DEVIL FANGS

緒方宗谷

文字の大きさ
39 / 113

第三十九話 いつの間にか定着していた“クラゲ野郎”

しおりを挟む
 一人で猫に追いかけられて遊んでいたクラゲ野郎が、ローゼたちに気がついて振り返る。でも前も後ろもないんないだから、こっち向いているか分からない。
 尻尾を掴まれて「ふぎゃふぎゃ」鳴いている猫を見て、エミリアが大喜び。
 「クラゲ野郎さん、猫好きなんですね」
 「いや、嫌いだよ」
 「そうなんですか? でも楽しそうに遊んでる……」
 「こいつらムカつくからこうしてやるんだ」
 そう言ったクラゲ野郎は、嫌がる猫の目に触手を入れる。見る見るうちに猫の皮が剥がれていく。それを見たローゼがドン引き。
 「お前もか⁉ 皮剥ぎが趣味なんてオントワーンと同じじゃんか‼」
 「なんだ、オントワーンを知っているのか? でもあいつなんかと――あっ! イッショニ~ス~ル~ナ~」
 もういい加減それやめにしない?
 「アイツは皮を剥がれる時の苦しむさまを見るのが好きなんだよ。それにあの気持ち悪い瘡蓋人間? 生人間? を作るのが趣味なんだよ。あんな悪趣味な奴と一緒にされたら困るなー」
 「じゃあ、クラゲ野郎は何やってんのよ」とローゼが訊く。
 すると、クラゲ野郎は、皮を剥がされた猫を海に投げ捨てて、切れ込みのない猫の着ぐるみを見せてた。
 思わず「わぁ、可愛い」とエミリアが喜ぶ。可愛いか? 密かに思っているんだけれど、エミリアってちょっと変わっている。猫がめっちゃもがいている。海水沁みるんだろうな。一目散に逃げていった。
 「僕は、中身になんて興味ないね。こっちの毛皮を集めているんだ」
 何でそんな趣味……。
 「アイツら、いつも僕を狙ってんだ。気がつくと僕の足を食いちぎって持っていくんだよ」
 そう聞いて、ローゼは一本千切ってみた。
 「こら、やめろ」とクラゲ野郎が怒る。千切れた足、すっごいのた打ち回ってる。敷石の上に落とされたミミズみたい。こりゃ猫も欲しがるよな。それにコイツ、微かに美味しそうな匂いするし。
 そういえば、ローゼに叩かれてもげた体も、今までに千切れた足(触手)も全部回復している。さすが人獣、すごい回復力。それに気がついてローゼが言う。
 「痛くもかゆくもないんでしょ? 何も殺さなくても」
 「殺さないさ。さっきみたいに生きたまま放す時もあるよ」
 「そういえば――」とエミリアが言った。「このクリオの町、なんか毛がない猫多かった気が……」
 そういえばそうだ。「もしかして、みんな?」とローゼが引き継ぐ。
 クラゲ野郎が答えて言った。
 「そうだよ。裸猫って種類知ってる? あれみんな僕が作っているんだ」
 「マジっすか?」(ローゼ&エミリア)
 「嘘」
 なんだよ、嘘かよ。そう言えば聞き流したことが一つあった。“殺さないこともある”ってとこ。
 「うん、失敗すると中身も溶けちゃうんだ。まあ、故意に溶かしちゃうことの方が多いけどね」
 猫が可愛そうだといった感じの表情を浮かべるエミリアに、ローゼが言った。
 「まあ、生きとし生ける物みんな生き物を食べて生きているんだからしょうがないわよ。わたしたちだって同じだもの」
 するとクラゲ野郎が否定する。
 「食べないよ、あんなクソまずいもん。やっぱり牧草牛が美味しいよね」
 グルメだな。
 「食べてないけどね」
 ないのかよ。
 「だって僕、海から離れらんないもん。干からびちゃうから」
 そうか、それでさっき追っかけてこれなかったのか。
 「お願いがあるんですけど」とエミリアが口を開いた。「みんなここで泳げなくて困っているんです。悪さするのやめてもらえませんか?」
 「やだね」即答したクラゲ野郎は続けて言った。
 「海で泳ぐやつなんて死ねばいいんだ。あいつらみんなイチャイチャしやがって」
 「ん?」とローゼ。なんか変な理由ぽい匂いがプンプンする。
 「もしかして、リア充が羨ましいんじゃ……」
 「違うよ、違うよ―――あっ! チ~ガ~ウ~」
 もうやめろって、そのヘリュウムボイスなんかムカつく。
 「分からないやつだな、ローゼリッタ。この声の良さ、これが僕のチャームポイントなのに」
 気に入ってんかソレ。
 「僕は地球人の男から彼女を奪ったから、恨まれているんだ」
 「略奪愛?」と二人はビックリした。
 「何年も前のある夏の日、僕は可愛い女の子を見つけて一目ぼれしたんだ。彼女はパラソルの下に横になって休んでいたから、僕は海から出ていってオイルを塗ってあげたんだ。
  それで意気投合しておしゃべりをしていたらね、彼氏が来て口論になったんだよ。彼女は帰りたがったけれど、僕は本当に愛しているよって説得した。彼氏は激怒して彼女を突き放したから、僕たちは一緒にビーチを後にしたんだ――」
 もう少し話は続きそうだったけれど、ローゼは話しを遮ってつっこんだ。
 「いやいやいやいや、言ってることと回想と違うじゃん。活字だからってわたし騙されないよ。『この小説でこんな話ないんじゃない?』って読者も気づいてるよ」
 いやエミリア、『素敵っ!』じゃないよ。どういう感性してんだよ。今の回想見て本気で思えてる?
 時を戻そう。海から上がったクラゲ野郎。恐れおののく海水浴客たちが割れて作った道を悠々と歩いて(浮かんで)、気がつかずに休んでいる女性のとこまでやって来た。デロデロの粘液を触手から出して、女性の体を撫でまわす。見る見るうちに溶け出す柔肌。
 かき氷を買って戻ってきた彼氏が、びっくりして彼女のもとに駆け寄った時には、時既に遅し。「助けてー」と叫ぶ彼女の足を触手で引っ張って引き倒し、クラゲ野郎が覆いかぶさる。でも弾力性0のクラゲ野郎。彼女はなんなく逃げだした。
 「大丈夫か、ドロシーちゃん」と彼氏が抱きしめて声をかける。「ええ、大丈夫よ」と言って顔をあげるドロシーちゃん。その顔デロデロに溶けて半分骸骨。「ぎょえぇぇぇ‼‼‼」と叫んで逃げだす彼氏。「待ってー」と叫ぶドロシーちゃんは、内臓を引きづりながら少し走って力尽きて膝をつく。抵抗できなくなったドロシーちゃんを引きずって、クラゲ野郎は海へと帰っていった。 
 マジこえーよ! ホラーじゃんかよ! 後日水着だけが浜に打ち上げられたんじゃないのか?
 「よく分かったな」とクラゲ野郎。
 ドロシーちゃんどうしたんだよ。
 「あれは美味かったな」
 食った? 
 「ああ、ごはんだからな」
 最悪野郎だな。
 「あれ以来、僕は独りぼっち……」
 一生独りぼっちでいてくれよ。
 「だからビーチは渡さないよ。リア充なんて糞喰らえだ」
 やっぱりそこか。ローゼは呆れて何も言えませんでした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...