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砥石  ~翼を広げて大空に羽ばたく街~

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 夕暮れを迎えたサッカーの町は、家路へと向かうブレザー姿の高校生で賑わっている。
 秋があったのか無かったのか、振り返ってもいまいち秋らしい一日を過ごせないまま暖かい冬を向かえてしまった今日、僕はのどかに高校生の後ろ姿をながめながら歩いていた。
 暖かいとはいえ冬めいた空気の中で見ると、どことなく青春への郷愁をいだいてしまうのは何故だろうか。少し切なく思う。
 高校生の集団を追い越し、横断歩道を前にして少し歩速を緩めた時、ふとドーナツ屋さんを見つけた。家並みを一望すると、少し離れた所にカフェらしきアルコーブがある。
 そのままなんとなくUターンしていって黒いA型看板を一瞥すると、一指弾で中に入った。
 店内は白いレンガ風に塗られた壁に囲まれた小さな造りで、二人掛けの席がカウンターの前に一席と壁にそって三席、そして奥に三席ある。
 壁際の席に座って頼んだのは、キノコのパニーニとアメリカーノ。それほど間を置かずにやってきたプレートに薄い黄身色のコーヒーカップと、サラダが盛られたガラスでできたご飯茶碗くらいの器。口の開いたバーガー袋にパニーニが入っている。
 僕はまずコーヒーに口をつけた。
 とても滑らかなカップが唇に触れると、瞬く間に溶け合ってしまったかのような一体感があった。
 まず始めにコクのある苦味が口に広がる。酸味に似たそれはあとを引いて、口にとどまり続ける。どことなく田舎っぽくて垢抜けないユニークさだ。
 透き通った感じはしないが、まろやかな舌触りで飲みやすい。今日はケーキは頼んでいなかったけれど、この苦味がスウィーツに合うのは間違いないだろう。
 パニーニと言えば、長方形のパンに具材を挟んで、専用の焼き器で押し焼いたようなものだとイメージしていたが、ここのはまるで違う。
 丸いチャバタで、フォカッチャほどふんわりしていないものの、イメージほど固くもない。ただ、他店で、チャバタっぽいフォカッチャも食べたとこがあるので、一概にチャバタ扱いもできない気がするが……。ちなみに、商品名にキノコを冠するだけあって、間に挟まっているのはキノコのみだ
 ほんのりと焼き色のついた白いチャバタは小麦粉の味がしっかりとしていて、キノコの具材の味に引けをとらない。淡白ながらも独特の味は、炒められたオイリーなキノコで重くなりがちな口の中を拭ってくれる。
 付け合わせのサラダは、フリルレタスにスライストマトが二切れのったシンプルなもの。小さなココットに注がれたフレンチドレッシングをかけて口に運ぶ。
 その爽やかでかろみのある涼やかな味は、パニーニの残滓を洗い流す。柔肌のようなパンと、しゃきしゃきとしたフレッシュなサラダのコントラストが気持ちいい。
 外を見ると、昼と夕のあわいにあった。それを見て、気がついた。高校生を見て少し切なくなったのは、これから僕が青春に再会するからだ。
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