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普段通りの日常
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東京のとある家電量販店に、加奈子は来ていた。電気屋さんなのに、最近では家具や自転車、食品なども置いてある。
「あれ? 加奈じゃん、何してんの?」
加奈子が振り向くと、大学のサークルが一緒の大輔がいた。
「うん、わたし、蛍光灯買に来たんだけど、ついでに非常食も買っていこうかなって思って」
「非常食? 何で?」
「何でって、地震に備えてだよ。
30年以内に、7、80パーセントの確率で、東京湾北部地震が来るって言うでしょう?」
何のために非常食を買うか尋ねられて驚いた加奈子が言うと、大輔は、逆に驚いて言う。
「必要ないだろ!? ここ東京だぜ。
そりゃ、崩れる家もあるだろうけど、何ともならないよ」
「何でそう言い切れるの?」
「いや、別に何でってこともないけど」
大輔に、特別な理由は無いようだ。
「大輔君ちだって、確か私んちから近かったよね。
都心東部は海抜が低いから、西にある台地から流れる川に運ばれてきた砂や砂利でできた沖積層が厚いのよ。
土地が弛いところが多いから、大地震が起こるととても揺れるし、液状化現象といって、地面が砂でできた沼みたいになってしまうことだってあるのよ」
「ふーん」
大輔は、ピンと来ていない様子で聞いている。
「阪神淡路大震災は知ってるでしょ? 東日本大震災も知ってるでしょ?
特に、いつかここで起こる地震は首都直下地震だって言われているから、阪神淡路大震災みたいになる可能性があるんだから」
力説する加奈子をよそに、大輔はアルファ米を見てびっくりした。
「たかっ!! こんなちょぴっとでこんなにするの?パンの缶詰とか、おかずのパウチとか高すぎだろ!?」
「5年もつ特別な奴だから、仕方がないでしょ?」
「お菓子なんて、おんなじのが町で売ってんじゃん」
「だから、5年もつのよ」
少しイラッとした加奈子は、大輔が持っていたお菓子を取り上げて、カゴの中にいれた。
カゴの中を見た大輔は、加奈はバカだなーといった風に言った。
「備えに買うのは良いとして、避難バッグに入れるもんだけにしたら?」
「液状化して避難できなかったらどうするの?」
呆れ顔の加奈子に、大輔が続ける。
「普通のを食べるんだよ、良いか、考えてみなよ。
500円で非常食を1個買ったとしたら、いくら5年もつと言っても1回食べたら終わりだろ?なら、500円で普通のを5個買えば、1年しか持たなくても、5回分の食事になるじゃないか」
「でも、毎年買い換えたら、5年で2500円じゃん」
「加奈だって、いつもお菓子食べるだろ?それにパン食じゃん、ご飯炊かないって前に言ってたから、家にあるのはレンチンごはんだろ?」
棚を見ていた大輔は、ジュースや水のペットボトルを手に取って、話を続ける。
「飲み物だって、ペットボトルのをよく飲んでんじゃん。
普通のを非常用に買って、ところてん式に入れ替えて飲めば、一石二鳥だろ?」
確かにそうだ、5年持つのはすごい事だが、5倍お腹が膨らむわけではない。
加奈子は、避難バッグに入れるための非常食を厳選して買うことにして言った。
「大輔君は、そうやって備えてるんだ?」
「え?備えてないよ、コンビに行けば買えるんだから」
大輔は、知識として、関西や東北であった地震の事は知っていたし、映像でも見たことはあったが、なぜか東京であったらという事を想像して心が動かされる事は無かった。何よりも、自分は大丈夫だと思っていた。
それから、長い時が過ぎて、避難所で加奈子と再会した大輔は、真っ先にこう言った。
「まさか、こんな事になるなんて・・・」
「あれ? 加奈じゃん、何してんの?」
加奈子が振り向くと、大学のサークルが一緒の大輔がいた。
「うん、わたし、蛍光灯買に来たんだけど、ついでに非常食も買っていこうかなって思って」
「非常食? 何で?」
「何でって、地震に備えてだよ。
30年以内に、7、80パーセントの確率で、東京湾北部地震が来るって言うでしょう?」
何のために非常食を買うか尋ねられて驚いた加奈子が言うと、大輔は、逆に驚いて言う。
「必要ないだろ!? ここ東京だぜ。
そりゃ、崩れる家もあるだろうけど、何ともならないよ」
「何でそう言い切れるの?」
「いや、別に何でってこともないけど」
大輔に、特別な理由は無いようだ。
「大輔君ちだって、確か私んちから近かったよね。
都心東部は海抜が低いから、西にある台地から流れる川に運ばれてきた砂や砂利でできた沖積層が厚いのよ。
土地が弛いところが多いから、大地震が起こるととても揺れるし、液状化現象といって、地面が砂でできた沼みたいになってしまうことだってあるのよ」
「ふーん」
大輔は、ピンと来ていない様子で聞いている。
「阪神淡路大震災は知ってるでしょ? 東日本大震災も知ってるでしょ?
特に、いつかここで起こる地震は首都直下地震だって言われているから、阪神淡路大震災みたいになる可能性があるんだから」
力説する加奈子をよそに、大輔はアルファ米を見てびっくりした。
「たかっ!! こんなちょぴっとでこんなにするの?パンの缶詰とか、おかずのパウチとか高すぎだろ!?」
「5年もつ特別な奴だから、仕方がないでしょ?」
「お菓子なんて、おんなじのが町で売ってんじゃん」
「だから、5年もつのよ」
少しイラッとした加奈子は、大輔が持っていたお菓子を取り上げて、カゴの中にいれた。
カゴの中を見た大輔は、加奈はバカだなーといった風に言った。
「備えに買うのは良いとして、避難バッグに入れるもんだけにしたら?」
「液状化して避難できなかったらどうするの?」
呆れ顔の加奈子に、大輔が続ける。
「普通のを食べるんだよ、良いか、考えてみなよ。
500円で非常食を1個買ったとしたら、いくら5年もつと言っても1回食べたら終わりだろ?なら、500円で普通のを5個買えば、1年しか持たなくても、5回分の食事になるじゃないか」
「でも、毎年買い換えたら、5年で2500円じゃん」
「加奈だって、いつもお菓子食べるだろ?それにパン食じゃん、ご飯炊かないって前に言ってたから、家にあるのはレンチンごはんだろ?」
棚を見ていた大輔は、ジュースや水のペットボトルを手に取って、話を続ける。
「飲み物だって、ペットボトルのをよく飲んでんじゃん。
普通のを非常用に買って、ところてん式に入れ替えて飲めば、一石二鳥だろ?」
確かにそうだ、5年持つのはすごい事だが、5倍お腹が膨らむわけではない。
加奈子は、避難バッグに入れるための非常食を厳選して買うことにして言った。
「大輔君は、そうやって備えてるんだ?」
「え?備えてないよ、コンビに行けば買えるんだから」
大輔は、知識として、関西や東北であった地震の事は知っていたし、映像でも見たことはあったが、なぜか東京であったらという事を想像して心が動かされる事は無かった。何よりも、自分は大丈夫だと思っていた。
それから、長い時が過ぎて、避難所で加奈子と再会した大輔は、真っ先にこう言った。
「まさか、こんな事になるなんて・・・」
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