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31 悪魔に魂を奪われても諦めないで、いつか必ず取り戻せるから
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積乱雲の中ではぐれたスズとハルは、運よく死なずに、バラと姫が落ちたのと同じ時代の同じ国に落ちてきました。
辺りをキョロキョロ見渡して、状況を飲み込めないよ様子のスズが叫びます。
「ここはどこ! ハルちゃん!?」
「分からないわ。花の里では無いようだけれど・・・」
「本当、戦争が嘘みたい。バラ様はここにいるのかしら」
しばらく辺りを探し回った2人は、ようやくバラを見つけて、神気を感じる方向に飛んで行きます。
もはや神気の一滴も残っていないと察したバラは、声も出せず絶望に打ちひしがれていました。姫のドレスの胸元を握りしめて、絶望のどん底から這い上がったバラは、追い腹を切る覚悟を決めました。
その時不意に、姫がバラの心に触れた様な気がしました。バラは、顔を歪めてさらに泣きました。姫は後を追うことを望んでいない、と察したのです。
ですが、バラは、その意に従いたくありませんでした。自らの胸に手を突きたて、心臓を握りつぶし、己の魂魄を取り出したのです。
ザクロ石で作られたようなローズヒップの勾玉をかみ砕いて、嚙み酒を醸したバラは、姫に口づけをして奉献しました。
なんとしてでも姫だけは生かす。バラの決意は変わりません。姫は自らの命と引き換えにバラを生かそうとしました。それに応えるためには、バラも自らの命と引き換えに姫を生かさなければなりません。どうしても、バラは、姫への気持ちを示したかったのです。
バラの体は、急速に飛散を始めました。砕け散った姫の魂魄を繋ぎとめようと、薔薇酒が姫に滲み入っていきます。しかし、自らの生命全てを醸した甘く芳醇な香りの神酒ですら、姫の生命を維持しきれません。
走馬灯のように巡る姫との思い出がバラに力を与えました。追懐する姫は、どんな困難に道を阻まれようと、いつ何時も諦めたことはありません。
バラは、ずっとその姿を見てきたではありませんか。まだ何か手はあるはずです。なんせ、まだバラも姫も、体はこの世に留まっているのですから。
差し伸べた手の指先1cm先に幸せがあるにもかかわらず諦めてしまったのでは、後悔してもし切れません。諦めてしまっては、その1cmも万里先と変わらないのです。
多くの人々は、その1cmを万里先と思い込んでいるから、成功を手にすることが出来ません。ですが、姫は、望むものを全て手に入れてきました。そして、バラも手に入れてきたのです。
2人の歴史を余すことなく思い出したバラにとって、人生の最後に最も大切なものを諦める、という選択肢はありません。
不意にバラは振り返りました。その道には誰もいません。ですが、バラは向こうの十字路を見つめ続けていました。
バラは何かを確信していました。そして確信は現実のものとなります。見つめていた十字路から2人の女性が出てきました。目を凝らしてよく見ると、2人共妊娠しているようです。息を飲みました。間違いなく妊婦なのです。
バラは、姫を妊婦のお腹に宿らせて、人の器を用いて転生させることを思いつきました。1人は向こうに曲がってしまいましたが、1人はこちらにやってきます。バラ達の姿は見えていないようです。
バラは、全身を使って重くて上がらない腕を振るい、そばを通るこの女性に狙いを定めて、姫をその子宮に封じました。
バラは、歩いて行く人の女性の背を見送りながら、受け身も取れずに、頭からアスファルトにとっぷします。瞬きもせず見つめ続けていましたが、ついに力尽きて、目を閉じました。
「ああ、僕の愛する花の姫。
この戦乱の恐ろしい記憶は、あの優しき女性が貴女の母親となって、何もかも洗い流してくれるでしょう。
僕はここで力尽きます。
1人死にゆくのはとても悲しい事ですが、それ以上の喜びが満ちていますから、心配しないでください。
一つ心残りがあるとすれば、御身から僕の記憶がなくなる事です。
それでもなお、僕はさびしくありません。
記憶が消え失せ、僕達2人の過ごした日々が神話の彼方に葬り去られようとも、僕達が愛し合った歴史は、まぎれもない事実なのですから。
あの母親には、我々とは違う体があります。あれが肉体という物なのでしょうか。もしそうならば、ここは伝説に聞く人間界なのでしょう。
ならば魔界の皇子とて、もはや姫には干渉できますまい。僕は、心安らかに逝くことができます。
どうかお許しください、貴女1人を残して先に旅立つ事を」
ついに、スズとハルが駆けつけて来ました。そばに舞い降りるや否や、神気をバラに注きます。ですが、力が小さすぎて、全く効果がありません。そもそも魂魄自体が砕けて半分以上無いのですから、バラはもはや注がれる神気を受け入れることも出来ません。
スズが、瞳を潤ませて言いました。
「どうしよう、バラ様が死んじゃうわ!!
