生贄の巫女は祈りを捧げる~輝国禍乱編~

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悲しい真実3

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「祈様、苦手なお茶などはございますか?」

「いえ、特にありません。何でもいただきます」

「承知いたしました。少々お待ちください」

あれから他の人の意見を聞いてみようと思い、以前から話を聞こうと思っていた李桜さんのもとを訪れていた。

急な訪問にもかかわらずこちらの聞きたいことをかいつまんで話すと李桜さんは快く部屋に招き入れてくれ今はお茶の準備までしてくれている。

「どうぞ。菊花さんのお店から取り寄せているお茶です」

「ありがとうございます」

目の前の机に置かれたお茶から微かに青葉のような香りがしており少し吸い込むだけでとても爽やかな印象を受ける。

「私の気に入っているお茶です。お召し上がりください」

「では、いただきます」

一口飲むと匂いだけで感じていた爽やかな印象の他にも渋みが少なくさっぱりとした味がする。

「とても美味しいです」

「それは良かったです。さて、祈様が知りたいのは鉄碎様と鎌哨殿の事でしたよね」

落ち着いたところで急に本題に入られ背筋が伸びる。

「はい。鉄碎様が李桜さんのご実家が率いている外交派だとお聞きしたのでどのような方なのか李桜さんにお聞きするのが一番かと思いまして」

「確かに鉄碎様は外交派ですが知っていることと言っても彼が皆から嫌われるくらい横暴な人間だという事くらいですね」

思ったよりも李桜さんは言葉が鋭いみたいだ。

思わぬ一面を見てしまい少したじろぐが続けて質問する。

「では、鎌哨様はいかがですか?侍女達に聞いたら突然鉄碎様が連れてこられたと聞きましたがそんなどこの誰かも分からない者が急に王宮に入れるのですか?」

「確かに。王宮は国にとってとても大事な場所です。そう易々とよその人間を入れたりはしません。ですが、鎌哨殿は”突然来た”というより”いつの間にかそこにいた”という表現が正しいですね」

「いつの間にか、というのは?」

「貴族の官僚が自分の部下にと王宮外の者を連れてくるのはよくある話です。入宮を取り締まる部署は他の者が担当しておりますが、一応私と諭按さんの方でも申請書類を確認し王宮に入宮する際にはなるべく立ち会うようにしていました」

私がこの国に来た時他国の姫だから四席である李桜さんが出迎えてくれたのかと思っていたけど、それとは別に入宮する際の立会人としてあの場のいたのかと今更ながら納得する。

「しかし、鎌哨殿はどうやったのかいつの間にか鉄碎様の忠実な部下の地位を手に入れ会議にも平然と出席されていたのです。私が彼に気づいたのは彼が入宮して2週間以上経った後でした。その後すぐに確認しましたが入宮に際しての書類も不備がなく正式な手続きを踏んで入宮していたことが分かりました。ですが、申請書類に書かれていた日付は私が他の入宮者の対応をしていた日であり、そこに彼の姿がなかったことを記憶しています。となると、彼は秘密裏に入宮していつの間にか鉄碎様の部下についていた・・・という事になります」

「それって国にとっては結構一大事なのでは?」

四席の・・・それも国王様の秘書的な役割を果たしている李桜さんの目をかいくぐって入って来た人間なんて信用できるわけがない。

しかも王宮で好き勝手やっている鉄碎さんの部下ともなればどうしても要注意人物として見られるだろう。

「そうですね。確かに密入国ともとれるような事態ですが、このことについて国王は”静観”を決められました」

「それは何故です?」

あれだけ国を大事にしている国王様なら国に危険が及ぶかもしれない人物など放っておくわけがないと思っていたがそうでもないらしい。

「あの方にも色々ありましてね。昔にも似たようなことがあり先走って行動に移したところ相手が自害をしてしまったのでこういう事には慎重になっているんです」

「自害・・・」

「ええ。最初は国王様に官僚の息子としての立場で優しく近づき、彼らはお互いに似た境遇だったこともあり瞬く間に親友になりました。ですが、彼の父が謀反を企てていることに気づいた我々は彼だけでも救えないか彼に交渉しましたが、元より彼は父の計画に賛同し自分の意志で国王様に近づき好機を狙っていたと分かりました。それでも国王様は、彼を友人と呼び少しでも刑が軽くなるよう取り図ろうとしましたが、その温情に耐えられなかったのかはたまた目的を達成することができず自分だけが刑を逃れる事に負い目を感じたのか・・・今ではその真意は伺えませんが彼は隠し持っていた刃物で自害をしてしまいました」

