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第三十二話 入れ歯のホントの使い方
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ちょうどその頃おむつジジイ。ようやく追いついたアリアスと行きつけの店で二番三番四番砂糖か? 幾多の店をはじご砂糖。ローゼは、城壁迷路の様な裏の繁華街を走り回って、辺り構わずパブに乱入、捜査しまくる。健全そうな酒屋やおねーちゃんがいないお店は捜索しない。おにーちゃんのお店(ホストクラブ)は論外にした。
旧市街らしきここは、元々砦だったのだろうか。長方形の苔むして黒ずんだ石が積まれた壁が、切れ目なく続いている。その壁に扉や鎧戸がついていて、一つ一つが何かの店になっているようだ。
どういう鼻をしているのか、ローゼは看板の出ていないお店も嗅ぎ当てて、無理やり押し入る。
十数件目の怪しいパブ。激しく扉を開けて、ローゼが踏み込む。
「そこにいたか! もうどうしてこうぼられそうなお店ばかり――」
のした(倒した)店の用心棒からジジイの情報を得られた店は、みんなぼったくりパブ。
「だって、そういう女が好きなんじゃんもん」おむつジジイが言い訳かます。
明らかに酒(砂糖)と女で身を滅ぼす典型だ。あの強さがなかったら、遠い昔にこの世にいない。石と一緒に簀巻きにされて海の藻屑。
ローゼが自分の目を疑った。
「――て何アリアス一緒に砂糖水飲んでんのよ⁉ そのジジイ敵でしょ?」
姉をさらったやつじゃないから良いらしい。
「今日わたしが葬っちゃる」とローゼ。引導を渡す気満々でレイピアを抜いた。「エミリアの仇はわたしが討つ!」
「なんじゃ、自分がやったくせに」
ていうか逃げられたくせに。
ブロードソードを抜いた用心棒と戦闘開始。男の方がタッパとリーチがあるけれど、ローゼにとってはそんなの関係ない。こちとら剣身百センチのレイピア持っているんだから。ブロードソードを振り上げる用心棒の額目掛けて、ノーモーションで軽く刺突。後ろから襲ってきたやつの足を払って、男が倒れる間に額を薙いだ。
一方的な大乱闘はすぐに終止符、最後の一人。バックラー代わりに壺の木蓋を持って構える用心棒。ビビッているの丸わかり。ローゼはスタスタ歩いていって、マントをはためかせてブロードソードにひらりをかける。重りは入っていないけれど、マントの重みを支えきれない男の手首が大きく下がる。
ネーベンフート〈後ろ下段の構え〉のローゼが踏み込んだ瞬間、「お助け―!」と男がブロードソードと木蓋を捨てて膝をついた。恐怖に顔をゆがめる男のこめかみに切先をロックしたまま、顔面を踏みつけ蹴り倒す。
スウェップ・ヒルトに指を引っ掛けてくるくるとレイピアを回し、おむつジジイに向き直ると同時に刃で宙を切って、ローゼはポーズを決めた。威嚇するかのように笑みを浮かべる。ようやくその気になったおむつジジイ。ゆっくりとソファから立ち上がって歩み出る。
ローゼとジジイが戦闘開始。固唾を飲んで見守るお店の人たち。先に仕掛けたのはローゼの方。軽やかにステップを踏んで顔面めがけて刺突する。頭長くて的大きいのに、思うように当らない。
後ろに回り込もうとするおむつジジイを常に正面に据えるローゼの足さばきに、少し剣術をかじっていた用心棒が感心している。ローゼは、さすがわたし、と満面の笑み。しかしそれが仇となった。格好つけて大きく切り込んだところを空かされて、遂に背後に回られた。
後方にレイピアを構えて前に走ったローゼは、気配でおむつジジイとの間合いを計る。滑る様に制止反転、足を大きく開いて腰を下ろした左オクス(頬の横で切先を敵に向ける)に構えて、襲いくるジジイめがけてカウンター。螺旋を描く様に鋭いアブゼッツェン・ステッヒェン(刺突)が放たれる。
耳を劈くほどの金属音が店内に鳴り響く。
おむつジジイがニタ病みながらローゼをねめつけて、声を発した。
「お嬢ちゃん、モノホンのレイピア持っとるから、一体どんなワザもんかと思ったら、随分とウブな刃じゃのう。全然血を吸っておらんじゃろう?」
しゃぶりついて、よりねちっこくニヤリとする。なんとおむつジジイは、一直線に喉元を貫こうとした切先を入れ歯で真剣白刃取り。人間技じゃもちろんねぇ。まあ、人間じゃないと思うけど。
でもローゼ、その凄さには驚かない。別の凄さにビックリしながら慌てふためく。
「血出てるよ! 吸い切れないほど溢れてるから‼」
「ぶはぁぁっ、いって~! 何するんじゃい! 口ん中切っちまったじゃねーかよぉぅ」
「しゃぶりつくから……」
痴ほう症始まってんじゃないの?
