376 / 796
二年生の一学期
🍳
しおりを挟む
南がはにかむ横で、杏奈が口を開いた。
「これ、外で食べたら一人五千円超えるんじゃない?」
「千円――千五百円くらいじゃない?」おばあちゃんが否定する。
「物価の差? 恐ろしいな、東京じゃコスト高すぎて、そんな値段じゃ出せないよね」
驚く春樹に、おばちゃんが言った。
「まあ、自分のところで作った野菜やら、直売所やらで買ってきたものが多いからね、間を通していない分安くなるし、自宅だから場所代もかからないし、お金をいただくとしたらこんなものじゃないかしら」
みんなで「いただきます」を済ますと、正座をした春樹が丁寧に箸をとる。そして上品ぶってご飯茶碗を持ち上げると、静々とお膳を食べ始めた。
それを見て、南がつっこむ。
「スノブっちゃって」
「なんだよそれ」
「さあ」ツンとして答える。
「スノブって、どういう意味だよ」
「なんだろね、分かんない。ただ、普段ホットドックとかサーミ―メイトとか菓子パンとか、無作法に食べ歩いているやつが、こんな時は上流階級みたいに静かにしちゃって、高木春樹の風上にも置けないやつ」
「ひでぇ言い草だなぁ、そりゃ俺は庶民ですよ」
上着一枚はぎ取られたやつが何事もありませんと言っているみたいな顔で、茶髪男子ががムスッとする。
杏奈がおばあちゃんに訊いた。
「この天ぷらなんでしたっけ? 柑橘系みたいな風味があって、軽快な歯ごたえがありますね?」
「それは、山で採ってきたウドね。葉っぱのほうは庭に生えていたよもぎと買ってきた春菊」
着ている服の色に似た紺の大地に白い三尺バーベナの花を満開に咲かせたような笑顔で、おばあちゃんが料理の説明をし終えると、「そうだ」と奈緒が声を上げた。
「南ちゃんのお父さんも 連れてくればよかったかねぇ? 地元ビールとおばあちゃんの手料理で 最高だもん」
「ちょっと、成瀬さんっ」杏奈が迂闊な発言をたしなめる。
「あ、言っちゃまずいかな? いいのかな? いけなかった? だめだった?……ごめんな さいっ」奈緒がしゅんとして縮こまった。
南が自嘲気味に微笑んで視線を落とす。
「誘ってもこなかったと思うよ。保護者同伴の旅行っていうのも……ねぇ」
「こっちが保護者だわよ」奈緒がなんとか笑いに持ち込もうとして、言葉をかぶせる。
「確かに。まあ、首にリード繋げておけば安心だとは思うけどね」
「そうだ、こっちに住んで、畑仕事とかすればいいんだ。なんにもないから、お酒買いに 行けないよ、きっと」
「酒屋は二つありますよ」おばあちゃんが言った。
「あら、だめだ。でも東京よりまし? 南ちゃんのためにお仕事してって頼めば違う?」
「だめだと思うよ」南の表情に悲しみが浮かぶ。「お父さんはわたしのこと嫌ってるから。今もまともに話してくれないし」
「これ、外で食べたら一人五千円超えるんじゃない?」
「千円――千五百円くらいじゃない?」おばあちゃんが否定する。
「物価の差? 恐ろしいな、東京じゃコスト高すぎて、そんな値段じゃ出せないよね」
驚く春樹に、おばちゃんが言った。
「まあ、自分のところで作った野菜やら、直売所やらで買ってきたものが多いからね、間を通していない分安くなるし、自宅だから場所代もかからないし、お金をいただくとしたらこんなものじゃないかしら」
みんなで「いただきます」を済ますと、正座をした春樹が丁寧に箸をとる。そして上品ぶってご飯茶碗を持ち上げると、静々とお膳を食べ始めた。
それを見て、南がつっこむ。
「スノブっちゃって」
「なんだよそれ」
「さあ」ツンとして答える。
「スノブって、どういう意味だよ」
「なんだろね、分かんない。ただ、普段ホットドックとかサーミ―メイトとか菓子パンとか、無作法に食べ歩いているやつが、こんな時は上流階級みたいに静かにしちゃって、高木春樹の風上にも置けないやつ」
「ひでぇ言い草だなぁ、そりゃ俺は庶民ですよ」
上着一枚はぎ取られたやつが何事もありませんと言っているみたいな顔で、茶髪男子ががムスッとする。
杏奈がおばあちゃんに訊いた。
「この天ぷらなんでしたっけ? 柑橘系みたいな風味があって、軽快な歯ごたえがありますね?」
「それは、山で採ってきたウドね。葉っぱのほうは庭に生えていたよもぎと買ってきた春菊」
着ている服の色に似た紺の大地に白い三尺バーベナの花を満開に咲かせたような笑顔で、おばあちゃんが料理の説明をし終えると、「そうだ」と奈緒が声を上げた。
「南ちゃんのお父さんも 連れてくればよかったかねぇ? 地元ビールとおばあちゃんの手料理で 最高だもん」
「ちょっと、成瀬さんっ」杏奈が迂闊な発言をたしなめる。
「あ、言っちゃまずいかな? いいのかな? いけなかった? だめだった?……ごめんな さいっ」奈緒がしゅんとして縮こまった。
南が自嘲気味に微笑んで視線を落とす。
「誘ってもこなかったと思うよ。保護者同伴の旅行っていうのも……ねぇ」
「こっちが保護者だわよ」奈緒がなんとか笑いに持ち込もうとして、言葉をかぶせる。
「確かに。まあ、首にリード繋げておけば安心だとは思うけどね」
「そうだ、こっちに住んで、畑仕事とかすればいいんだ。なんにもないから、お酒買いに 行けないよ、きっと」
「酒屋は二つありますよ」おばあちゃんが言った。
「あら、だめだ。でも東京よりまし? 南ちゃんのためにお仕事してって頼めば違う?」
「だめだと思うよ」南の表情に悲しみが浮かぶ。「お父さんはわたしのこと嫌ってるから。今もまともに話してくれないし」
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章
後編 「青春譚」 : 第6章〜
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる