19 / 113
第十九話 エミリアの本性
しおりを挟む
我先にとエミリアに群がるセシュターズの面々は、打たれてもなお起き上がって、何度も打ちひしがれにいく。
それを見ていたエルザは、エミリアに言った。
「なかなか見込みがありそうね」
「本当ですか? なんか武道家としての高みに登れるっているか……気合が入るって言うか、とっても気持ちが良いんです」
「せいやぁ‼ せいやぁ‼」と雄叫びをあげながら男どもを打ち払うエミリアの様子が、だんだんとおかしくなってきた。五、六発でようやく一人打倒していたはずなのに、今では一発で吹き飛ばして絶命(?)させるほどだ。
ローゼは恐怖に慄いた。緊急警報! ジェノサイド!
「やばい! あの子興奮しすぎて攻撃力増し増しになってる」
エミリアの目、いっちゃてるよ。めっちゃ血走り、どこ見てんのか分かんない。
「本当に最高! この殴り心地本当に最高!」エミリア狂気の沙汰で恍惚の笑み。
終いには、正面からみぞおちを殴られているのに、後ろに倒れずに前に伏す者まで現れた。ローゼは聞いたことがある。訓練を積んでこぶしを極めた空手家は、こぶしから相手に伝わる破壊力を貫通させるのではなく、体内で爆発させる、と。結果的に、打たれた敵は後ろに倒れるのではなく、前に倒れるのだ。
並大抵の努力ではできないことのはずなのに、エミリアは今それをこなしている。ローゼ愕然。
「すごい、こぶしは寸止めで当っていないのにこんな破壊力って、一体どんだけ才能あんのよ」
ほんの一瞬、数センチ発せられた高濃度の霊力が飛散して、魂魄を直接攻撃しているのだ。
ローゼは思った。この子、変態であるばかりに世には出られない、と。
死者(実際死んでいない……と思われるが)にムチ打つかのように、倒れた男に何度もこぶしを打ち込みながら、エミリアは「痛い? 痛いでしょ? わたしのこぶし! 殴られたいんでしょ! わたしのこぶしに! 言ってみなさいよ、ほら言ってみなさいよ」と一心不乱に叫びを浴びせる。
ローゼは腰が抜けそうなほど震えた。
「あわわわわ、あんな子と一緒にいたら、いつわたしがあんな目に合うか分からないわ……」
もう報酬なんていらない。あの子一人を残して逃げようとしたローゼに、エミリアが叫ぶ。
「ローゼさん、ここはわたしに全部任せて、教祖(スターレッツ)の人を‼」
エミリアは、極度の興奮からいやらしい息遣いで、殴られに来る次の獲物を見やる。もはや人ではない動き。高速移動の蜥蜴を彷彿させる。ローゼの背中に悪寒が走った。
(逃げられない。もし逃げてばれたら、わたしが屠られる。しかもドSな所業で‼)
「はっ、はい!」と返事をしたローゼは、レイピアを構えなおしてエルザを見据えた。
「アイツもサドのド変態だけれど、こいつらの相手をするよりはましよね(何よりもエミリアの)、間違っても虐殺にはならないし。……ってちょっとどこ向いてんのよ」
エルザは、一騎打ちを挑みに来たローゼに気がついていない。そればかりか、エミリアに倒された信者をムチ打って叫んでいる。いや楽しんでいる。
「なんて情けない! こんな乳臭そうなガキにやられて悔しくないの?」
激しく打ちすえるムチの音が響く。
「この程度のパンチに昇天しているってどういうことなのよ⁉ はあはあ、起きなさい! 起きてもっと戦いなさい! はあはあ」
よく見ると、叱咤しているようで拷問しているだけだ。信者をムチ打って攻撃力更に十倍。それって十倍の十倍か?