国王様にそんな過去が・・・。

きっと知らないだけで今までにもこういったことを乗り越えてきたのだろう。

「全ての者が必ずしもみな自害するとは思っていませんが念には念を入れ、今は相手を泳がせている段階なのです」

確かに最悪の場合を考えて様子見をするに越したことはない。

人間、何が原因で突拍子もないことをするか分からない。

「言いづらいこともあったに教えていただきありがとうございます」

「いえいえ、だいぶ国家機密に近い話ですが祈様はそう易々と誰かに話をしたりはしないと思いますので。さて、聞かれたことについてはお答えしましたよ。祈様はこれを聞いてどうするおつもりで?」

「どうとは?」

先程までの穏やかな表情とは打って変わっていきなり鋭い視線が向けられる。

まるでこちらを訝しんでいるような視線に思わず目を逸らしたくなる。

「すでに我々の計画についてはご存知なのではありませんか?でなければ的確に鉄碎様と鎌哨殿の事について聞いてくるなど、彼らに不信感を抱いていてかつ反国王勢力と疑っていないと出てこない質問ですから」

やけに素直に内情を話してくれると思ったらこちらの事を見透かしていたとは。

やはり李桜さんは敵に回してはいけない人だ。

「いえ・・・いや、半分合っていて半分間違いです。確かに国としての計画は知っています。ですが、鉄碎様と鎌哨様については書庫でお会いした時に随分目の敵にされていたようなので気になって・・・興味本位です。誤解を与えてしまったなら申し訳ございません」

その言葉を聞いた李桜さんは溜息をつきながら右手で目頭を押さえる。

「いえ、こちらこそ申し訳ございません。最近、反国王勢力の事案が多くあるので変に疑り深くなっていたようです。・・・そうですか。我々の計画については誰から聞かれました?まあ、大体想像するに慈影か霞蝶あたりでしょうけど・・・」

「それは・・・」

ここで慈影さんの名前を出せばいくら四席と言えども機密情報を漏らしたことで何かしら処罰が下されるに違いない。いや、彼なら案外上手くかわすかもしれないが何もないに越したことはない。

「たまたま官僚の方が話しているのを聞いて、詳細については巫女の術を使い読み取らせてもらいました」

うん。半分は嘘じゃない。官僚が話していたのは本当の事だし。

すると李桜さんは鋭い目つきから途端にいつもの優しい顔に変わる。

「では、そういうことにしておきましょう。別にどちらが言っていたとしても咎めません。ですが、官僚の話が本当ならその者達には罰を与えなければなりませんね」

それについてはこちらで調査いたします。と言っている李桜さんの顔は先程よりにこやかでどこか楽しそうな表情をしていた。

やっぱり一番怒らせると怖いのは李桜さんだ。

しみじみとそう感じているといつの間にか空になっていた湯呑に李桜さんが追加でお茶を入れてくれる。

「まあ処罰は後で考えるとして。祈様は計画を知ったうえでどうされるおつもりですか?」

”で、祈ちゃんはどうするの?”

あの時の慈影さんの言葉と重なる。



「で、どうする?」

「私は・・・私はこの国を出ていきません」

「それが祈ちゃんの答えなんだね」

「はい」

父に欺かれ国王様に嘘をつかれていたことについて傷ついていないかと言われれば嘘になる。

でも私は2人が私に向けてくれた優しさの全てを嘘だとは思いたくない。

その優しさを信じる為にも今ここで国を出るわけにはいかない。

生贄だろうが人柱だろうがかかってこい!