「おーこわっ、最近の若いもん、おーこわっ」おむつジジイがつばきをまき散らしてローゼを責める。
お店のみんなもローゼを非難。
弱いふりして甘えるジジイは、ソファに戻っておねーちゃんにひざまくら。頭スリスリ、お尻フリフリ。ローゼを指さして泣きじゃくる。おねーちゃんは、顔をしかめてローゼを見やる。
「なんてかわいそうな、おむつちゃん」
母性くすぐられたおねーちゃん。労わるように抱きしめる。大きな胸に挟まれて見えるジジイのまなこは真っ暗闇光。人を陥れようとする卑劣な眼差しでローゼをガン見している。
おむつジジイが、悲痛な胸の内を激しく吐露し出した。
「あの女がわしをいじめーるんじゃぁぁぁ」
「ひどいわ」とジジイを抱きしめる女が言った。
「うぐぐ、わたし悪くないもん」ローゼが歯を噛んで我慢している。
「ひどいわひどいわ」と他のおねーちゃんたちが唱和する。
寄って集って非難されて、さすがのローゼもタジタジだ。
「わしは良かれと思って、やってんのにぃぃぃ」
「ひどいわ」とおねーちゃん。
「ひどいわひどいわ」続けてみんなが唱和する。
「実際可愛くねーんだよ、どブス」
誰だよ! 今の?
おむつジジイが更に続けて、おねーちゃんに訴えかける。
「わしが年取っておって何も知らんのを良いことにぃぃぃ」
「ひどいわ」
「ひどいわひどいわ」(おねーちゃんたち)
「お前のおなかーでーべーそー」
誰だよ! お前かエミリア、さっきのもお前だろっ!
ローゼが疑心交じりに言葉を吐いた。
「まったく油断も隙もありゃしない。わたしのポジション狙ってるなんて」
「だって面白そーなんだもん」とふてぶてしいキツネ顔で笑ってえっへんポーズ。
コップの砂糖をなめまわしながら、おむつジジイがほくそ笑む。
「霊力使えんよーじゃの。――ならスモールソード(レイピアの短いやつ)で十分じゃろ」
「わたしの実力見てから言ってよね」とローゼ微笑。戦闘再開。おむつジジイめがけて突撃したローゼは、後方下段に構えていたレイピアを振り上げて、喉元目掛けて振り下ろす。
「お前さんにも母性はあるじゃろ―? ワシを抱きしめて労わっておくれー」
上半身だけを半身にして避けたおむつジジイは、ローゼの懐目掛けて飛び込んでくる。咄嗟に腰のダガーを抜いて、ローゼ応戦。ニタ病むジジイがダガーをしゃぶる。
「ほの、ふぁがーもてぃーふってないよーしゃのー」
何言っているか分からないおむつジジイを仕留めようと「ぬぐぐ」と唸りながら、ローゼはダガーを口に押し込もうとする。左足のすねを斬りつけようとしたレイピアをぴょいと飛んで避けたおむつジジイは、そのままくるくるバック転。押し合っていた相手の力を失ってよろめくローゼをにやけ顔で見やりながら、着地と同時に窓に向かってまたジャンプ。そのまま木窓を突き破って、姿をくらました。
旧市街らしきここは、元々砦だったのだろうか。長方形の苔むして黒ずんだ石が積まれた壁が、切れ目なく続いている。その壁に扉や鎧戸がついていて、一つ一つが何かの店になっているようだ。
どういう鼻をしているのか、ローゼは看板の出ていないお店も嗅ぎ当てて、無理やり押し入る。
十数件目の怪しいパブ。激しく扉を開けて、ローゼが踏み込む。
「そこにいたか! もうどうしてこうぼられそうなお店ばかり――」
のした(倒した)店の用心棒からジジイの情報を得られた店は、みんなぼったくりパブ。
