DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第三十五話 ついに来たか卑猥な魔の手? ローゼを襲う男たち

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 「いい加減に吐いちまいなよ」看守頭が言う。
 天井付近の壁に、鉄格子のついた小さな窓しかない一室。ローゼはささくれた安っぽい椅子に座らされていた。もちろん尋問部屋だ。尋問部屋か? 磔用の十字架と鉄が仕込まれていそうな短い革のムチ。石ころが直火で焼かれている。ちょっとした拷問部屋ではないですか? ローゼガタガタ震えている。別室ではエミリアも尋問を受けていた。
 看守頭が机をバンバン叩くたびに、ローゼは慄いて目を瞑る。
 看守頭が凄んで言った。
 「爺さんから全部聞いてんだよ。おむつ奪って売っぱらう気だったんだろ?」
 「ですから、おむつジジイが――田中さんが嘘ついてますって」
 「嘘ついているのはお前だ。酒代に困っての犯行だろ? 無一文だったお前は、代金を払えないのに飲み屋に入って、飲むだけ飲んで踏み倒したんだろ? 店の従業員も証言してる」
 「田中さんがわたしのお金奪って払いましたよ」
 「代金は銅チップ(銅の細かい板、銅貨の十分の一)一枚すら払われて無いってよ。暴れて店をめちゃくちゃにしたってな」
 やられた。暴れたっていうのは確かだが……。
 どこかの部屋から、泣き叫ぶ男たちの声が聞こえる。まさか大国の町でこんなことが行われていようとは。ローゼは、自分はミッドエルの国民だと訴えるが、聞く耳を持ってもらえない。
 ローゼは不安にさいなまれながら言った。
 「まさか本当にあんなことしないよね? だってやったら国際問題に――」
 ローゼはなんとか落ち着こうと、深い深呼吸を繰り返す。
 取り乱したローゼの態度とはうって変わって、正面に座る看守頭は、落ち着き払った口調でいて、その咽頭の奥に威圧感を隠しながら言った。
 「老人の拉致監禁。強盗。テロ。――死刑確実だぜ。吐いちまえって」
 「あわわわわ、本当やっていないんですよぅ」とローゼ涙目。
 バンッと机を叩いた看守頭。
 「仕方がない」
 「ええっ? ちょっとどうする気ですか⁉」
 突然二人の男に腕を掴まれて立たされたローゼは叫び、「放して! やめて!」と懇願する。無理やりに磔台の鉄枷が手足に填められていく。
 看守頭がニコニコしながら「どっちからにする?」と言うと、隣にいたナンバー2が「じゃんけんで」と答えた。
 「へ?」とローゼ。
 これから拷問が行われるはずなのに、なんか平和。終始和やかムードで拷問の順番決めている。ローゼがおかしく思って十字架をよく見ると、全体的には円盤状。右を見ると“たわし”の文字、左を見ると“石鹸”の文字。何だコレ?
 看守頭は、運ばれてきた短い矢(ダーツ)を選別しながら言った。
 「俺はど真ん中狙いね」
 「金貨百枚へそ狙いっすか?」
 「お前は?」
 「自分は海外旅行であります」
 「ほーう、心臓狙い?」
 突然、磔台が回り出す。部屋にいた看守たちが集まって、リズムよく手を叩きながら「き・ん・かっ♪ き・ん・かっ♪」の大合唱。看守頭がダーツを構えてローゼを狙う。
 ガスッとローゼの左ほほすれすれ、耳の産毛が一本落ちた。
 「惜しい! 石鹸だぁ」看守頭が腕を振り下ろしながら指を鳴らす。
 「危ない! やめてー!」ローゼ蒼白。
 それを聞いて、看守頭が唸った。
 「クー堪んないねー、この絶叫、こえーだろ? じわじわと吐く気にさせてやるからな」
 ガスッ、ガスッ、ガスッ、と面白いように狙わず的に放たれるダーツの矢。看守頭めっちゃヘタ。
 ローゼは、身をよじらせて直撃回避。胸もお腹も太ももも、よじり過ぎてめっちゃつってる。
 ダーツを幾つか投げた看守頭「次お前な」。
 「はい」とナンバー2。
 するとみんなは「か・いっがいっ♪ か・いっがいっ♪」の大合唱。ナンバー2がダーツを構える。
