょう。スズだってないのです。ハルの喜ぶ顔が見たくて、急いでもとの場所に戻りました。
 赤松の精霊に焼いてもらったマツタケと土瓶蒸しはとても良い香りで、心の雲が晴れていきます。松脂の飴は筋肉痛や打撲傷を癒してくれました。更に、松の種の薄焼きせんべいを食べると、不思議と疲れが抜けていきます。メープルシロップはとても甘くて、天にも昇る気持ちになりました。既に天にいるのですが。
 「こういうハプニングも良いものね」スズがハルに微笑みかけました。「こんな事が無ければ、マツタケなんて食べる機会は無かっただろうし、メープルシロップも味わう事はなかったはずよ」
 ハルは自分のせいでこんな事になっているので、笑うのを躊躇していました。ですがスズが微笑んでくれたので、心から楽しくなって「うんっ」と返事をしました。
 あまり食べると調子が悪くなると思ったハルは、マツタケをガムの様に嚙んで、迸る汁を堪能しました。災い転じて福となるとはこの事です。何事もなく遊んでいては、こんなピクニックは楽しめなかったでしょう。
 ですが災難は続くものです。ようやくお城にたどり着いた頃には、もう外は真っ暗でした。既に閉門時間を過ぎていて、中に入れません。夜目の利かないスズはとても怖がっています。ハルに手を引いてもらわないと、どこをどう進んで良いのやら分かりません。
 「どうしようスズちゃん、お家に帰れないわ。
  こんなところで、朝まで過ごすなんて、とても怖いわ」
 「わーん! わたし目が見えないのよ!? どこもかしこもお化けがいるわ! 連れ去られてしまうわ!」
 「大丈夫よ、わたし夜目が利くから。
  近くにお化けはいないから、大丈夫よ」
 そう言うハルも怖くなってきました。真っ暗な中、外で2人きりなので、大きな声をあげて泣きだします。一緒に「バラ様~っ、バラ様~っ!」と助けを乞いました。
 眷属に主人を召喚する力はありませんし、距離が遠すぎて2人の声はバラには届きません。ですが、2人が暗くなっても帰ってこない事を心配していたバラは、堀の外に2人がいる事に気が付いていました。泣き叫ぶ様を見ていたバラは、見かねてツルを伸ばします。
 「あっ! 見てスズちゃん、バラ様のツルが伸びてくるわ」
 「本当? わたしには見えないわ」
 ハルはスズの手を引いて、お堀の傍までやってきました。ようやくツルに気が付いたスズは、ひょいひょい登って行きます。ハルは1人でその姿を見ているだけ。何故か登って行こうとしませんでした。
 スズは、塀の上から「早くおいで」とハルを呼びます。スズは人の姿だけれど、本性は鳥、羽ばたいてトゲの間をピョンピョン飛んで行けました。でもハルの本性は蛇、ツルに巻き付いて登るしかないので、トゲで怪我をしちゃいます。
 「登れないもん!!」ハルは叫びました。
 ハルは悲しいやら恥ずかしいやらで、怒りんぼになっています。
 スズは後ろの城を見ました。真っ暗なので見えませんが、ツルは城から伸びているはず。2の門もツルを登って内側に入れるはずですから、このままお家に帰れます。
 でもスズは嫌でした。何が嫌か分かりませんが、エイって外へ飛び降りて、手をバタバタさせて堀を飛び越えて、フヨフヨ舞い降りていきます。
 「どうして?」と、グスリとするハルが聞きました。
 「だって、お友達だから」
 スズがにっこり微笑んで言いました。するとイバラにバラが沢山咲いて、足を置いたり手で掴んだり出来るようになりました。おかげで、ハルもなんとか登れそうです。2人共ツルを登ってお家に帰ることが出来ました。


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