ハルちゃん、ぼうっとしていないで、貴女も神気を分けてちょうだい!!」
途中で神気を注ぐのをやめて、後ろを見つめていたハルに、スズが叫びます。
急にハルは思いつきました。そして振り返って大声で言いました。
「そうだ、あの人のお腹に赤ちゃんができているわ。
感じてみて、あの赤ちゃんの神気を」
「姫様!?」
「そうよ、もしかしたらバラ様は、姫様をあの方のお腹に転生させたんじゃないかしら? なら、同じことだってできるはず、バラ様を姫様のお腹に転生させたらどうかしら?」
突拍子もない発案に、スズはビックリして言いました。
「そんな事できるはずないでしょう!? わたし達に、そんな力ないわ。
それに、赤ちゃんに赤ちゃんを宿すなんて!!」
「だから良いのよ、まだ魂は宿っていないから、あの赤ちゃんを憑代にして、バラ様を生んでもらいましょうよ」
ようやく、ハルの言わんとしている事が分かりました。内容が内容だけに、スズは答えられません。
もしうまくいけば、人間に転生した姫が10か月後に生まれます。そして、成人した姫が、誰か愛する人と結婚して子供を生んでくれれば、お腹に宿したバラが姫の子として生まれてくるのです。
スズは悩みました。
「確かにバラ様は、自分の命を使って、姫様をあの人のお腹に転生させみたいだから、今の姫にはバラ様の魂が混じっているわ。
それなら・・・、相性は良いかも…。それに・・・」
それ以上スズは言いません。ハルも言いませんでした。
失敗したとしても、姫とバラは魂魄が繋がっていますので、もしかしたら一つに融合するかもしれません。姫としてもバラとしても存在しなくなってしまいますが、バラが完全なる死を免れる可能性は、他の誰のお腹に転生させるより高いはずです。
「・・・でもわたし達の力で、そんな大きな事出来ないわ」スズが頭を横に振りました。
「大丈夫よ、この天魔戦争で、わたし達とても成長したはずよ。
もしかしたら、妖精にだって昇華しそうなほどなのかもなのよ」
「それもそうだけれど、妖精って、妖精よ? 精霊でも神でもないんだから、神気全部使ったって出来ないかもしれないわ」
スズの言葉を聞いて、もしかしたら神気を使い果たして自分達も死んでしまう、とハルは思いました。
ですが、不意に躊躇の色を見せたハルにスズが言います。
「そうね、良いわ、やってみましょう。
このままじゃ、バラ様が死んでしまうのは確実だもの。
わたし達、今までバラ様には散々お世話になったのよ。
今ここで何もせずにバラ様を見送ったら、一番の眷属ミツスイのスズの名折れだわ」
「何言っているの? 一番の眷属はわたしよ? スズちゃんは2ばーん」
今は争っている場合ではありません。弱りゆくバラの神気に気が付いた2人は、意を決しました。
決してなお、不安を滲ませる瞳で、ハルがスズを見つめます。
「スズちゃん、もし失敗して、バラ様が死んだらどうしよう」
「バラ様は怒ったりしないわ、だって、わたし達のバラ様だもの。
それに何もしなければ、このまま死んでしまうのよ。
どうせ死ぬなら、やれることをやってもらってから死んだ方が、後悔はないはずでしょ? しない方が怒られちゃうわ。
やった後悔よりも、やらなかったときの後悔の方が大きいって言うじゃない?」
スズは、深呼吸をして話を続けました。
「それにね、わたし達何もしなかったら、生まれ変わった姫様に怒られちゃうわ。
ハルちゃん、もし力尽きて死んでも、わたし達来世でお友達になりましょうね」
「もちろんよ、スズちゃん」
2人は意識を集中して、バラの背中においた掌に神気を集めて、2人分を1つにこね合わせました。魂そのものも使って神気をバラに注いでいますので、もしかしたら、2人共消滅してしまうかもしれない危険がありました。