 「わたしを的にする必要あるんですかー!」
 グルグル回されるローゼが叫ぶ。ナンバー1、2は長いこと遊んでいたが、しばらくしてダーツ切れでゲームオーバー。
 看守頭がローゼに向かって舌を打った。
 「クソ! 石鹸とたわしばかり。いりもしない根株一年分も出しやがって」
 出したのあんただろ? 何に使って一年分だよ。
 「ばか、年輪数えんだよ」
 お前がバカだよ。
 「いい加減吐いたらどうだ?」看守頭がローゼに巻き舌で凄む。
 「信じてください、ホント無実ですから」
 「仕方がない」と渋面の看守頭の指示でローゼが下ろされた。向かった先には寝台がある。ローゼが看守頭を見ると、なんか変な目で自分の全身をなめまわすように見ている。もしかして? ローゼは恐ろしくて堪らなくなった。寝台には短い鎖の手かせ足かせがある。
 ローゼが叫んだ。
 「なっ何する気ですか? こんなことしてタダで済むなんて――」
 言い終わる間もなく、ローゼは鎖に繋がれて脱がされていく。ブーツを。そして靴下を。
 「ぎゃ~~~~~! 痛い痛い痛い痛い~! 足つぼやめて! 足つぼやーめーてー‼」
 「いい加減吐け――――‼」
 「やってなきゃ―――――――――――い!」
 陽が暮れ始めた。尋問室に響いていた絶叫はもう聞こえない。ローゼは白目向いて完全グロッキー。色々された。ひどいこと色々された。一人で歩けないのに杖渡されて、さっさと部屋からおっぽり出されてヨロヨロふらふら。
 看守頭が爽やかな笑顔を向けてローゼに言った。
 「いやー、まあ、無罪放免ってことで」
 笑い事じゃねーよ。国に帰ったら絶対訴えてやる。でもどうして解放されたんだろう。ローゼが疑問に思いながら半地下から一階に上がる階段を上っていると、アリアスの声が上から聞こえた。
 「ローゼさん、良かった、無事だったんですね」
 見るとエミリアも一緒だ。ローゼは、よかった、と胸をなでおろす。
 ローゼとエミリアが手に手を取り合って喜んでいる横で、駐屯兵団の団長らしき人がアリアスを隅に呼んだ。
 「あの……二人とも無事だったってことで、ご勘弁ください」
 「? あ、はい……」
 アリアスは分からない様子できょとんとしている。話の内容から、アリアスはペトラキオアスの貴族様の様だ。アリアスの口利きで出られたのだろう、とローゼは思った。団長なら大尉か少佐? 準男爵(バロネット)か一代子爵(ナイト)かな? アリアスへの腰の低い態度を見ると、彼の血統のよさが窺える。いったい何者なのだろう。
 不意にエミリアがローゼの様子の変化に気がついて言った。
 「あれ? なんかローゼさん、いつもよりお肌ツルツルじゃないですか?」
 「何言ってんのよ、拷問まがいなことされていたのに、そんなことあるわけないでしょう。エミリアだって受けてたんじゃないの?」
 「あーでもダーツ如きでは、わたしのおへそは傷つきません」
 けっこうダーツで刺されたようだけれど、エミリアはケロッとしている。そればかりか体が軽くなった気分。「お腹がすいた」と騒いでいる。
 「マジっすか? じゃあ足つぼは?」ローゼが訊く。
 「なんか、拷問の人が指折ったとかで……」
 「あっそ」
 なぜか血色の良い看守が嘆く。
 「本当、散々でしたよ。鎖は引きちぎって自分らを叩くわ。石ころの上歩かせたら踏み砕くわ。水攻めにしたら飲んじゃうし。根株は素手で割って火に一度にくべまくるから、部屋中暑いし……、しかもちょっとかければいいだけなのに焼け石に水をどばっとかけるし……」
 エミリアのいた尋問部屋は、台風一過の後らしい。実はローゼが聞いていた別室からの悲鳴は、エミリア担当の看守たちだったのでした。
 「あはははは、いい汗かきましたね、ローゼさん。なんか健康になった気がします」
 どこかの国では健康法も、国が変われば拷問でした。


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