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芦田の涙
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卒業式では、担任がクラスの生徒の名前を一人ひとり、読み上げる。それが無事に終わり、ほっとする。
来客の祝辞や送辞、答辞が続き、校歌と蛍の光を歌って、卒業生が退場をして終わる。
退場の時、クラスの生徒が泣いている姿を見ると、広教はもらい泣きをしそうになった。こらえて、笑顔を作って、生徒を見送る。
自分もこの学校を去る身だが、卒業する彼らにはそれは言わないつもりだ。
式が終わり、教室で最後のロングホームルームをする。
一人ずつに卒業証書を手渡す。
はなむけのことばを言って、みんなで記念写真を撮る。
一人の男子がギターを弾き、一人の女子が歌う。それに合わせてクラス全員で歌う。笑い声が響き合う。
芦田が代表で広教に花束を渡す。拍手の中で、広教は笑顔になり、芦田は涙を流す。そして解散する。
廊下で見ていた保護者たちと一緒に帰るもの、クラブの送別会に行くもの、職員室に行って写真を撮るもの、それぞれ学校最後の一日をあわただしく過ごす。
花束を抱えて職員室に戻り、一息ついていると、名前を呼ばれ、廊下に出た。芦田の母がいた。おめでとうございますとお祝いを言って、お世話になりましたと頭を下げた芦田の母から、頼みたいことがあると言われた。
「クラブの一年生の子、亡くなったでしょう?茉優が東京に行く前に、その子の最後の駅にお参りしたいと言うんです。先生、よかったら連れて行ってもらえませんか?」
「お忙しい上に、勝手なお願いで申し訳ありません」そういってあたまを下げた。
「わかりました。茉優さんと相談して必ず連れて行きます」
部室に行って、二年生とお別れ会をしていた芦田を呼び出し、さっきの母のことばを伝えた。
芦田は今から連れて行ってもらえないかと聞いた。
かまわないと言うと、花を買ってくるから三十分ほど待ってくださいと言った。
車で四十分くらいでその駅に着き、パーキングに止めた。
駅員に事情を話して、小さな花束とペットボトル飲料を通行に邪魔にならない場所に供えさせてもらった。
人目に付かないように、二人でそっと手を合わせて、黙祷した。広教の頭に、よし君の笑顔が浮かんだ。
芦田の目は赤くなり、涙があふれそうだった。促して、ホームを出た。芦田はしばらく車内で泣いていた。落ち着くのを待った。
「東京に行くと、来られないですね」
「忘れることはない、来られなくても」
広教は車を出した。
瀧元から電話があった。
東京の恩師に頼んでおいた講師の口がある、三月中に新年度の体制を決めるので、すぐに面接に来て欲しいと言うことだった。
広教は、承諾の返事をして、翌日、早朝の新幹線で東京に出向いた。
面接をした校長は、瀧元の恩師から事情は聞いていたようで、今の学校を辞めるいきさつについては何も聞かなかった。高校だけでなく、中学の方も授業をもって欲しい、講師の空きが出れば、常勤で毎日勤務できるかを尋ねた。広教は、もちろん構わないと答えて、面接を終えた。
夕方の新幹線でとんぼ返りした。
夜、理帆から電話があり、面接の様子を話した。
理帆は、一度ごちそうを作るから、家に来てほしいと言った。
翌日、東京の高校から電話があり、広教の採用がきまった。週四日で、十六時間の授業と、中学校に二時間、合計十八時間の非常勤として勤めることになった。
収入は全く十分ではないが、当分は、家賃の安いところを探して、自炊をすれば、ぎりぎりで暮らしていけるだろう。広教はやっと安心することができた。
三月二十三日の終業式のあと、職員会議で校長から人事異動が発表された。その中には広教の辞職のこともあった。
職員からは驚きをもって受け止められた。あとで数人の教師から、なぜ辞めるのか尋ねられた。短気を起こして辞めるなんてもったいないと忠告する教師もいた。何人かの先生が、広教の去ることを惜しんでくれたのは予想外のことだった。
自分がもう少し心を開いていれば、これらの先生と打ち解けることができたかもしれないと反省した。
広教の隣席の女性教諭は、「あきれるわ」のひと言だった。
芦田が東京に行く前に、クラブの二年生に会いたいと言うので、放課後、部室で待った。
芦田は私服で化粧をしてやってきた。
「先輩、今日はすごく大人っぽいですね。別人みたい」
「先輩、メイクも決まってますよ」
「そう、ありがとう」
広教は芦田も来たことだし、学校をやめることを話しておこうと思った。
「三人に伝えておきたいことがある。今月で学校をやめることになった」
「えーっ、何で?」
「先生、何したの?」
「うそー」
三人の反応が派手だなと、広教は思った。
泣きそうな顔の三人を見ると、こちらもつらくなってくる。
「どうするんですか?」芦田が心配した顔で広教の顔を見つめる。
「4月から東京の学校で働く」
「えーっ、本当ですか、うれしーい」
芦田は急に笑顔になった。
芦田の表情の変化がおかしくて、広教は笑いそうになった。
「先輩、よかったですね」
二年のすずかとあかりが芦田に意味ありげな笑顔で言う。
「先生、東京で先輩を遊びに連れて行ってあげてくださいね」
「すずかちゃん」芦田がたしなめるように言った。
「なんで?」広教が聞くと、
芦田は急に部屋から飛び出していった。
「なんだ?あいつ。急に」
広教が言うと、すずかとあかりは
「先生、ほんとにぶいですね」
