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二年生の一学期
🍞
杏奈がほっと胸を撫で下ろしたような表情を浮かべて、取り仕切った茶髪男子に微笑みかける。
「高木君てこういう時やさしいよね。わたしも後ろの女の子に気がついていたから、全員がくまちゃんパンを選んだら、あの子の分なくなっちゃうって心配してたの」
「だろ、マジ俺に惚れちゃうだろ。いいんだぜ、いくら惚れてくれても」
女子三人が「それは、ないないない」と呆れた顔をして笑う。そして最後に、杏奈が春樹に通達した。
「ううん。それははっきりと遠慮しておくわ。万に一つの可能性もないから記憶のかなたに忘却しておいてあげる」そして嫣然たる微笑を湛える。
「否定に否定を重ねて、さらに否定しなくても」
「あら、一つ足りないわよ。微笑にもその意味を込めたから、もう一つ重なっているの」
奈緒と南が何度も頷くのを見て、春樹が肩を落とす。
「全否定っすか、三人そろって」
「まあよき友達ってことで。そういう対象で見たことないもん」と南。
大らかに笑う彼女に続いて、「そうよそうよ」と奈緒が続ける。
お会計を終えて外に出ると、奈緒はさっそく紙袋からくまちゃんパンを取り出して、フィルムを開けるように南に頼んだ。
「まるで生きたぬいぐるみのようね。食べ るのが 可哀想な くらい。ウケる。二頭身ないじゃん。顔大きすぎて一.八頭身じゃないのよ。うふふふふ」
右手を上げて「やあ、こんにちは」と微笑んでいるような焦げ茶色のくまちゃんに、迷わずかじりついた。
歯痕のついたパンの中から顔を出したチョコの塊を見やって、春樹が鼻で笑う。
「食べるの可哀想とか言ってた割に、躊躇なく食べるのな」
「むふふ」奈緒が口をもごもごさせながら笑う。「他にも“ポン”あったから、今度来た時買いましょうね」
「口の中なくなってから話そうよ」杏奈がたしなめる。
南がけらけらと笑った。
「でもそうだよね。多くはないけど何種類かあったし、もらってきたパンフレット見ると、曜日によって焼くパンが変わるらしいよ」
十字路に戻ってきたところで左に曲がろうとした務に気がついて、その背中に南が声をかけた。
「ここまっすぐ行っちゃおう。そしたらすぐ駅前に出られるから。遅ればせながらようやく思い出してきた。もうみんなには疲れる思いはさせないよ」
「散々疲れたんですけど、最後になってやっとそう言ってくれても仕方ないんですが」春樹が、自分のパンの中にバターが入っているのを見やりながら、ぼそりと愚痴る。
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