見る見るうちに、バラの体が光の玉になって、2人の掌を覆います。
「いくわよ、ハルちゃん」スズが微かな笑みを浮かべて、ハルを見やります。
「良いわよ、スズちゃん」ハルも微かな笑顔で、スズを見ます。
いっせいのせで、離れて行く妊婦さんの背中めがけて、バラを飛ばします。光の玉は、妊婦さんに当って吸い込まれました。更に、お腹に宿った姫の中に宿ったようです。
何とか転生の成功を見届けた2人は、グッタリしながら、姫とバラを宿した女性を見送りました。
姫とバラの2人には、必ず守らなければならない、何にも代えがたい大切なものがありました。それは、お互いが注ぎ合う愛です。イバラで城を閉ざしあの日に誓った、永遠の愛です。
神の力も、贅を尽くした生活も、何もかもいりません。お互いの為ならば、自らの命だってなげうって尽くす事が出来るのです。そして、2人は正にそうしました。
それでも2人の力は不完全でした。その足りない部分を補ったのは、殆ど一心同体にまで友愛を育んだスズとハルです。種の違う姫と愛し合い、種の違う子供達を育ててきたバラと姫の2人は、スズとハルという博愛も育てていたのです。
バラが精から妖精に昇華した時を思い出してください。生れて始めていだいた愛情が、初めて姫以外に向いたのです。バラが見せた博愛の片鱗でした。その愛が結晶化して、今ここに実を結んだのです。
今はもう、お互いの存在を感じる事が出来ません。ですが信じられたのです。バラと姫は眠り続けました。人間に生まれ変り、またいつか出会うことを夢に見ながら。
辺りをキョロキョロ見渡して、状況を飲み込めないよ様子のスズが叫びます。
「ここはどこ! ハルちゃん!?」
「分からないわ。花の里では無いようだけれど・・・」
「本当、戦争が嘘みたい。バラ様はここにいるのかしら」
しばらく辺りを探し回った2人は、ようやくバラを見つけて、神気を感じる方向に飛んで行きます。
もはや神気の一滴も残っていないと察したバラは、声も出せず絶望に打ちひしがれていました。姫のドレスの胸元を握りしめて、絶望のどん底から這い上がったバラは、追い腹を切る覚悟を決めました。
その時不意に、姫がバラの心に触れた様な気がしました。バラは、顔を歪めてさらに泣きました。姫は後を追うことを望んでいない、と察したのです。
ですが、バラは、その意に従いたくありませんでした。自らの胸に手を突きたて、心臓を握りつぶし、己の魂魄を取り出したのです。
ザクロ石で作られたようなローズヒップの勾玉をかみ砕いて、嚙み酒を醸したバラは、姫に口づけをして奉献しました。
なんとしてでも姫だけは生かす。バラの決意は変わりません。姫は自らの命と引き換えにバラを生かそうとしました。それに応えるためには、バラも自らの命と引き換えに姫を生かさなければなりません。どうしても、バラは、姫への気持ちを示したかったのです。
バラの体は、急速に飛散を始めました。砕け散った姫の魂魄を繋ぎとめようと、薔薇酒が姫に滲み入っていきます。しかし、自らの生命全てを醸した甘く芳醇な香りの神酒ですら、姫の生命を維持しきれません。
走馬灯のように巡る姫との思い出がバラに力を与えました。追懐する姫は、どんな困難に道を阻まれようと、いつ何時も諦めたことはありません。
バラは、ずっとその姿を見てきたではありませんか。まだ何か手はあるはずです。なんせ、まだバラも姫も、体はこの世に留まっているのですから。
差し伸べた手の指先1cm先に幸せがあるにもかかわらず諦めてしまったのでは、後悔してもし切れません。諦めてしまっては、その1cmも万里先と変わらないのです。
多くの人々は、その1cmを万里先と思い込んでいるから、成功を手にすることが出来ません。ですが、姫は、望むものを全て手に入れてきました。そして、バラも手に入れてきたのです。