「先生のことを好きなんですよ」
口をそろえて言うので、広教は驚いてしまった。
来客の祝辞や送辞、答辞が続き、校歌と蛍の光を歌って、卒業生が退場をして終わる。
退場の時、クラスの生徒が泣いている姿を見ると、広教はもらい泣きをしそうになった。こらえて、笑顔を作って、生徒を見送る。
自分もこの学校を去る身だが、卒業する彼らにはそれは言わないつもりだ。
式が終わり、教室で最後のロングホームルームをする。
一人ずつに卒業証書を手渡す。
はなむけのことばを言って、みんなで記念写真を撮る。
一人の男子がギターを弾き、一人の女子が歌う。それに合わせてクラス全員で歌う。笑い声が響き合う。
芦田が代表で広教に花束を渡す。拍手の中で、広教は笑顔になり、芦田は涙を流す。そして解散する。
廊下で見ていた保護者たちと一緒に帰るもの、クラブの送別会に行くもの、職員室に行って写真を撮るもの、それぞれ学校最後の一日をあわただしく過ごす。
花束を抱えて職員室に戻り、一息ついていると、名前を呼ばれ、廊下に出た。芦田の母がいた。おめでとうございますとお祝いを言って、お世話になりましたと頭を下げた芦田の母から、頼みたいことがあると言われた。
「クラブの一年生の子、亡くなったでしょう?茉優が東京に行く前に、その子の最後の駅にお参りしたいと言うんです。先生、よかったら連れて行ってもらえませんか?」
「お忙しい上に、勝手なお願いで申し訳ありません」そういってあたまを下げた。
「わかりました。茉優さんと相談して必ず連れて行きます」
部室に行って、二年生とお別れ会をしていた芦田を呼び出し、さっきの母のことばを伝えた。
芦田は今から連れて行ってもらえないかと聞いた。
かまわないと言うと、花を買ってくるから三十分ほど待ってくださいと言った。
車で四十分くらいでその駅に着き、パーキングに止めた。
駅員に事情を話して、小さな花束とペットボトル飲料を通行に邪魔にならない場所に供えさせてもらった。
人目に付かないように、二人でそっと手を合わせて、黙祷した。広教の頭に、よし君の笑顔が浮かんだ。
芦田の目は赤くなり、涙があふれそうだった。促して、ホームを出た。芦田はしばらく車内で泣いていた。落ち着くのを待った。
「東京に行くと、来られないですね」
「忘れることはない、来られなくても」
広教は車を出した。
瀧元から電話があった。
東京の恩師に頼んでおいた講師の口がある、三月中に新年度の体制を決めるので、すぐに面接に来て欲しいと言うことだった。
広教は、承諾の返事をして、翌日、早朝の新幹線で東京に出向いた。
面接をした校長は、瀧元の恩師から事情は聞いていたようで、今の学校を辞めるいきさつについては何も聞かなかった。高校だけでなく、中学の方も授業をもって欲しい、講師の空きが出れば、常勤で毎日勤務できるかを尋ねた。広教は、もちろん構わないと答えて、面接を終えた。
夕方の新幹線でとんぼ返りした。
夜、理帆から電話があり、面接の様子を話した。
理帆は、一度ごちそうを作るから、家に来てほしいと言った。
翌日、東京の高校から電話があり、広教の採用がきまった。週四日で、十六時間の授業と、中学校に二時間、合計十八時間の非常勤として勤めることになった。
収入は全く十分ではないが、当分は、家賃の安いところを探して、自炊をすれば、ぎりぎりで暮らしていけるだろう。広教はやっと安心することができた。
三月二十三日の終業式のあと、職員会議で校長から人事異動が発表された。その中には広教の辞職のこともあった。
職員からは驚きをもって受け止められた。あとで数人の教師から、なぜ辞めるのか尋ねられた。短気を起こして辞めるなんてもったいないと忠告する教師もいた。何人かの先生が、広教の去ることを惜しんでくれたのは予想外のことだった。
自分がもう少し心を開いていれば、これらの先生と打ち解けることができたかもしれないと反省した。
広教の隣席の女性教諭は、「あきれるわ」のひと言だった。
芦田が東京に行く前に、クラブの二年生に会いたいと言うので、放課後、部室で待った。
芦田は私服で化粧をしてやってきた。
「先輩、今日はすごく大人っぽいですね。別人みたい」
「先輩、メイクも決まってますよ」
「そう、ありがとう」
広教は芦田も来たことだし、学校をやめることを話しておこうと思った。
「三人に伝えておきたいことがある。今月で学校をやめることになった」
「えーっ、何で?」
「先生、何したの?」
「うそー」
三人の反応が派手だなと、広教は思った。
泣きそうな顔の三人を見ると、こちらもつらくなってくる。
「どうするんですか?」芦田が心配した顔で広教の顔を見つめる。
「4月から東京の学校で働く」
「えーっ、本当ですか、うれしーい」
芦田は急に笑顔になった。
芦田の表情の変化がおかしくて、広教は笑いそうになった。
「先輩、よかったですね」
二年のすずかとあかりが芦田に意味ありげな笑顔で言う。
「先生、東京で先輩を遊びに連れて行ってあげてくださいね」
「すずかちゃん」芦田がたしなめるように言った。
「なんで?」広教が聞くと、
芦田は急に部屋から飛び出していった。
「なんだ?あいつ。急に」
広教が言うと、すずかとあかりは
「先生、ほんとにぶいですね」
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口をそろえて言うので、広教は驚いてしまった。
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