DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第二十二話 何の知識もない時って、妙な興味を持っちゃうよね

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 夜も更けてきた暗闇の中。辺りを照らすのは丸い月光と綺羅星、そしてランプのみ。ローゼとエミリアの二人が対峙する大男の吸血鬼は、気合を入れるように唸っている。力を溜めさせる前に倒してしまおう、と先手必勝とばかりに第四(フェンシングの構え風)に構えたローゼが突撃すると、みるみる間にホロヴィッツの体が膨らんでいく。
 ローゼは、「ううぁ! こんなのあり~⁉」と叫んで急ブレーキ。自信満々だった彼女がびっくりするのも無理はない。雄たけびを上げて筋肉を膨らませたホロヴィッツは、自らの服を引き裂くまでに巨大化していったからだ。
 いやでも、恐ろしいのか恐ろしくないのか、よく分からない姿だ。蠢く筋肉に覆われた巨体は恐ろしいはずだが、黒いTバック一枚の風貌は変態でしかない。
 準備万端、とばかりに自信満々の笑みを浮かべる吸血鬼は、巨魁を駆使して風呂上りの親父がするかのように、両脇を交互にぱんぱんと叩きながら言った。
 「俺は圧倒的に強いぞ、女剣士。明日の食事にしてやろうと思っていたが、今晩の夜食として、お前らの血をなぶり啜ってやろう」
 それを聞いて、エミリアが激しく自らを憐憫する。
 「ひぇぇぇ~! ローゼさんあんなこと言っていますよ! わたし血を吸われるのなんて嫌ですからね!」
 「かっ、勝てば良いのよ! 勝てば」
 ヒグマのようなガタイへの変化にビビりまくる二人は、泣き叫びながらぞの場で構える。
 「ん?」とローゼが何かに気がついた。よく見ると、筋骨隆々な全身を何かが蠢いている。
 「あんたの体、何か変にうごうごしているけれど、一体……」
 「知りたいのであれば、その目で確かめてみたらどうだ‼」
 そう叫んだ吸血鬼は、勢いよく腕を振るって蠢く何かを大量に放った。マントで身を覆ったローゼがランプをかざして見てみると、親指よりも大きなナメクジがマントをはいずっている。
 「ええ⁉ ちょっとナメクジ? 変なもの投げないでよ」
 「ナメクジなんかと一緒にするな! そいつらは俺の忠実なるしもべ、ヒルだ」
 「ヒルって……、吸血鬼の眷属って普通コウモリなのでは?」
 「俺は、普通の吸血鬼とは違うのだ。我が名はホロヴィッツ男爵! ヒルの吸血鬼ヒルパイアだ」
 「ヒルパイア⁉…………なんかカッコわる~」(ローゼ&エミリア)
 「聞きたいか?」
 「……」(ローゼ&エミリア)
 「ふっふっふっ、教えてやろう」
 聞きたくないよ。二人が答えないのをいいことに、ホロヴィッツは自分の過去を勝手に話し始める。
 「あれは、俺がまだ十歳の時であった。故郷のトラントで貧しい農家であった俺の家は――」
 「ちょっと待って」とローゼが止める。「あんた、さっき男爵だって言っていたじゃない。なんで自治都市の隅っこで農家やっているのよ。自分の領地はどうなっているの?」
 エミリアが顎に指を添えて言う。
 「一代男爵じゃないですか? 何か功績があって地位をもらったとか?」
 「貴族が治めていない自治都市なのに?」
 ヒルパイアになった経緯よりも出自が気になっている、と察したホロヴィッツは、まずはそこに答える。
 「ん、まあ、実家は農家だよ。男爵っていうのは、吸血鬼ってみんな男爵じゃん?」
 「何それ、バロンでもバロネットでもなんでもないじゃん、つーか普通伯爵では?」
 ローゼは呆れ顔だ。そんなことはお構いなしに、ホロヴィッツは話しを続けた。
 「――そう、あれは俺が十歳の時だった。麦刈りの最中に幼馴染みの女の子の足にヒルがくっついているのを見つけたんだ。
  俺はそのヒルをとってやったんだが、投げ捨てたヒルがどうも気になって、休憩するふりをしてヒルを投げた方に行ったんだ。
  見ると、幼馴染みの血を吸ったヒルは丸々と太っていてな、こうゾワゾワとした悪寒の様なものが全身に走った」
