DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第三十八話 魔獣の正体

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 「しまった! 武器持ってきてない」
 絶体絶命のローゼ。体術は出来るが、基本剣士だからエミリアのようにはいかないだろう。――て、触手簡単に引きちぎれた。
 「何これ?」ローゼ拍子抜け。
 クラゲ野郎は怒った様子。
 「やったなー、このやろー」
 またも触手を伸ばしてきたので、ローゼ引きちぎる。もう一度触手を伸ばすそぶりを見せるクラゲ野郎に歩み寄って、ベシンと叩いた。叩いたところが脆くも崩れる。マジか? 攻撃力0、防御力0でやんの。まあ、水滴飛ばしてきたのはちょっと痛かったけど。
 クラゲ野郎、わなわなしながら、
 「僕を本気で怒らせたなー」
 ざっぶ~ん
 これが一番怖いよ。沖に流されたらどうしてくれんだよ。ローゼがつっこむたんびに津波が起こる。
 「ポロリくらいしても良いんだぞ」もじもじクラゲ。
 よくねーよ。ていうか、なんかわたしの方の波強すぎない? 渦巻いてんですけど。
 「お約束じゃん」
 してねーよ。
 「水着って言ったら、ポロリ担当がいるもんだろ?」
 そう言うことか。年齢制限でまたわたしが被害者に。「ポロリしてたまるもんですか」とローゼは舌を出してベーとする。
 クラゲ野郎が不敵な笑みを浮かべた……ように見えた。
 「僕の攻撃はこれだけじゃないぞー」
 もう一度触手を伸ばしたクラゲ野郎。ビリビリビリ。突然ローゼとエミリアは全身が痺れて動けない。麻痺攻撃? お前やっぱりクラゲだろ?
 「ワ~レ~ワ~レ~ハ~~、カ~セ~イ~ジ~ン~ダ~~」
 もう良いよ。そう言えば火星人てタコじゃなかった?
 「違うよ、タコは金星人だよ」
 そうだっけ?
 「火星人はクラゲで、木星人が魚」
 言っちゃったよ。自分で言っちゃったよ。クラゲだって認めちゃったよ。
 「誘導尋問だ! 訴えてやる」
 どこに誘導されてんだよ。どこにも誘導してないよ。
 器用にもクラゲ野郎は、二人を同時に絞め殺そうとする。でも攻撃力ゼロ。全然苦しくできないでやんの。「仕方がない」とクラゲ野郎。突然わさーと触手を広げて二人を覆おうとする。
 エミリアが泣いて叫んだ。
 「食べる気ですか? もしかして本当に食べる気ですか?」
 図鑑で見たことあるぞ。クラゲは針で魚を麻痺させて体液を啜るんだ。
 「うひー」と叫んだローゼは、動かない体を不恰好になんとか動かしながら、少し小高い町の方を目指す。クラゲ野郎に二人をとどめる力がないのは地獄に仏だが、早く逃げないと消化されてしまいそう。
 「ローゼさん何やっているんですか⁉ 早くこっちに」とエミリアが叫ぶ。
 急ぎたいのは山山なんだろうれど、でもローゼ、砂に手足が捕られて上手く進めない。砂浜の温度もとんでもなく高くて大やけど。これを灼熱地獄と言わずしてなんて言うのか。それにこれ消化液の影響か? クラゲ野郎の体液のせいで、お肌がヒリヒリしてきた。
 もがくローゼを心配したエミリアは仕方なく頑張って手を伸ばして、同じく手を伸ばしたローゼの体を引き寄せる。背負って逃げようというのだ。
 「あ、ありがとー」
 「大丈夫です」と返すエミリアだったが、声が必死。
 「頑張れエミリア、君には出来る」とエミリアが自分に呟く。「わたしには出来るわ。痩せてるくせに結構重いローゼさんを救って……」と言ったところで言葉がとまる。
 「……このまま見捨てればわたしがヒロインでは?」
 何考えてんだよ。
 「あはは、なんてね♡ こんなことは口に出さない。心に秘めておきましょう」
 全部喋っちゃってるよ。
 「それにしても、この偽ボイン邪魔だなぁ、毟り千切ってやろうかしら」
 クラゲ野郎よりコエーよ。譫妄激しーな、おい。性格からか絶体絶命からか分かんねーよ。
 ローゼを背負っていては、いくらか這っていくのが精一杯。海と町の真ん中くらいまで来たところで力尽きて、そのまま蹲ってしまった。
 心配したローゼが声をかける。
 「エミリア大丈夫? わたしのせいでごめん」
 「はぁはぁ、大丈夫ですよ」
 「でも、砂浜は焼けるように熱いでしょう?」
