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新しい息子
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私達夫婦は息を飲んだ。目の前には、薄汚れた服装の黒髪の少年が、捨てられた子犬の様に全身を震わせて私達を見つめていた。
息をする事さえ忘れていた私は、不意に我に返って辺りを見渡した。SSの足音は聞こえてこない。遠くで泣き叫ぶ声や銃声が聞こえる。だが、傍では軍靴の音は響いてこないし、車の走る音もしない。
すぐに分かった。明らかにゲルマン人の子供ではない。強制連行されるある区画に住んでいたの集団の中で、上手くドイツ兵の目を盗んで逃げだしたのだ。
私は、この子供に駆け寄ると、妻も一緒に彼の傍に寄った。彼女の顔を見上げると、恐ろしさに慄きながらも目の奥は輝いていて、何かを決心しているかの様に唇をきつく結んで、微かに頷く。
子供を立たせた私から、そのまま引き継ぐ形で手を添えて、急いで室内へと連れて行った。扉口を閉めて、息子の亡骸が眠る寝室へと入れた。服を脱がせたが、全身がとても汚れていて臭いもすごかったので、すぐにシャワーを浴びさせるために、浴室へと連れて行く。
その間、ずっとこの子は怯えていて、
「お願いします、助けてください。
僕を引き渡さないでください。何でもします、お願いします」
と、かすれる声で懇願していた。
私達は何も答えなかった。見つかれば、この子のみならず我々も銃殺されてしまうだろう。我々は、もはや何も考えられないほど慄いていた。それでもなお、私と妻は信じるがままに行動した。
私達は、自分で言うのもなんだが、とても仲睦まじい夫婦である。その絆は、この日を境により一層強固なものへと成長した。
人間は、突然の事態に直面した時に本性を現すという。それは古今東西老若男女変わらない。ナチスによる人間狩りが行われる時代において、妻は、迷うことなく目の前で命乞いをする無力な少年を助けた。
彼女が常日頃から言っていた信心深い言葉に、嘘偽りはなかったのだ。
遠くの方で、犬の吠える声が聞こえる。隠れて強制連行をやり過ごそうとする者を探しているのだろうか。
「分かるか? ドイツ語は分かるか?」
「分かります、分かります。
なんでもいう事を聞きますから、殺さないでください、お願いします」
顔をくしゃくしゃにして嗚咽し、咽び泣きながら懇願を繰り返す。私は、これほどまでに悲痛に満ちた表情をする人を見た事が無かった。しかも子供からその顔を見るなんて思わなかった。
息をする事さえ忘れていた私は、不意に我に返って辺りを見渡した。SSの足音は聞こえてこない。遠くで泣き叫ぶ声や銃声が聞こえる。だが、傍では軍靴の音は響いてこないし、車の走る音もしない。
すぐに分かった。明らかにゲルマン人の子供ではない。強制連行されるある区画に住んでいたの集団の中で、上手くドイツ兵の目を盗んで逃げだしたのだ。
私は、この子供に駆け寄ると、妻も一緒に彼の傍に寄った。彼女の顔を見上げると、恐ろしさに慄きながらも目の奥は輝いていて、何かを決心しているかの様に唇をきつく結んで、微かに頷く。
子供を立たせた私から、そのまま引き継ぐ形で手を添えて、急いで室内へと連れて行った。扉口を閉めて、息子の亡骸が眠る寝室へと入れた。服を脱がせたが、全身がとても汚れていて臭いもすごかったので、すぐにシャワーを浴びさせるために、浴室へと連れて行く。
その間、ずっとこの子は怯えていて、
「お願いします、助けてください。
僕を引き渡さないでください。何でもします、お願いします」
と、かすれる声で懇願していた。
私達は何も答えなかった。見つかれば、この子のみならず我々も銃殺されてしまうだろう。我々は、もはや何も考えられないほど慄いていた。それでもなお、私と妻は信じるがままに行動した。
私達は、自分で言うのもなんだが、とても仲睦まじい夫婦である。その絆は、この日を境により一層強固なものへと成長した。
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遠くの方で、犬の吠える声が聞こえる。隠れて強制連行をやり過ごそうとする者を探しているのだろうか。
「分かるか? ドイツ語は分かるか?」
「分かります、分かります。
なんでもいう事を聞きますから、殺さないでください、お願いします」
顔をくしゃくしゃにして嗚咽し、咽び泣きながら懇願を繰り返す。私は、これほどまでに悲痛に満ちた表情をする人を見た事が無かった。しかも子供からその顔を見るなんて思わなかった。
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