FRIENDS

緒方宗谷

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二年生の二学期

第百八十二話 心愛の心配

 九月も終わろうかというある日の放課後。行き交う生徒の制服を切り裂くような蝉の音が響く五階の廊下は、部活へと向かう者や遊ぶ予定を話し合う者たちの楽しげな声で溢れていた。
 バイトへと急ぐ南と、塾の日だと言う務を教室で見送った奈緒は、自分の荷物をまとめて廊下へと足を一歩踏み出す。その瞬間、コンクリートの壁面が無くて外が一望できる大パロラマなガラスの壁に沿って設置された銀の手すりに腰で寄りかかる心愛を見つけた。
 背側から光を受けて風になびくすずらんのような頭を傾けて声なく呼び止めた彼女が、視線を向けた奈緒に微笑を送って、黒い窓枠から背を離す。
「成瀬さん、もし時間が大丈夫だったら、ちょっと話せないかな。駅まで歩きながらでもいいから、一緒に帰ってもいい?」
 少し人目を気にするようなそぶりを見せた心愛が、躊躇いながらも奈緒の左横に寄り添う。この子は、そんな彼女の雪のように白い横顔を見やった。
「今日は用事がないので 時間は大丈夫だから、大将のカフェラテ全部飲んでから帰る」
 ポケットから揚々と取り出したペットボトルには、四分の一ほどの薄茶色い液体が揺れていた。その水嵩を目で測った心愛が、心配げな声色で言葉を発する。
「大丈夫? 飲みきっちゃって。今日はすごく暑いんだから、熱射病になっちゃうかもしれないよ」
「いいの。商店街でまた買うから。そのために飲む。あと、帰りに一緒にアイス食べて帰ろう」
「わたしそっちのほうじゃないから。あ、でもそっちからでも帰れるから、一緒に帰ろう」
「うん。でもちょっと待って。これ飲んじゃうから、お外で話しましょう?」
 奈緒はそう言って白いスニーカーに履き替えると、昇降口を出て一階まで下り、辺りを見渡す。
「向こうのほうなら、日陰になったベンチあるよ、きっと」
 そう言って歩みだしたこの子の背中を、心愛が追った。
「そっちにはないよ」
「あら、そうか」
 自分が向かおうとした方向から少し逸れて進む心愛を、奈緒が慌てて追いかけていく。正門を出て右折すると、すぐに二つのベンチが視界に入った。それぞれ一人が腰かけられる木製のそれは、学校の敷地の角の、それほど樹高が高くなくてまだ細々とした若木の面影を残す木の傍らに設置してある。ちょうど上には、若々しい青葉が生い茂る旺盛な梢が広がっていたから、陰になった座板は程よい木漏れ日の下で煌めいていた。






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