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第十一話 ボス登場! アンドレイ・イワノフ
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オントワーンとパークが仲睦まじそうに並んで叫んだ。
「ボス―、ボース、あーそーぼー」
あそぼじゃねーよ、何三等身くらいになってんだよ。ギャグ漫画じゃないんだから。絵無いんだからやめてくれよ。
だが、ローゼはつっこめなかった。本当に遊びではなくなったからだ。途轍もない殺意に満ちた何者かが暗闇に潜んでいる。“遊ぶ”とは“子供が遊ぶ”とかの“遊ぶ”ではない。“命を弄ぶ”の“もてあそぶ”だったのだ。
それを察したローゼとエミリアは、咄嗟に身構える。咆哮猛々しい“何か”が闇を切り裂いて突進してきた。悪魔牙団ボス、アンドレイの登場である。なんという巨魁なのだろうか。二メートル半、否、三メートルか? スキンヘッドで魁偉な顔貌の野獣が襲いくる。
モストラスキュラーポーズ、ダブルバイセップス、フリー、トライセップス、アブドミナル&サイ。目くるめく色とりどりのボディビル・ポージングで迫ってくる。
氷上を滑るかのように滑らかに舞う肉肉しいマッスルボディ。筋肉それぞれの部位が躍動し、別々の生き物であるかのように蠢く。気持ち悪いを通り越して悍ましい。ボディビルの域を完全に逸脱しちょる。
「うひぇぇっ」と震えながら仰け反るローゼ。
二人がどんなに避けてもスーイスイ。「筋肉、筋肉、筋肉、肉肉」とベースを奏でるようなダンディボイスで唸りながら迫ってくる。
「何なのコイツ⁉」
ビビるローゼ。なぜかその後ろで、握る両手を口に添えて、エミリアがキラキラの眼差し。
だがそれも束の間、一瞬の内にローゼたち二人は鼻と頬の肉が削げる思いがした。細胞一つ一つが強張り、表情筋を全く制御できない。
ローゼ、一目散にズザザァァ、と後ずさる。
「て言うか何だッ⁉ 臭い! わき汗くっさい!」
「ほんと、鼻がひんまがちゃいそう」とエミリア。
「ちょっとわたしのマントで鼻塞がないでよ」
鼻を抓んで無理やりマントを奪い返そうとしながら、ローゼが続ける。
「何この臭い。何? 男臭? なんか黄土色のモヤモヤが充満してる」
「ほう、俺のオーラが見えるのか?」アンドレイが、ず太い眉をあげて軽く感嘆した。
オーラじゃねーよ。体臭だよ。別のオーラで滅んでくれよ。ミリィさーん。つーか臭いに色ついてるっておかしくね? どんだけ濃いーんだよ。
アンドレイが、茶色い口髭とアゴヒゲを撫でながら言った。
「久々に骨のあるやつが来たな。その体に余すことなくこの俺の寝技を決めてやろう。
楽しみだぜ、お互いの汗が混ざり合うほどの死闘を繰り広げられるなんてな」
マジやめて。毎日洗っても一生落ちないシミになるほど滲み込んじゃうから。
アンドレイがギアをあげる。
「どりゃあああっ」
転げるように避けるローゼが目でアンドレイを追う。鋼のような筋肉をまとった背中は、勢い余ってギャラリーの中に突っ込んで、流血騒ぎの大惨事。「ぎゃ~‼」と、誰かの叫び声が聞こえる。技の流れが完全に体に染みついているのか、アンドレイは攻撃をやめられずに、そのまま三下を締め上げる。
「くっ、クセぇぇ~‼」――ガクッ……
ボキッ、と折れる三下の首。
巨大熊が立ち上がるかのように、のそのそと立ち上がったアンドレイ、暴虐的に破顔した。
「俺は寝技を極めようとするあまり、相手を絞め殺しちまうんだ」
いや、その前に死んでたよね、ソイツ。なんか酸っぱい汗臭おやじ臭で死んでたよね? ガス攻撃ってヒデくね? 頸椎折れたのその後だよね?
