バージョン.A —高校生救世主の異世界革命譚—

アラヤマ田

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第4話 サトル、再び命の危機

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 痛い。口の中が痛い。腕が痛い。顔が痛い。足も痛い。どこもかしこも、全てが痛いッ!
 うなされながら、ハッと目を覚ます。
「…………ア、あぁッ!」
 今まで生きてきた中で、最悪の目覚め。
 両足を鎖に繋がれたサトルは、地べたに力なく寝転がり、暗い天井を無気力に見つめる。
 幾つかの明かりがあるくらいで、辺りは相当薄暗い。湿気もすごく、とてもかび臭い。漏れた水が地面に滴る音が時々こだまする。
 「(……どこなんだ、ここは)」
 足が向く先には鉄格子があり、その向こうに更に別に鉄格子がある。見渡す限り作りは古臭く、ボロい。
 「(……ここは、牢屋?それも、地下牢だろうか……?)」
 他に人っ子一人いる気配がしない。
 「(……まぁ、なんだっていいさ……)」
 サトルは投げやりに再び天井を見やる。
 体を苦しめた痺れはとっくに切れていたが、寝返りを打つたびに痛むほど傷付いた体には、もう気力も体力も、ほとんど残っていなかった。
 取り押さえられてからというもの、サトルは縄で縛られ長いこと馬車の荷台で揺られ、次に小さな小屋に押し込まれては、アヴィの囲いの男に長いこと殴る、蹴るの散々な痛い目に遭わされ、そうして満身創痍の状態でこの牢に乱暴に放り込まれ……今に至る。
 サトルの異世界ライフは、幸先がいいどころか、むしろどん底からのスタートだった。
 「(……クソッ…何がこの世界を遊んでやるだ…こんなはずじゃなかったのに……!異世界なんてコリゴリだ…!ああ……早く元の世界に帰りたい……!)」
 牢屋の環境も最悪だった。蒸し暑く、臭気も凄まじく、おまけに足首を繋ぐ鎖は冷たく、そこがとても痒い。
 痛みに加え、募りゆく不快感。
 異世界に来て初めての受難にサトルは早くも異世界ライフに強い嫌気が刺し、夢ならば覚めてくれと心の底から願ったが、しかし体が強く痛むたび、これは夢ではないと悟るハメになった。
 「(殴られたのなんて久しぶりだ…。あの女…本当に許さねえ。次あったらどうしてやろう…全員まとめてぶん殴って……でも俺にできるかな…出来やしないよな…ハハッ)」
 底を尽きた気力を前に、感情さえ昂りやしない。
 ボーッと、今後を案ずるサトル。
 「(俺はこれからどうなる……売られる?売られるって…奴隷としてか?異世界来てそうそう、奴隷生活確定ってか……?最悪だ……)」
 その未来を想像し、血の気が引いていく。
 「(……そういや、バージョン.Aシリーズでも人身売買なんてのは描かれてたな…異世界では人身売買は当たり前のことなのか……?)」
 ポツリ、ポツリと、水が滴る音だけがいたずらに響く。 
 サトルは脱獄の方法を考える。
 「(……ここから出るには、どうしたらいい?ピッキング?そんなこと出来るか…助けを呼ぶ?男たちに気づかれて終わりだろう……)」
 どれもうまくいきそうにはなかった。
 「……あー……クソッ……」
 半開きの目でただひたすら物思いに耽る。限界状態の思考で暗く煤けた天井を眺め続けていたら、いつしか視界に幻が浮かび上がってきた。
 「(あ……天使だ……こんなところで何をしてるんですか?……え?くれるんですか…?PSPS5…?しかも無料で…?そんな、勿体ないですよ…)」
 その時、隣の方から何か物音が聞こえた。我に帰り、だらりとその音のした方へ目を向けると、そこは何でもない、ただの暗がりだった。
 「(……気のせいか?)」
 物音はその一回切りで途絶えたかと思ったが、しばらくしないうちに同じ物音がまた聞こえた。今度はさっきよりも長く。
 「(…………誰かいるのか?)」
 しかしそこに目を向けても、鉄格子が薄っすらと見えるだけで、ただの真っ暗闇だった。
 「ネズミか何かだろう…」
 そう思い気にも留めやしなかったが、またハッキリと同じ物音が聞こえた、その瞬間だった。

  ーーフッハッハッハァ……ッ!誰かいるのかァ…?

 地を這うように、低く響き渡る声。
 慌てて振り向く。それは確かに、あの物音がした方向から聞こえてきた。
 「………ッ!」
 人がいたようだ。その暗がりに。そいつは決して見えない。だがサトルは、その声を聞いた瞬間に心が強くざわついた。
 鈍く、歪んだその声。生気のない、まるで底無し沼のように虚ろな声。こんな身の毛がよだつ声は、人の出していい声ではない。きっと、死神の声だ。
 そしてソイツは、ゆったりと囁く。
 「……久々の、人だァ…!俺は、ずっと待っていたぞォ…!お前が、ここに、来るのをなァ…ッ!フッハッハァ……っ!」
 「……何なんだ、こいつ……」
 声、話し方、そのどれをとっても、まるで人間味を感じられない。
 コイツは危険だ。とんでもなく危ない奴だ。
 サトルはここに来て、再び生命の危機を感じ取った。
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