地面を弾くたびにその衝撃がローゼたちにまで伝わる。あの威力、常人が受けたら絶対真っ二つだ。
「ああっ、気持ちいい!」
ゾクゾクと震えてクネクネ身をよじらせるエルザは、ムチを使って意識のない信者を絡めて立たせ、操り人形のようにこき使い出した。信じられない。ムチで絡みとられた信者たちは、突撃を命じられた傭兵の如く、ローゼたちに襲い掛かる。もちろん気を失ったままだ。
エミリアも負けじと、↑↑↓↓右左右左ABCDLRの連続パンチに連撃キック、「飛翔けーん!」と叫んで竜巻アッパー。意識のない信者を立たせて、自分を襲ってくるかのように見せかける。「飛翔けーん!」
「お前ら同類か!」と叫びながら、二人から投げつけられる信者を避けつつ、剣帯から鞘を外したローゼは、右手のレイピアと持ち替えた。拘束具で責められたままの男達を殺すのは忍びない(実際は殺したいくらいキモがっている)ので、鞘で打ち据えよう、というのだ。
そうと気がついたセシュターズは、一斉にローゼに群がる。
「え? え? ちょっとなんでわたしの方にばかり来るよの」
慌てふためくローゼに、エルザが教えてやった。
「当り前じゃない。今の金髪の子は一撃必殺の正拳突きを放ってくるのよ。あれじゃあ、一瞬でオダブツだわ。こいつらは、もっとじらして責められたいんだから」
「女王様ー! 女王様ー!」と、ローゼに群がるセシュターズ。
「わたしゃ女王様じゃないわよ」
大虐殺はどうしても避けたい。ローゼはレイピアを持ちかえ直し、ナックルガードで殴り倒す。殴るのは得意ではないけれど、大振りのストレートだから威力絶大。でも接近戦をすると取り囲まれて気持ち悪いから、ブレード(根元から三分の二には刃がない)を持ってポメルで打撃のモルトシュラーク。鞭のように撓るトンカチと同じだから、スッゲー威力だ。並大抵のやつなら頭がい骨陥没で死んじゃうんだけれど、そこは鍛えられた(?)セシュターズ。すぐに甦っては打たれに集う。キリがないから、鞘も使って二刀流。
それを見て、エミリアが叫んだ。
「あー! ずるいですローゼさん、わたしのドレ……ごぼごぼん、対戦者? を」
「あんた、今奴隷って言おうとした? ねえ言おうとした?」
「悪いですか? この人たちの肉にこぶしが食い込んだ時の柔らかくて生温かい感触に、ああ、興奮しすぎて鼻水が!」
興奮の極みだ。続けて、
「――鼻水が! これってわたしが女王様だってことでしょう?」
開き直ったエミリアにそう問われて、エルザは何度も優しく頷く。それを見たエミリアが納得した様子で言った。
「それなら、コイツら奴隷じゃない? 何をしてもいいわたしの奴隷じゃない?」
否定しようものなら、肯定するまで殴り続けられかねない。撲殺必死の形相だ。ローゼは心底震えた。
「分かった、分かったから、わたしは殺さないで! あ、こいつらもせめて殺さないようにね。奴隷たちを気持ちよくしばいてあげるのが、女王様なんだから」
さっきエミリアが殺したやつがまだ死んでいませんように、とローゼは祈った。それを見てとったのか、エミリアが初殺人の被害者の方を見やって言った。
「ローゼさんがお気づきのように、あの人まだ死んでいないんですよ。トドメ刺さないと」
「やめて! やめて! やめて!」
「じゃあ、そっちに行った信者もわたしにくれますか?」
「あげるわよ、こんなの。一人もいらないわ」
おー怖い、といった風に身震いしたローゼは、ようやくエルザを一騎打ちの場に立たせることが出来た。
それを見ていたエルザは、エミリアに言った。
「なかなか見込みがありそうね」
「本当ですか? なんか武道家としての高みに登れるっているか……気合が入るって言うか、とっても気持ちが良いんです」
「せいやぁ‼ せいやぁ‼」と雄叫びをあげながら男どもを打ち払うエミリアの様子が、だんだんとおかしくなってきた。五、六発でようやく一人打倒していたはずなのに、今では一発で吹き飛ばして絶命(?)させるほどだ。
ローゼは恐怖に慄いた。緊急警報! ジェノサイド!
「やばい! あの子興奮しすぎて攻撃力増し増しになってる」
エミリアの目、いっちゃてるよ。めっちゃ血走り、どこ見てんのか分かんない。
「本当に最高! この殴り心地本当に最高!」エミリア狂気の沙汰で恍惚の笑み。
終いには、正面からみぞおちを殴られているのに、後ろに倒れずに前に伏す者まで現れた。ローゼは聞いたことがある。訓練を積んでこぶしを極めた空手家は、こぶしから相手に伝わる破壊力を貫通させるのではなく、体内で爆発させる、と。結果的に、打たれた敵は後ろに倒れるのではなく、前に倒れるのだ。
並大抵の努力ではできないことのはずなのに、エミリアは今それをこなしている。ローゼ愕然。
「すごい、こぶしは寸止めで当っていないのにこんな破壊力って、一体どんだけ才能あんのよ」
ほんの一瞬、数センチ発せられた高濃度の霊力が飛散して、魂魄を直接攻撃しているのだ。
ローゼは思った。この子、変態であるばかりに世には出られない、と。
死者(実際死んでいない……と思われるが)にムチ打つかのように、倒れた男に何度もこぶしを打ち込みながら、エミリアは「痛い? 痛いでしょ? わたしのこぶし! 殴られたいんでしょ! わたしのこぶしに! 言ってみなさいよ、ほら言ってみなさいよ」と一心不乱に叫びを浴びせる。
ローゼは腰が抜けそうなほど震えた。
「あわわわわ、あんな子と一緒にいたら、いつわたしがあんな目に合うか分からないわ……」
もう報酬なんていらない。あの子一人を残して逃げようとしたローゼに、エミリアが叫ぶ。
「ローゼさん、ここはわたしに全部任せて、教祖(スターレッツ)の人を‼」
エミリアは、極度の興奮からいやらしい息遣いで、殴られに来る次の獲物を見やる。もはや人ではない動き。高速移動の蜥蜴を彷彿させる。ローゼの背中に悪寒が走った。
(逃げられない。もし逃げてばれたら、わたしが屠られる。しかもドSな所業で‼)
「はっ、はい!」と返事をしたローゼは、レイピアを構えなおしてエルザを見据えた。
「アイツもサドのド変態だけれど、こいつらの相手をするよりはましよね(何よりもエミリアの)、間違っても虐殺にはならないし。……ってちょっとどこ向いてんのよ」
エルザは、一騎打ちを挑みに来たローゼに気がついていない。そればかりか、エミリアに倒された信者をムチ打って叫んでいる。いや楽しんでいる。
「なんて情けない! こんな乳臭そうなガキにやられて悔しくないの?」
激しく打ちすえるムチの音が響く。
「この程度のパンチに昇天しているってどういうことなのよ⁉ はあはあ、起きなさい! 起きてもっと戦いなさい! はあはあ」
よく見ると、叱咤しているようで拷問しているだけだ。信者をムチ打って攻撃力更に十倍。それって十倍の十倍か?
