Kaddish

緒方宗谷

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別れと出会い

27ー3

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 本当の家族は、すぐにアウスヴィッツに移送された。雪荒む極寒の絶滅収容所だ。線路の伸びる先は、レンガ造りの茶色く横に長い建物の奥に吸い込まれていく。頭1つ高い中央監視塔の真下に大きく口を開けた門は、死の門と呼ばれていた。
 「お母さん、僕達殺されるの?」
 「まさか、そんな事ないわよ。ただ、無理やりにお引越しさせられただけ」
 確信は無いが、そう答えるしかない。ただ、まさか殺されるなんて思ってもみなかった。不安ではあったが、最終的にどこかの荒れ地に土地が与えられるか、外国に追い出されて難民となるのだと思っていた。
 「わたし達のご先祖様は、どんな困難にあっても神様を忘れず耐えてきたの。
  だからこそ、国が無くても世界中に子孫がいて、繁栄しているのよ。
  だから自信を持って、わたし達が神様を忘れさえしなければ、必ず神様は私達をお救いくださるわ」
 選別は7時間にも及んだ。母親は夫や子供達と引き離されて、選別の最中、終始立たされていた。一緒に連れて行かれた兄妹2人は、年齢が規定に達していない。すぐに同じ結果となった子供達と共に、1つの塊に加えられてしまった。
 どの様な基準があったのだろうか。母親は、幼いわけでもなく年老いたわけでもない。病弱なわけでもなかったが、収容所で生活する者達から隔離された。
 何故か傍に親衛隊はいない。同じ民族の囚人頭がいて、車から降りた自分達をレンガ造りの長細い建物に誘導する。そして服を脱ぐように指示を出す。
 「お母さん? お母さん! やっと会えたね!」
 駆け寄る一番下の娘も裸だった。地下室に連れてこられてから、そこにいた看守頭にシャワーを浴びるのだと言われた娘は、ようやく綺麗になれる、とウキウキしながら薄汚れた衣服を脱ぎ捨てていた。
 「お母さんも一緒に入るね、楽しみね」
 遠くで聞こえる軽蔑の言葉は、娘の耳には届いていない。
 「人殺し! 神様を裏切ると、魂まで穢れて地獄に落ちるのよ。穢れるから私に触らないでちょうだい!!」
 「よくもこのような背徳行為が出きるものだ。よもやお前は救われない。お前は呪われているぞ」
 「どうして僕達は殺されるの? どうして僕達を殺せるの? こんな酷い事をしてまでも生き延びたいの?」
 母親は、刻一刻と死が迫っている事を察した。娘を怯えさせまいと必死に涙を堪え、幼い体を強く抱きしめる。
 お互いの温もりを肌で感じ合った最後の時であった。
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