バラの神と魔界の皇子

緒方宗谷

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エピローグ

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 清々しい朝でした。一軒の赤い屋根と白い壁の素敵なお家の玄関に、お母さんの優しい声が響きます。
 「結衣ちゃーん、もうそろそろバス来ますよー」
 「はーい、ママ、一緒に行こう!」
 ピョンピョン跳ねながら玄関にやって来た可愛い女の子がいました。黄色い帽子をかぶって青い保育園のお洋服を着た結衣ちゃんは、走ってお庭に出て行きます。
 庭木を見上げてニッコリ微笑むと、「いってきます」のご挨拶。「ぴよぴよぴよ」と、黄色い小鳥がご挨拶。
 しゃがみこんだ結衣ちゃんは、根元の穴に向かって、「いってきます」のご挨拶。「シュルシュルシュル」と、白い小蛇がご挨拶。
 結衣ちゃんは、毎日欠かさず小鳥と白ヘビに朝の挨拶をするのです。
 雲一つない晴天でした。幼稚園生の結衣ちゃんに、前世の記憶はありません。
 あれから4年の歳月が流れました。日本というこの国は、花の里ほどではありませんが、とても平和な国の様です。
 途切れることなく続く家並みの多くには庭木があり、中には年中花を咲かせているものもあります。お花屋さんもあって、色々なお花が咲いていました。お肉やお魚、果物やお野菜も驚くほど豊富にあります。
 バラの神の懐の心地よさと比べれば雲泥の差でしたが、結衣ちゃんの家には、小さな椿の木がお庭の隅っこに生えていて、年中青々とした葉を茂らせていましたから、とりあえずは快適です。
 犬や猫、カラスといった天敵はいましたが、彼らには精が宿っていないので、2人の敵ではありません。
 しいて言えば、自分でご飯を探さなければならない事が面倒です。それに、神気を使うと人目にもつくし、何より悪魔にばれるかもしれないと思って、安易に使えません。
 カラスは魔界の住人でしたし、天魔戦争では、カラスに怖い目に遭わされましたから、結局スズとハルは、か弱いふりをして逃げ隠れするしかありません。
 ハルは面倒くさがりましたが、か弱い乙女というフレーズが気に入ったのか、スズはまんざらでもありません。
 2人は意外に楽しくやっているようです。それもそのはず。あと何十年かすれば、バラ様が生まれて、なんと2人はおねーさんになるからです。
 バラ様を育てられるなんて、チョー楽しみです。2人は密かに、自分を一番好きになってくれる様に育てよう、と思っていました。ハルちゃん(スズちゃん)には負けません。なんせ、姫様はバラのお母さんになるのですから、愛妻の地位が空席なのです。
 ですが、共通の目標もあります。
 スズとハルには、姫の記憶が戻るのか分かりませんでした。ですが2人は誓いました。いつかバラが姫様をお迎えに来るまで、バラに代わって姫様をお守りし続ける、と。
 スズとハルは、いつまでも結衣ちゃんのそばで、バラの誕生を待ち続けました。

 おしまい
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