「取っ組み合おうぜ」腰を落として前かがみになるアンドレイ。
「絶対いやよ」完全拒絶、ローゼおろおろ。慌ててエミリアにナイスパス。「そうだ、エミリアが相手しなさいよ。格闘家同士なんだから!」
「嫌ですよ、素手のわたしに戦わせるんですか? その棒でやっちゃってくださいよ」
棒って……「素手相手にレイピアだなんて、騎士道精神にも格闘家精神に反するんじゃないの?」
「ローゼさん、騎士じゃないですよね? 見習い騎士でもないですよね?」
「むぐっ」
確かにそうだ。軍学校を出て軍隊に採用されれば、騎士の称号を得ても良いほどの実力をすでに持っているが、現状ただの生徒でしかない。学校も宮廷学校じゃないし、誰か騎士に師事しているわけでもない(近所の騎士から教わっていはいたが)。家柄も平民だからなにか爵位があるわけでもない。
押し付け合う二人の事情なんかお構いなしに、アンドレイは何度も突っ込んでくる。その度に、クラッシュされたギャラリーが何人も捕まって殺されていった。
「がははははははっ!」と武骨に笑うアンドレイにオントワーンが「ボスの筋肉世界一ー」
「「「ボスの筋肉世界一ー」」」(オントワーンの手下一同)
アンドレイは、段々と自らの肉体美に陶酔していく。そのうちポージングをするばかりになって、突っ込んでこなくなった。ギャラリーもボスを取り囲んで、ローゼたち完全無視状態。
ローゼは「仕方がない」、とアンドレイのもとにすたすた歩いていって、「えいっ」っと一突き。見事に腹筋へレイピアが突き刺さる。
「はうっ」と小動物がうめくように小声をあげたアンドレイは地に伏した。
「ボスー‼」と叫ぶパーク。ガーンと言う音が聞こえるほどに顔面蒼白。
「あぁっ、なんてことを」とオントワーンも頭を抱える。
慌てふためく変態どもを無視して、無表情ローゼは「いこっ」とエミリアに一言言って、何もかもを忘却したかのような後ろ姿で立ち去る。「あわれ」と呟いてエミリアも続く。
なんか損した感じのボス戦でした。
「ボス―、ボース、あーそーぼー」
あそぼじゃねーよ、何三等身くらいになってんだよ。ギャグ漫画じゃないんだから。絵無いんだからやめてくれよ。
だが、ローゼはつっこめなかった。本当に遊びではなくなったからだ。途轍もない殺意に満ちた何者かが暗闇に潜んでいる。“遊ぶ”とは“子供が遊ぶ”とかの“遊ぶ”ではない。“命を弄ぶ”の“もてあそぶ”だったのだ。
それを察したローゼとエミリアは、咄嗟に身構える。咆哮猛々しい“何か”が闇を切り裂いて突進してきた。悪魔牙団ボス、アンドレイの登場である。なんという巨魁なのだろうか。二メートル半、否、三メートルか? スキンヘッドで魁偉な顔貌の野獣が襲いくる。
モストラスキュラーポーズ、ダブルバイセップス、フリー、トライセップス、アブドミナル&サイ。目くるめく色とりどりのボディビル・ポージングで迫ってくる。
氷上を滑るかのように滑らかに舞う肉肉しいマッスルボディ。筋肉それぞれの部位が躍動し、別々の生き物であるかのように蠢く。気持ち悪いを通り越して悍ましい。ボディビルの域を完全に逸脱しちょる。
「うひぇぇっ」と震えながら仰け反るローゼ。
二人がどんなに避けてもスーイスイ。「筋肉、筋肉、筋肉、肉肉」とベースを奏でるようなダンディボイスで唸りながら迫ってくる。
「何なのコイツ⁉」
ビビるローゼ。なぜかその後ろで、握る両手を口に添えて、エミリアがキラキラの眼差し。
だがそれも束の間、一瞬の内にローゼたち二人は鼻と頬の肉が削げる思いがした。細胞一つ一つが強張り、表情筋を全く制御できない。
ローゼ、一目散にズザザァァ、と後ずさる。
「て言うか何だッ⁉ 臭い! わき汗くっさい!」
「ほんと、鼻がひんまがちゃいそう」とエミリア。