 そう言って、ホロヴィッツは身を悶えさせる。ローゼは嫌な予感がした。
 ホロヴィッツが続ける。
 「こいつがビアンカちゃんの血を吸っていたのかと思うと妙に興奮してしまって、思わず俺はヒルを手に取って眺めていた。そして気がついた時には、ビアンカちゃんの血を(ヒルから)吸い取っていたのだ」
 「うげっ! 気色わる!」とローゼが声を漏らすと、エミリアも「最悪ですね」と身を震わす。その声を聞いたホロヴィッツは、鼻の穴をヒクヒクさせながら喘ぐ。
 「そう……、ビアンカちゃんもそう蔑んだんだ。はあはあ、後ろを振り向くと、はあはあ、一緒に休憩しようとしたビアンカちゃんが、はあはあ、俺を白い目で見ていたんだ。
  次の日、俺の噂は地区の女子中に広まっていて、俺はみんなから罵声を浴びせられる毎日を送ることになった」
 「なんか可哀想ですね」と言うエミリアに、ローゼが「自業自得でしょ」と答えた。
 ホロヴィッツはそんなのお構いなし。話に一人で没頭し続ける。
 「同情なんていらない。俺は学校中の女子から蔑みの言葉や罵りの言葉を陰でこそこそ言われて、どれだけ気持ちの良い思いをしたことか」
 「エミリアと相性合うんじゃない?」ローゼがエミリアを蔑む。
 「ええ? 合いませんよ全く」
 ドSとドМの名コンビになりそうだな、とローゼは思った。
 二人の注目が戻るのを待って、ホロヴィッツが続きを話し始める。
 「俺はビアンカちゃんの血を啜った時の興奮が忘れられなくて、夜な夜なクラスメイトの女子の部屋に忍び込んで、その肌にヒルを這わせてはヒルをちゅぱちゅぱしていた」
 「きしょっ!」と叫んだ二人はたじろぐ。全身鳥肌。その瞬間、ホロヴィッツが恍惚の笑みを浮かべる。
 「だがある時忍び込んだ家の両親に見つかってしまってな。俺は捕まってしまって、家族も俺の変態行為が恥ずかしいと言って、都市にもいられなくなってしまったんだ」
 「でしょうね、もう帰りましょう、エミリア」ローゼが馬の手綱に手をかける。
 「倒さないんですか? 通商手形持っているかもしれないのに」
 ああ、そうだった、と思い出したローゼは、しょうがないので話を聞き続けた。
 「だが俺は諦めなかった」ホロヴィッツが言うと、
 「もう、諦めてよ」とローゼつっこむ。
 「遠い村に引っ越した俺だったが、夜な夜なトラントに忍び込んでは、クラスメイトの血を吸い続けたんだ」
 「元(クラスメイト)だろ? 引っ越し先の村人を襲いなさいよ」とローゼが指摘。
 「村はさびれていて、おばあちゃんと中年おばさんしかいなかったんだ」
 「なるほど……――て贅沢言ってるんじゃないわよ!」
 二人の会話を聞いていたエミリアが割って入って、ローゼに言った。
 「そんなことよりローゼさん、城壁都市のトラントによく忍び込めましたね」
 確かにそうだ。夜になればどこの城壁都市でも城門は閉じるはず。トラントに行ったことはないが、大抵どこも十mくらいの壁に囲まれている。トラントだってそのくらいの壁で囲われているはずだ。
 ホロヴィッツが、エミリアの疑問に答えて言う。
 「そう、その時の俺もそう思った。だが、こみ上げる野心は俺を突き動かした」
 「格好良く言っているけど、ただの変態目当てよね」とローゼが眉間にしわよせる。
 「引っ越すまでに毎晩血を吸い続けた俺の体の中には、魔力が宿り始めていたんだ。空中を舞うことが出来るようになった俺にとって、城壁など無いに等しかった。
  そうして学校中、いやトラント中の女子の血を吸い尽くしたある満月の晩、吸血鬼へと変貌を遂げたのだ」
 なんか、大変な修行をして強大な力を手に入れた的な話をしているが、想像すると吐きそうになる。アンドレイたちといいエルザといい、悪魔牙団にはド変態しかおらんのか、と思ったローゼは、さっさと倒して飲みなおそう、とレイピアの切先を使ってカモンカモン、と挑発を繰り返した。

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