生贄の巫女は祈りを捧げる~輝国禍乱編~

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忍び寄る影6

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「祈様、もしかしたら私以外の侍女が片付けたのかもしれません。他の者にも確認を取ってみます」

「そう、ね。お願いするわ」

「承知しました。どなたかお探しならこの建物内の衛兵なら何か知っているかもしれませんので、そちらも確認してみます」

「ありがとう。よろしくね」

では、失礼します。と一礼をし鈴麗は仕事に戻っていった。

「やっぱり、鈴麗は優秀ね」

私が多くを語っていないのに何かを察して怪しい人物の特定をしようとしてくれるなんて。

ひとまず、人探しは鈴麗に任せるとして・・・。

何か見つかればいいんだけど・・・。

私は次の他の手掛かりを探しに給湯室を出た。



「国王様の毒の耐性のについてですか?」

こういったことと言えば諭按さんだと思い、休憩中のところを少し時間をもらい話を聞いてくれることになった。

「はい。先日、お互いの幼い頃の話になりその時に毒には耐性があると言われていて・・・。私の国でもあってほしくはないですが、万が一の為に皇族に産まれた者は毒の耐性を持つよう訓練されています。ですが、国王様は”慣れている”と言われていたので。それは訓練ではなく、実際に命を狙われてきたのだろうと思いまして」

毒の訓練をする度に父が言っていたことを思い出す。

”本当はこんな訓練してほしくはないんだがな”

本当にそうだと思う。何かあった時の為、毒を飲んでも軽傷で済むようになんて・・・そんなものの為に訓練をするなんて本当に馬鹿げてる。

こんなことをしなくて済む世の中になればいいのにと何度も願ったが王の元に生れた以上、それは叶わないのだと幼い頃から身に染みて理解している。

ならせめて何かあった時に力になれるようにと医療の勉強もしてきたつもりでいた。

しかし、慣れているなんて言われてしまっては手の出しようがない。

「慣れていると言われてはそれまでかもしれません。ですが、私はこういうことに決して慣れてほしくはないと思っています。他国の人間が勝手な事を言っているのは分かっています。それでも、何か国王様のお役に立ちたいんです。何か、お手伝いできることがあるなら教えていただきたいです」

深々と頭を下げると頭上から小さく溜息が漏れる。

「まるで、実際にその現場を見ていたかのような口ぶりですね」

「っ!」

どこまでも見透かすような口ぶりに恐る恐る顔を上げると諭按さんは眉間にしわを寄せ、もう一度溜息をつきながら鋭い目つきでこちらを見ていた。

「・・・」

「そんなことはないとは思いますが、念の為祈様にもこれを渡しておきます」

そう言って立ち上がると部屋の奥にある机の引き出しから小さな小瓶を取り出し差し出してきた。

「これは?」

「解毒薬です。四席や一部の近衛隊の者には持たせています。もし、国王様の耐性を持ってしても毒を抑えられなかった場合は使用してください」

「・・・どうしてこれを私に?」

「毒に耐性がある話は一見すれば昔話の1つかもしれませんが、敵にしてみれば有益な情報にもなります。それを祈様に話されたという事はそれだけ国王様が祈様を信用されているということになります。でしたら私も祈様を信用してこれをお渡しするまでです」

「あ、ありがとうございます!」

嬉しさのあまり小瓶を抱えて頭を下げる。

「あなたは自分の事をよく他国の人間だからとおっしゃいますが、そこまで気になさらなくてもよろしいと思いますよ」

「え?」

「あなた以外にも他国から来た人間は多くいます。それは国王様がここを国境などない、どこの国の人間であろうと皆平等だというお考えから作り上げた国だからです。その国の1人となられたのですから堂々と意見していいのですよ」

諭按さんからそんな言葉をかけてもらえると思っておらず胸がいっぱいになる。

今までどこかで他国の人間だから。ここには仕事をしに来ているのだからと一線引いていた気になっていたが、いつの間にか輝国の輪の中に入っていたなんて・・・。

「ありがとうございます」

「いえ、これからも国王様の事をよろしく頼みますね」

「はい」

「諭按様、よろしいでしょうか」

休憩時間の終わりを告げるように諭按さんの従者が呼びに来たのでその場はお開きとなった。

その後、四席や近衛隊の人達に聞いてみても誰も怪しい人物は見ていないと言われてしまいこの調査は一旦中断することにした。





皆が寝静まり、起きている人間と言えば衛兵かまたは仕事をせず遊び歩いていた国王である自分自身だけとなってきた頃、筆が紙を滑る音だけが聞こえていた部屋に突如扉を叩く音がした。