2人の歴史を余すことなく思い出したバラにとって、人生の最後に最も大切なものを諦める、という選択肢はありません。
不意にバラは振り返りました。その道には誰もいません。ですが、バラは向こうの十字路を見つめ続けていました。
バラは何かを確信していました。そして確信は現実のものとなります。見つめていた十字路から2人の女性が出てきました。目を凝らしてよく見ると、2人共妊娠しているようです。息を飲みました。間違いなく妊婦なのです。
バラは、姫を妊婦のお腹に宿らせて、人の器を用いて転生させることを思いつきました。1人は向こうに曲がってしまいましたが、1人はこちらにやってきます。バラ達の姿は見えていないようです。
バラは、全身を使って重くて上がらない腕を振るい、そばを通るこの女性に狙いを定めて、姫をその子宮に封じました。
バラは、歩いて行く人の女性の背を見送りながら、受け身も取れずに、頭からアスファルトにとっぷします。瞬きもせず見つめ続けていましたが、ついに力尽きて、目を閉じました。
「ああ、僕の愛する花の姫。
この戦乱の恐ろしい記憶は、あの優しき女性が貴女の母親となって、何もかも洗い流してくれるでしょう。
僕はここで力尽きます。
1人死にゆくのはとても悲しい事ですが、それ以上の喜びが満ちていますから、心配しないでください。
一つ心残りがあるとすれば、御身から僕の記憶がなくなる事です。
それでもなお、僕はさびしくありません。
記憶が消え失せ、僕達2人の過ごした日々が神話の彼方に葬り去られようとも、僕達が愛し合った歴史は、まぎれもない事実なのですから。
あの母親には、我々とは違う体があります。あれが肉体という物なのでしょうか。もしそうならば、ここは伝説に聞く人間界なのでしょう。
ならば魔界の皇子とて、もはや姫には干渉できますまい。僕は、心安らかに逝くことができます。
どうかお許しください、貴女1人を残して先に旅立つ事を」
ついに、スズとハルが駆けつけて来ました。そばに舞い降りるや否や、神気をバラに注きます。ですが、力が小さすぎて、全く効果がありません。そもそも魂魄自体が砕けて半分以上無いのですから、バラはもはや注がれる神気を受け入れることも出来ません。
スズが、瞳を潤ませて言いました。
「どうしよう、バラ様が死んじゃうわ!!
ハルちゃん、ぼうっとしていないで、貴女も神気を分けてちょうだい!!」
途中で神気を注ぐのをやめて、後ろを見つめていたハルに、スズが叫びます。
急にハルは思いつきました。そして振り返って大声で言いました。
「そうだ、あの人のお腹に赤ちゃんができているわ。
感じてみて、あの赤ちゃんの神気を」
「姫様!?」
「そうよ、もしかしたらバラ様は、姫様をあの方のお腹に転生させたんじゃないかしら? なら、同じことだってできるはず、バラ様を姫様のお腹に転生させたらどうかしら?」
突拍子もない発案に、スズはビックリして言いました。
「そんな事できるはずないでしょう!? わたし達に、そんな力ないわ。
それに、赤ちゃんに赤ちゃんを宿すなんて!!」
「だから良いのよ、まだ魂は宿っていないから、あの赤ちゃんを憑代にして、バラ様を生んでもらいましょうよ」
ようやく、ハルの言わんとしている事が分かりました。内容が内容だけに、スズは答えられません。
もしうまくいけば、人間に転生した姫が10か月後に生まれます。そして、成人した姫が、誰か愛する人と結婚して子供を生んでくれれば、お腹に宿したバラが姫の子として生まれてくるのです。
スズは悩みました。
「確かにバラ様は、自分の命を使って、姫様をあの人のお腹に転生させみたいだから、今の姫にはバラ様の魂が混じっているわ。
それなら・・・、相性は良いかも…。それに・・・」
それ以上スズは言いません。ハルも言いませんでした。