「だって、そういう女が好きなんじゃんもん」おむつジジイが言い訳かます。
明らかに酒(砂糖)と女で身を滅ぼす典型だ。あの強さがなかったら、遠い昔にこの世にいない。石と一緒に簀巻きにされて海の藻屑。
ローゼが自分の目を疑った。
「――て何アリアス一緒に砂糖水飲んでんのよ⁉ そのジジイ敵でしょ?」
姉をさらったやつじゃないから良いらしい。
「今日わたしが葬っちゃる」とローゼ。引導を渡す気満々でレイピアを抜いた。「エミリアの仇はわたしが討つ!」
「なんじゃ、自分がやったくせに」
ていうか逃げられたくせに。
ブロードソードを抜いた用心棒と戦闘開始。男の方がタッパとリーチがあるけれど、ローゼにとってはそんなの関係ない。こちとら剣身百センチのレイピア持っているんだから。ブロードソードを振り上げる用心棒の額目掛けて、ノーモーションで軽く刺突。後ろから襲ってきたやつの足を払って、男が倒れる間に額を薙いだ。
一方的な大乱闘はすぐに終止符、最後の一人。バックラー代わりに壺の木蓋を持って構える用心棒。ビビッているの丸わかり。ローゼはスタスタ歩いていって、マントをはためかせてブロードソードにひらりをかける。重りは入っていないけれど、マントの重みを支えきれない男の手首が大きく下がる。
ネーベンフート〈後ろ下段の構え〉のローゼが踏み込んだ瞬間、「お助け―!」と男がブロードソードと木蓋を捨てて膝をついた。恐怖に顔をゆがめる男のこめかみに切先をロックしたまま、顔面を踏みつけ蹴り倒す。
スウェップ・ヒルトに指を引っ掛けてくるくるとレイピアを回し、おむつジジイに向き直ると同時に刃で宙を切って、ローゼはポーズを決めた。威嚇するかのように笑みを浮かべる。ようやくその気になったおむつジジイ。ゆっくりとソファから立ち上がって歩み出る。
ローゼとジジイが戦闘開始。固唾を飲んで見守るお店の人たち。先に仕掛けたのはローゼの方。軽やかにステップを踏んで顔面めがけて刺突する。頭長くて的大きいのに、思うように当らない。
後ろに回り込もうとするおむつジジイを常に正面に据えるローゼの足さばきに、少し剣術をかじっていた用心棒が感心している。ローゼは、さすがわたし、と満面の笑み。しかしそれが仇となった。格好つけて大きく切り込んだところを空かされて、遂に背後に回られた。
後方にレイピアを構えて前に走ったローゼは、気配でおむつジジイとの間合いを計る。滑る様に制止反転、足を大きく開いて腰を下ろした左オクス(頬の横で切先を敵に向ける)に構えて、襲いくるジジイめがけてカウンター。螺旋を描く様に鋭いアブゼッツェン・ステッヒェン(刺突)が放たれる。
耳を劈くほどの金属音が店内に鳴り響く。
おむつジジイがニタ病みながらローゼをねめつけて、声を発した。
「お嬢ちゃん、モノホンのレイピア持っとるから、一体どんなワザもんかと思ったら、随分とウブな刃じゃのう。全然血を吸っておらんじゃろう?」
しゃぶりついて、よりねちっこくニヤリとする。なんとおむつジジイは、一直線に喉元を貫こうとした切先を入れ歯で真剣白刃取り。人間技じゃもちろんねぇ。まあ、人間じゃないと思うけど。
でもローゼ、その凄さには驚かない。別の凄さにビックリしながら慌てふためく。
「血出てるよ! 吸い切れないほど溢れてるから‼」
「ぶはぁぁっ、いって~! 何するんじゃい! 口ん中切っちまったじゃねーかよぉぅ」
「しゃぶりつくから……」
痴ほう症始まってんじゃないの?