「私は私のやり方で立ち向かいます」

たとえそれが誰かの手のひらで踊らされていたとしても。

「そっか。あ、くれぐれも重役や反国王勢力には気をつけてね」

じゃあね。と言って慈影さんは影の中に消えてしまった。



「李桜さん。私はここで最後まで足掻きます」

そう易々と人柱になる為にここに残ったわけじゃない。

父や輝国の皆さんにどう思われていようと自分の道は自分で決める。

「命まで狙われたんですからこんなところで逃げたりなんかしません」

李桜さんの視線に対抗するようにまっすぐ見つめる。

「ふふ、諭按様から報告が上がっていた通りただでは転ばない方ですね」

そう言いながら李桜さんは仕事机のところまで行き引き出しから何か取り出して戻って来た。

「そんな祈様にはこちらをお渡しいたします」

「これは?」

渡されたのは長方形の箱。

中を開けるとそこには蒼い宝石があしらわれた簪があった。

「こちらは蒼玉から預かっていた物です。祈様にもしもの事がある前に渡してほしいと頼まれていました。彼女が作るお守りみたいなものですから遠慮せずお持ちください」

まるで風に乗った鳥を思わせるような形をしている簪は派手でも地味でもない繊細な造形をしていた。

4本目として頭に挿そうかとも思ったがさすがに多いと感じ丁寧に箱に戻す。

「ありがとうございます。大事にします」

「蒼玉にもそう伝えてあげてください。自分で渡せばいいものを忙しいからと私に預けるなんて・・・まあきっと遅かれ早かれ私のところに来ると予想でもしていたのでしょう」

蒼玉さん・・・。

もう一度箱を見つめ蒼玉さんに感謝しながら箱を握りしめ失くさないよう懐にそっと収める。

「我々の計画はもう少し準備期間が必要になりますので、祈様もそれまでに我々に対抗できるようご準備をされてくださいね」

「あの、どうしてそこまでしてくれるんですか?」

内情を知った今、慈影さんと違い李桜さんはこういったことには厳しいと思っていた。

でも、この様子を見るに私の事は時が来るまで放っておいてもらえるように見える。

「私は期待しているんですよ」

「期待?」

思わぬ言葉が出てきて首を傾げる。

「・・・祈様の前に輝国で長く巫女をされていた方が輝国を離れる前に1つ予言をしていかれました」

”輝国に災いが降りし時、そのかなめにいるのは次の巫女だろう”

「国王様や官僚達は所詮予言だとあまり本気にしていませんでしたが、私は幼き頃よりその方のお世話をさせていただいていたせいか妙に記憶に残ってしまいまして。祈様に初めてお会いした時、妙な胸騒ぎがしました。それが今日ここに来られて確信に変わりました。きっと祈様こそが予言の巫女なのだと。そしてこの予言をした巫女はこうも言っていました」

”予言の巫女が現れたらお前はその巫女に聞かれたことはすべて話せ。なるべくその子が動きやすいように力を貸せ。それがお前の使命だ”

「なので私は貴女にすべてをお話ししました。私の使命として」

李桜さんからの言葉に呆気にとられる。

「李桜さんといい、慈影さんといいどうして貴方達は国王様よりも自分の意志を優先することができるんです?」

予言は所詮予言だ。

巫女で予言を行うこともあるからこそ言えることだが当たることもあれば当たらないこともある。運のようなものだ。

そういったものを信じる人は多いが李桜さんのような人はあまりこういうものを信じない人だと思っていたので意外だった。

それだけその予言をした巫女を信用しているのだろう。

「おや、慈影から四席の条件について聞かれたんですね。国王様より優先・・・と言うよりは私の条件は”どんな事があろうと自分で見聞きしたものを信じる”ですね」

「それは・・・」

「私らしいですか?」

「ええ、とっても」

李桜さんは現実主義だと思っていたがそんな人はまず予言をあまり信じない。でも、自分の見聞きしたものを信じるというのはとても現実主義に当てはまっており、そこには李桜さんからその巫女への信用が窺える。

自分との関係値があり信用に値する人の言葉だから予言も信用できる。

やはり現実主義な人だ。

「さて、そろそろ夕食の時間です。鈴麗が心配しますのでお部屋にお戻りください」

そう言って部屋の出口まで案内してくれる。

「祈様、くれぐれも不審な者にはついて行かれないように」

「私を子供か何かだと思っていますか?」

先程までの真剣な話とは打って変わって子供扱いをされ少し癪に障る。

「いえ、敵はどこから来るか分かりません。用心に越したことはありませんから」

「・・・分かりました。十分気をつけるようにします」

では。と言って李桜さんの部屋を出る。

思えばこの時注意してくれた李桜さんの言葉をもう少し真剣に受け止めておけばよかったとあとになって実感することになる。
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