失敗したとしても、姫とバラは魂魄が繋がっていますので、もしかしたら一つに融合するかもしれません。姫としてもバラとしても存在しなくなってしまいますが、バラが完全なる死を免れる可能性は、他の誰のお腹に転生させるより高いはずです。
「・・・でもわたし達の力で、そんな大きな事出来ないわ」スズが頭を横に振りました。
「大丈夫よ、この天魔戦争で、わたし達とても成長したはずよ。
もしかしたら、妖精にだって昇華しそうなほどなのかもなのよ」
「それもそうだけれど、妖精って、妖精よ? 精霊でも神でもないんだから、神気全部使ったって出来ないかもしれないわ」
スズの言葉を聞いて、もしかしたら神気を使い果たして自分達も死んでしまう、とハルは思いました。
ですが、不意に躊躇の色を見せたハルにスズが言います。
「そうね、良いわ、やってみましょう。
このままじゃ、バラ様が死んでしまうのは確実だもの。
わたし達、今までバラ様には散々お世話になったのよ。
今ここで何もせずにバラ様を見送ったら、一番の眷属ミツスイのスズの名折れだわ」
「何言っているの? 一番の眷属はわたしよ? スズちゃんは2ばーん」
今は争っている場合ではありません。弱りゆくバラの神気に気が付いた2人は、意を決しました。
決してなお、不安を滲ませる瞳で、ハルがスズを見つめます。
「スズちゃん、もし失敗して、バラ様が死んだらどうしよう」
「バラ様は怒ったりしないわ、だって、わたし達のバラ様だもの。
それに何もしなければ、このまま死んでしまうのよ。
どうせ死ぬなら、やれることをやってもらってから死んだ方が、後悔はないはずでしょ? しない方が怒られちゃうわ。
やった後悔よりも、やらなかったときの後悔の方が大きいって言うじゃない?」
スズは、深呼吸をして話を続けました。
「それにね、わたし達何もしなかったら、生まれ変わった姫様に怒られちゃうわ。
ハルちゃん、もし力尽きて死んでも、わたし達来世でお友達になりましょうね」
「もちろんよ、スズちゃん」
2人は意識を集中して、バラの背中においた掌に神気を集めて、2人分を1つにこね合わせました。魂そのものも使って神気をバラに注いでいますので、もしかしたら、2人共消滅してしまうかもしれない危険がありました。
見る見るうちに、バラの体が光の玉になって、2人の掌を覆います。
「いくわよ、ハルちゃん」スズが微かな笑みを浮かべて、ハルを見やります。
「良いわよ、スズちゃん」ハルも微かな笑顔で、スズを見ます。
いっせいのせで、離れて行く妊婦さんの背中めがけて、バラを飛ばします。光の玉は、妊婦さんに当って吸い込まれました。更に、お腹に宿った姫の中に宿ったようです。
何とか転生の成功を見届けた2人は、グッタリしながら、姫とバラを宿した女性を見送りました。
姫とバラの2人には、必ず守らなければならない、何にも代えがたい大切なものがありました。それは、お互いが注ぎ合う愛です。イバラで城を閉ざしあの日に誓った、永遠の愛です。
神の力も、贅を尽くした生活も、何もかもいりません。お互いの為ならば、自らの命だってなげうって尽くす事が出来るのです。そして、2人は正にそうしました。
それでも2人の力は不完全でした。その足りない部分を補ったのは、殆ど一心同体にまで友愛を育んだスズとハルです。種の違う姫と愛し合い、種の違う子供達を育ててきたバラと姫の2人は、スズとハルという博愛も育てていたのです。
バラが精から妖精に昇華した時を思い出してください。生れて始めていだいた愛情が、初めて姫以外に向いたのです。バラが見せた博愛の片鱗でした。その愛が結晶化して、今ここに実を結んだのです。
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