「おーこわっ、最近の若いもん、おーこわっ」おむつジジイがつばきをまき散らしてローゼを責める。
お店のみんなもローゼを非難。
弱いふりして甘えるジジイは、ソファに戻っておねーちゃんにひざまくら。頭スリスリ、お尻フリフリ。ローゼを指さして泣きじゃくる。おねーちゃんは、顔をしかめてローゼを見やる。
「なんてかわいそうな、おむつちゃん」
母性くすぐられたおねーちゃん。労わるように抱きしめる。大きな胸に挟まれて見えるジジイのまなこは真っ暗闇光。人を陥れようとする卑劣な眼差しでローゼをガン見している。
おむつジジイが、悲痛な胸の内を激しく吐露し出した。
「あの女がわしをいじめーるんじゃぁぁぁ」
「ひどいわ」とジジイを抱きしめる女が言った。
「うぐぐ、わたし悪くないもん」ローゼが歯を噛んで我慢している。
「ひどいわひどいわ」と他のおねーちゃんたちが唱和する。
寄って集って非難されて、さすがのローゼもタジタジだ。
「わしは良かれと思って、やってんのにぃぃぃ」
「ひどいわ」とおねーちゃん。
「ひどいわひどいわ」続けてみんなが唱和する。
「実際可愛くねーんだよ、どブス」
誰だよ! 今の?
おむつジジイが更に続けて、おねーちゃんに訴えかける。
「わしが年取っておって何も知らんのを良いことにぃぃぃ」
「ひどいわ」
「ひどいわひどいわ」(おねーちゃんたち)
「お前のおなかーでーべーそー」
誰だよ! お前かエミリア、さっきのもお前だろっ!
ローゼが疑心交じりに言葉を吐いた。
「まったく油断も隙もありゃしない。わたしのポジション狙ってるなんて」
「だって面白そーなんだもん」とふてぶてしいキツネ顔で笑ってえっへんポーズ。
コップの砂糖をなめまわしながら、おむつジジイがほくそ笑む。
「霊力使えんよーじゃの。――ならスモールソード(レイピアの短いやつ)で十分じゃろ」
「わたしの実力見てから言ってよね」とローゼ微笑。戦闘再開。おむつジジイめがけて突撃したローゼは、後方下段に構えていたレイピアを振り上げて、喉元目掛けて振り下ろす。
「お前さんにも母性はあるじゃろ―? ワシを抱きしめて労わっておくれー」
上半身だけを半身にして避けたおむつジジイは、ローゼの懐目掛けて飛び込んでくる。咄嗟に腰のダガーを抜いて、ローゼ応戦。ニタ病むジジイがダガーをしゃぶる。
「ほの、ふぁがーもてぃーふってないよーしゃのー」
何言っているか分からないおむつジジイを仕留めようと「ぬぐぐ」と唸りながら、ローゼはダガーを口に押し込もうとする。左足のすねを斬りつけようとしたレイピアをぴょいと飛んで避けたおむつジジイは、そのままくるくるバック転。押し合っていた相手の力を失ってよろめくローゼをにやけ顔で見やりながら、着地と同時に窓に向かってまたジャンプ。そのまま木窓を突き破って、姿をくらました。
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