地面を弾くたびにその衝撃がローゼたちにまで伝わる。あの威力、常人が受けたら絶対真っ二つだ。
「ああっ、気持ちいい!」
ゾクゾクと震えてクネクネ身をよじらせるエルザは、ムチを使って意識のない信者を絡めて立たせ、操り人形のようにこき使い出した。信じられない。ムチで絡みとられた信者たちは、突撃を命じられた傭兵の如く、ローゼたちに襲い掛かる。もちろん気を失ったままだ。
エミリアも負けじと、↑↑↓↓右左右左ABCDLRの連続パンチに連撃キック、「飛翔けーん!」と叫んで竜巻アッパー。意識のない信者を立たせて、自分を襲ってくるかのように見せかける。「飛翔けーん!」
「お前ら同類か!」と叫びながら、二人から投げつけられる信者を避けつつ、剣帯から鞘を外したローゼは、右手のレイピアと持ち替えた。拘束具で責められたままの男達を殺すのは忍びない(実際は殺したいくらいキモがっている)ので、鞘で打ち据えよう、というのだ。
そうと気がついたセシュターズは、一斉にローゼに群がる。
「え? え? ちょっとなんでわたしの方にばかり来るよの」
慌てふためくローゼに、エルザが教えてやった。
「当り前じゃない。今の金髪の子は一撃必殺の正拳突きを放ってくるのよ。あれじゃあ、一瞬でオダブツだわ。こいつらは、もっとじらして責められたいんだから」
「女王様ー! 女王様ー!」と、ローゼに群がるセシュターズ。
「わたしゃ女王様じゃないわよ」
大虐殺はどうしても避けたい。ローゼはレイピアを持ちかえ直し、ナックルガードで殴り倒す。殴るのは得意ではないけれど、大振りのストレートだから威力絶大。でも接近戦をすると取り囲まれて気持ち悪いから、ブレード(根元から三分の二には刃がない)を持ってポメルで打撃のモルトシュラーク。鞭のように撓るトンカチと同じだから、スッゲー威力だ。並大抵のやつなら頭がい骨陥没で死んじゃうんだけれど、そこは鍛えられた(?)セシュターズ。すぐに甦っては打たれに集う。キリがないから、鞘も使って二刀流。
それを見て、エミリアが叫んだ。
「あー! ずるいですローゼさん、わたしのドレ……ごぼごぼん、対戦者? を」
「あんた、今奴隷って言おうとした? ねえ言おうとした?」
「悪いですか? この人たちの肉にこぶしが食い込んだ時の柔らかくて生温かい感触に、ああ、興奮しすぎて鼻水が!」
興奮の極みだ。続けて、
「――鼻水が! これってわたしが女王様だってことでしょう?」
開き直ったエミリアにそう問われて、エルザは何度も優しく頷く。それを見たエミリアが納得した様子で言った。
「それなら、コイツら奴隷じゃない? 何をしてもいいわたしの奴隷じゃない?」
否定しようものなら、肯定するまで殴り続けられかねない。撲殺必死の形相だ。ローゼは心底震えた。
「分かった、分かったから、わたしは殺さないで! あ、こいつらもせめて殺さないようにね。奴隷たちを気持ちよくしばいてあげるのが、女王様なんだから」
さっきエミリアが殺したやつがまだ死んでいませんように、とローゼは祈った。それを見てとったのか、エミリアが初殺人の被害者の方を見やって言った。
「ローゼさんがお気づきのように、あの人まだ死んでいないんですよ。トドメ刺さないと」
「やめて! やめて! やめて!」
「じゃあ、そっちに行った信者もわたしにくれますか?」
「あげるわよ、こんなの。一人もいらないわ」
おー怖い、といった風に身震いしたローゼは、ようやくエルザを一騎打ちの場に立たせることが出来た。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる