Kaddish

緒方宗谷

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金は命そのものなのか 

3ー1

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 なぜドイツは、あの様な妄言を吐く男に魅了されてしまったのだろうか。振り返ると、それは第一次欧州大戦にまで遡る。
 飛ぶ鳥落とす勢いで成長してきたドイツであったが、あの大戦に敗れた後は悲惨極まりなかった。戦勝国は全ての戦争責任はドイツにあるとして、多額の賠償金を課した。その額はドイツが支払える額の何倍もの金額だ。
 領土の一部は、再びフランスを侵略しないようにと工業化する事すら許されなかった。膨大な借金と開発不能が足かせとなり、政府は傷ついた国土を復興させる事が出来ない。インフレを抑えることが出来ずに物価は高騰に高騰を続け、遂にはハイパーインフレを起こしてしまう。
 その時、僕はまだ日本に住んでいたが、義父の話によると本当に悲惨な経済状況だ。買い物をしようとすると、値段が書いていない。すべて時価なのだ。店主に値段を確認して、買いたいものを見繕って清算しようとすると、ありえない額を請求される。文句を言うと、「為替が変わった」と言う。
 レストランでもそうだ。メニューには時価と書いてある。値段を確認して注文し、食べ終わって会計を済ませようとすると、請求額は何倍にもなっていたらしい。
 何倍で済むならまだ可愛い方で、10倍100倍なんて時期もあった。日本でいえば、どのような状況だろうか。10銭の品を手にして店内を回って、店主のもとに行ってお金を払おうとしたら、1円請求されるようなものだろうか。
 インフレ発生前から数えると、千倍、万倍になっているはずだ。都会に住んでいる人は、青色吐息で日々を過ごしていた。給料の上昇がインフレに追いつかず、日用品すら買えない。後追いで昇給されていたが、ハイパーインフレが起こってからは、もはやどうしようもなかった。
 最もひどい時では、お小遣いで買える程度の食材が、1億マルクや1兆マルクもした。当時の為替は1ドル=12,000,000,000,000マルクまで暴落していた。挙句の果て、1924年8月30日に遂にデノミが実施されて、1兆マルクが1ライヒマルクになってしまった。
 国内の小金持ちも庶民と同じ様に喘いでいる。アパートを持っていて家賃を手に入れたとしても、紙屑同然だ。土地建物の価格は上がっていたが、土地やレンガを食うわけにはいかない。売ったとしても直後にはインフレが進んで、どんどん紙幣の価値が下がっていく。
 中には、二束三文で売り叩いて、僅かな食料を買う者までいた。しかし、鼻の利く者はどこにでもいるものだ。多くの市民がマルクの暴落に溺れる中、豪勢な生活をしている者もいたらしい。
 彼らは外国に資産を保有していたから、少ない外貨を投げれば、贅沢三昧の日々を送る事が出来た。
 妻の実家は缶詰会社を営んでいるが、輸出入は行っていなかったおかげで、極端な地獄を見る事は無かった。もし、輸入を中心とした貿易業を営んでいたとしたら、すぐに破綻していたかもしれない。


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