FRIENDS

緒方宗谷

文字の大きさ
379 / 833
二年生の一学期

🐿️

しおりを挟む
 他愛もない会話が続くのをしばらく聞いていた奈緒が静かに一歩踏み出そうとした時、おばあちゃんが真顔じゃないと出せないような真剣な声音になって話し始めたので、この子は思わず振り返った。
「そういえばあんた、さっき嫌われているって言っていたけど、どういうことだい? 前、あの……あそこから戻った時も、電話でわたしのおかげだなんておかしなこと言っていたけど、まさか親子でちゃんと話していないじゃないだろうね」
「児相にいたことは隠してないから、向こうを気にしなくていいよ。お父さんとはあまり話していない。話そうにも、顔を合わせればすぐに視線を逸らして無視してくるし、いつもごろごろしてて、お酒の無心しかしてこないから……」
「そうなの。情けない人だね、あの人も。こんなに可愛い娘をほったらかした上に、いらない心配までさせて、ほんと呆れるよ。本当は大好きで大好きで堪らなくて、離したくないくらい大切に想っているくせにねぇ」
「ふっ、お父さんが?」南が鼻で笑って、悲痛交じりの自虐的な声を漏らす。
「しょうがないから代わりにわたしから言っちゃうとだね、あなたが児童相談所から学園に送られるのを拒んだ時ね、わたしが引き取ってもいいですよって、恭介さんに言ったのよ。でも恭介さん、あれは俺の娘ですから自分のそばで育てたいですって言うの。自分がお酒におぼれて南には寂しい思いをさせたけれども、あいつのために断酒して、また料理業界に復帰して、詩織との夢を追いかけて必ず果たしてみせます、そうすることであいつが更生する道しるべになるんだって真面目に話していたのよ。南はお母さんのこと、自分のせいだなんて思っているんだろ? そんなことないよ、お父さんもわたしもそんなふうに思ったことなんてないし、ましてや詩織なんて後悔のこの字もしていないはずだよ。現にあのあと恭介さんは、児童相談所の担当の方から、学園の寮に入れるほうが得策だなんて言われていたみたいだし、わたしも職員の人から説得してくれって頼まれて会って話したけど、あの人は、娘が帰宅を望むのであれば、自分が頑張って成人させますって言い張って、わたしや職員さんたちの助言を断固として拒否したの」
 南が、信じられない、といった声で話を止める。
「そんな感じじゃなかったよ。家に帰る時だって迎えにも来てくれなかったし。児相の先生に新しい住所が書かれたメモ渡されて、一人で荏原中延まで行ったんだもん。家についてからだっておかえりの一言すら言ってくれなかったし、そもそもすんごい酔ってて、鍵あけたあとすぐに布団にもぐって寝ちゃったから、わたし知らない家に放置されて、一人でごはん食べて和室に布団敷いて寝たんだよ。その日一度も会話なかったくらいの扱い」
「ごはん食べたって、用意はしてあったってことでしょう?」
「あ――そういえばそうだ……雑な感じのトマト煮とかがいくつかタッパに入って冷蔵庫に置いてあったから、それ食べたんだ。味は美味しかった。お父さんの味だった」












しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

讃美歌 ① 出逢いの章              「礼拝堂の同級生」~「もうひとつの兆し」

エフ=宝泉薫
青春
少女と少女、心と体、美と病。 通い合う想いと届かない祈りが織りなす終わりの見えない物語。

怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。 将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。 サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。 そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。 サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...