「誰だ」

「諭按でございます」

「入れ」

そう告げると諭按は茶器を持って部屋に入ってきた。

「何だ、少しは休めと言いたいのか?」

「それもありますが本日は別件です」

さすがに筆を持つ手が痛くなってきたので、諭按が茶を準備している机まで行き椅子に腰かける。

「で、用件は何だ?」

こんな夜に諭按が尋ねてくることは珍しい。

日中仕事をしないことは多々あるがそれは夜にこうして進めているのでいつも仕事をしないことを怒りながらも夜にわざわざ何かを言いに来たりはしない。

不思議に思いながら茶の準備をする諭按を見つめる。

「・・・最近、毒でも盛られましたか?」

「・・・何の事だ?ああ、巫女殿から毒の耐性について聞かれたのか?それなら昔話の流れからそういった話になってな。特に意味はない」

「・・・・・・」

簡潔に説明したつもりだが・・・。

諭按の表情はどこか納得いかないといった様子だ。

「なんだ説教でもしに来たのか?先生は相変わらず恐いな」

何か言いたげな顔をしている諭按に対して茶化すような言い方をしていると、茶が注がれた湯呑を乱暴に目の前に置かれた。

「どうぞ」

「・・・毒でも入れたのか?」

「まさか、ご冗談を。どうせ聞いたところで話してはくださらないのでしょうからこれ以上お聞きはしません」

「そうか」

自分の湯呑にも茶を注いでオレの目の前の椅子に座る。

「なので、祈様に解毒剤をお渡ししました」

「何?」

「貴方様は何を言っても聞かないですし話さないだろうと思いましたので勝手ですがお渡ししております。それに何かあった時はこちらの味方は多い方がよいでしょう?」

「あのなぁ、お前巫女殿は」

「輝国の人間ではない。分かっておりますよ」

「なら」

オレの言葉を遮るように諭按は持っていた湯呑を強めに机に置く。

「言わせていただきますが、この国には他国の人間は大勢います。幹部や重役達の中にも何名か存在します。それにこの国に出入りしている者の大半は他国の人間です。貴方様が作っている国ですよ。どこの国の人間であろうと関係ないそういった志の下、作り上げてきた国にございます。そのような状況で祈様のみ他国に人間扱いされるのはおかしいのではないですか?」

「・・・」

正論を言われ言葉に詰まる。

「何も巫女殿を他国の人間だからと邪険にしているわけではない。ないのだが・・・」

この先に待ち構えている”儀式”の事を思うと気が重くなる。

「貴方様がたくさんの事を抱えているのは知っています。そしてこの先何が起こるのかも。ならばその時までは彼女を1人の人間として見てはいかがですか?」

諭按に諭されハッとする。

オレは巫女殿を1人の人間と見ていたと思っていたが心のどこかでは”巫女”としてしか見ていなかったのだと気づかされた。

「そうだな。オレの秘密を知ってしまったようだし巫女殿にはこのまま共犯になってもらうとしよう」

「耐性があるくらいで何を大層なことを。それにまずはその呼び方から変えられたらいかがですか?」

「・・・きゅ、急に名前呼びは馴れ馴れしすぎないか?」

はぁ。と大きなため息をついたと思ったら諭按はオレの頭を小突いてきた。

「いてっ」

「何を今更、子供じゃあるまいし。貴方様は無意識・・・いえ国王としての威厳を出したくないのかもしれませんが人との距離が近いのですから」

本当に今更ですよ。と言いさらに大きなため息をつく。

「そんなつもりはないが・・・」

「まあ、呼び方に関してはどちらでもいいですがくれぐれも祈様に粗相のないようお願いしますよ」

その目からは一国の姫を預かっているのだから十分に気をつけろとでも言いたげに見える。

まあ、見えるだけだが大方考えていることは合っているだろうな。

それに心配するなと答えたいが絶対の自信をもって答えられない自分にもどかしさを感じる。

「ああ、肝に銘じておく」

今は、この返ししかできないが・・・。

巫女殿の顔が一瞬脳裏に浮かびすぐに消える。

「あまり気に入らない回答ですが今回は引き下がりましょう」

オレの返答に渋々了承したのか諭按は自分の湯呑だけを持ち部屋から出て行ってしまった。

「粗相のないようにか」

1人になった部屋で諭按の言葉を繰り返す。

すまん、諭按。やはり・・・。

「それは聞けそうにない」

誰に言うでもないその言葉は静かな部屋に消えていった。
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