「ちょっとわたしのマントで鼻塞がないでよ」
鼻を抓んで無理やりマントを奪い返そうとしながら、ローゼが続ける。
「何この臭い。何? 男臭? なんか黄土色のモヤモヤが充満してる」
「ほう、俺のオーラが見えるのか?」アンドレイが、ず太い眉をあげて軽く感嘆した。
オーラじゃねーよ。体臭だよ。別のオーラで滅んでくれよ。ミリィさーん。つーか臭いに色ついてるっておかしくね? どんだけ濃いーんだよ。
アンドレイが、茶色い口髭とアゴヒゲを撫でながら言った。
「久々に骨のあるやつが来たな。その体に余すことなくこの俺の寝技を決めてやろう。
楽しみだぜ、お互いの汗が混ざり合うほどの死闘を繰り広げられるなんてな」
マジやめて。毎日洗っても一生落ちないシミになるほど滲み込んじゃうから。
アンドレイがギアをあげる。
「どりゃあああっ」
転げるように避けるローゼが目でアンドレイを追う。鋼のような筋肉をまとった背中は、勢い余ってギャラリーの中に突っ込んで、流血騒ぎの大惨事。「ぎゃ~‼」と、誰かの叫び声が聞こえる。技の流れが完全に体に染みついているのか、アンドレイは攻撃をやめられずに、そのまま三下を締め上げる。
「くっ、クセぇぇ~‼」――ガクッ……
ボキッ、と折れる三下の首。
巨大熊が立ち上がるかのように、のそのそと立ち上がったアンドレイ、暴虐的に破顔した。
「俺は寝技を極めようとするあまり、相手を絞め殺しちまうんだ」
いや、その前に死んでたよね、ソイツ。なんか酸っぱい汗臭おやじ臭で死んでたよね? ガス攻撃ってヒデくね? 頸椎折れたのその後だよね?
「取っ組み合おうぜ」腰を落として前かがみになるアンドレイ。
「絶対いやよ」完全拒絶、ローゼおろおろ。慌ててエミリアにナイスパス。「そうだ、エミリアが相手しなさいよ。格闘家同士なんだから!」
「嫌ですよ、素手のわたしに戦わせるんですか? その棒でやっちゃってくださいよ」
棒って……「素手相手にレイピアだなんて、騎士道精神にも格闘家精神に反するんじゃないの?」
「ローゼさん、騎士じゃないですよね? 見習い騎士でもないですよね?」
「むぐっ」
確かにそうだ。軍学校を出て軍隊に採用されれば、騎士の称号を得ても良いほどの実力をすでに持っているが、現状ただの生徒でしかない。学校も宮廷学校じゃないし、誰か騎士に師事しているわけでもない(近所の騎士から教わっていはいたが)。家柄も平民だからなにか爵位があるわけでもない。
押し付け合う二人の事情なんかお構いなしに、アンドレイは何度も突っ込んでくる。その度に、クラッシュされたギャラリーが何人も捕まって殺されていった。
「がははははははっ!」と武骨に笑うアンドレイにオントワーンが「ボスの筋肉世界一ー」
「「「ボスの筋肉世界一ー」」」(オントワーンの手下一同)
アンドレイは、段々と自らの肉体美に陶酔していく。そのうちポージングをするばかりになって、突っ込んでこなくなった。ギャラリーもボスを取り囲んで、ローゼたち完全無視状態。
ローゼは「仕方がない」、とアンドレイのもとにすたすた歩いていって、「えいっ」っと一突き。見事に腹筋へレイピアが突き刺さる。
「はうっ」と小動物がうめくように小声をあげたアンドレイは地に伏した。
「ボスー‼」と叫ぶパーク。ガーンと言う音が聞こえるほどに顔面蒼白。
「あぁっ、なんてことを」とオントワーンも頭を抱える。
慌てふためく変態どもを無視して、無表情ローゼは「いこっ」とエミリアに一言言って、何もかもを忘却したかのような後ろ姿で立ち去る。「あわれ」と呟いてエミリアも続く。
なんか損した感じのボス戦でした。
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