 「お父様とよくビーチで訓練しましたから大丈夫です。炎天下の中匍匐前進もしてましたので――」
 そう言ったエミリアは、ブツブツと呟くように続ける。
 「口には出せませんけど、上手くローゼさんを使って日焼けからお肌を守れそうだわ。ウッシッシ」
 「わたしゃ日よけか⁉ なんだよ、ウッシッシって」
 「どうせ、一人でも町には辿りつけそうもなかったし、ローゼさんをかぶっていれば最初に食べられちゃうのはこの人だから、日焼け止めと合わせて一石二鳥。もしかしたらお腹いっぱいになってくれるかもしれないもんね☆ー」
 「腹黒い! この子結構腹黒い!」
 身の安全が心配で、恐る恐る海の方に振り向くローゼ。あれ? クラゲ野郎は追ってこない。そればかりか、波打ちぎわに佇んで、ずっとこっちを見ているばかり。
 ホッとしたローゼは、エミリアの背中から這い下りる。暑くて身をよじりながらも頑張って仰向けになった。
 ずっとおぶられた姿勢だと、背中ばっかりが日焼けしてオセロみたいになっちゃうから。それに、エミリアばかり日焼けしないなんてずるいもんね。しかもわたしを利用して。
 エミリアを見ると、ローゼに向かって口をイーとしている。ローゼは、ざまあみろ、といった感じで笑った。
 でもやっぱり二人は女の子。このまま甲羅干ししてもいられない。痺れる体にムチ打って、なんとか海岸と町の境まで移動していって、雑木の木陰に身を隠す。しばらく休んで痺れを取って、二人は海岸沿いの水着ショップに怒鳴り込んだ。
 憤激するローゼたちを見やって、店主の女が言った。
 「まさか、このビーチで泳ぐなんて思わなかったわ。でもよく生きて戻れたわね。それだけでも良かったんじゃない?」
 「笑い事じゃないわよ。どうして言ってくれなかったんですか?」とローゼは食って掛かる。
 「言うも何も、ここいらじゃ常識よ。言わなくても分かるわ。それに――」と店主は親指で張り紙を指さして続ける。
 「――注意書きは張り出しているわ」
 ローゼたちが見ると、『魔獣エイドリアン注意』と書いてあった。よく見渡すと、『危険魔獣出没』やら、はっきりと『遊泳禁止』と書いてあるものまである。
 まじまじと張り紙を読む二人に女店主が説明する。
 「聞いた話によると、昔海水浴をしていて溺れ死んだ人の悪霊らしいわ。無数のクラゲに食べられたから、クラゲの姿で甦ったんだって。彼女いないのに海に来て、一人浮いた存在になっていたことを恨んで、夏になると出没するようになったのよ。それで、カップルを見ると、彼女の方ばかり見境なく海に引きずり込むのね」
 後半なんだよ。何に対する恨みだよ。ある意味見境あるじゃんか。
 「ローゼさん、エイドリアンって」「うん」と二人は顔を見合わせた。エミリアのカバンから取り出した悪魔牙団の名簿には、ビーストマスター・エイドリアンの文字。何がビーストマスターだよ。お前がビーストじゃんか、とローゼがつっこむ。
 そう言ってから、ローゼははたと気がついた。
 「『ここで泳ぐとは』ってことは、他では泳げるんですか?」
 「ええ、隣のビーチは大丈夫よ。なぜかしら、あのクラゲ、ここのビーチにしか出てこないのよ」
 怪しい。何かを隠しているから、ここから離れられないんだ。もしかしたら通商手形かもしれない。
 「でも、通商手形にそんな価値ありますか?」とエミリアが疑問を呈する。
 「そうね、ならお宝ってことも――」と言いかけて、ローゼはある張り紙に目を奪われた。
 「賞金金貨百枚⁉ あのクラゲ野郎、賞金かかってんの? しかも金貨百枚⁉」
 「そうよ」と女店主。「ここのビーチは毎年すごい賑わっていていたのに、アイツのせいで商売あがったりなのよ。そこで、海関係の店主たちで賞金を懸けたってわけ。もちろんわたしも出してるわよ。」
 「でも、金貨百枚って多すぎな気が……」とローゼ。
 「初めはもっと安かったの。銅チップ百枚だったかな?」
 子供のお小遣いかよ。貯金箱の中身みたいだな。
 ローゼたちは、クラゲ野郎に挑戦するから協賛してほしい、と日焼けケアのポーションをもらって塗ってから、試着室で服に着替えさせてもらった。


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