8 / 19
美彌の家に呼ばれる
しおりを挟む
美彌が発作から回復して二週間ほどが過ぎた頃、常二は美彌の家に行くことになった。
美彌の母が、常二に会いたいと言う。
美彌は少し心配したが、常二は美彌の母に会って、自分たちのことを知っておいてもらうのは悪くないと考えて、打診された日曜日に行くと返答した。
あの日に門の前まではやってきたのだが、 今日は大きな門をくぐって入る。エントランスまでは美術館の建物のような庭の広さだ。玄関には美彌が待っていた。ピンク色のワンピースがよく似合っている。
「来てくれてありがとう」
「立派なお屋敷で、緊張する」
小声で美彌に言うと、常二はちょっとしたロビーのような広さの部屋に通され、十人以上は掛けられそうな長いテーブルに、すすめられるまま着席した。
飲み物を運んでくる美彌の顔が少し固い。
美彌の母は、奥のドアを開けて出てきて、常二にあいさつをした。
「先日は美彌がお世話になり、ありがとうございました」そう言って深く礼をした。
常二は思わず席を立ち上がり、同じく深い礼をした。
美彌の母は、四十歳代とは思えないほど若々しく見えた。美彌と姉妹と言ってもおかしくない。
美彌によく似ている顔立ちだが、常二を落ち着かなくさせるような貫禄が感じられた。
常二は美彌と並んでテーブルに着き、美彌の母は向かい側に座った。
「美彌から話はよく聞いています。いろいろこの子にやさしくしてくださっているそうですね」
「いえ、とんでもありません。僕の方が美彌さんによくしてもらっています」
先日見た若い女性が、ケーキを何種類も運んできた。「お好きなものをどうぞ」と言って出て行った。
ケーキはどれも見たことのない、洒落たデコレーションが施されており、一ついただくと、上品な甘さだった。
美彌はあまり口を開かない。主に美彌の母が常二に問いかけ、常二がそれに答えるというやりとりが続いた。
常二は自分の家のことを聞かれたらどう答えようかと心配したが、さすがにそれは話題に出なかった。
常二はようやく打ち解けてきて、話の途中で三人が笑うこともあった。
しかし、美彌が席を外して美彌の母と二人になると、
「あの子は帰国してから小学校で、いろいろとつらいことがあって、この前のような発作を起こすようになったんです」と切り出した。美彌は父の事業のため、カナダで幼時を過ごし、小学校高学年で帰国した。
「ずいぶんよくなってきているのですが、まだ完全には治りきっていないので、どうかそれを理解しておいてくださいね」
「はい、わかりました」と答えたが、美彌の母は、まだ言い足りないと思ったのか、
「あの子をそっとしておいてくださいね。大事な時期なの」そう言って常二の顔を見た。
常二は、その意味を美彌とは男女の深い関係になるなと言っているのだと解釈した。
「約束してくださるわね」
「わかりました」と答えたあと、常二は、何とも憂鬱な気分になった。
美彌の母のこの言葉が常二には呪いの言葉になった。
美彌の母が、常二に会いたいと言う。
美彌は少し心配したが、常二は美彌の母に会って、自分たちのことを知っておいてもらうのは悪くないと考えて、打診された日曜日に行くと返答した。
あの日に門の前まではやってきたのだが、 今日は大きな門をくぐって入る。エントランスまでは美術館の建物のような庭の広さだ。玄関には美彌が待っていた。ピンク色のワンピースがよく似合っている。
「来てくれてありがとう」
「立派なお屋敷で、緊張する」
小声で美彌に言うと、常二はちょっとしたロビーのような広さの部屋に通され、十人以上は掛けられそうな長いテーブルに、すすめられるまま着席した。
飲み物を運んでくる美彌の顔が少し固い。
美彌の母は、奥のドアを開けて出てきて、常二にあいさつをした。
「先日は美彌がお世話になり、ありがとうございました」そう言って深く礼をした。
常二は思わず席を立ち上がり、同じく深い礼をした。
美彌の母は、四十歳代とは思えないほど若々しく見えた。美彌と姉妹と言ってもおかしくない。
美彌によく似ている顔立ちだが、常二を落ち着かなくさせるような貫禄が感じられた。
常二は美彌と並んでテーブルに着き、美彌の母は向かい側に座った。
「美彌から話はよく聞いています。いろいろこの子にやさしくしてくださっているそうですね」
「いえ、とんでもありません。僕の方が美彌さんによくしてもらっています」
先日見た若い女性が、ケーキを何種類も運んできた。「お好きなものをどうぞ」と言って出て行った。
ケーキはどれも見たことのない、洒落たデコレーションが施されており、一ついただくと、上品な甘さだった。
美彌はあまり口を開かない。主に美彌の母が常二に問いかけ、常二がそれに答えるというやりとりが続いた。
常二は自分の家のことを聞かれたらどう答えようかと心配したが、さすがにそれは話題に出なかった。
常二はようやく打ち解けてきて、話の途中で三人が笑うこともあった。
しかし、美彌が席を外して美彌の母と二人になると、
「あの子は帰国してから小学校で、いろいろとつらいことがあって、この前のような発作を起こすようになったんです」と切り出した。美彌は父の事業のため、カナダで幼時を過ごし、小学校高学年で帰国した。
「ずいぶんよくなってきているのですが、まだ完全には治りきっていないので、どうかそれを理解しておいてくださいね」
「はい、わかりました」と答えたが、美彌の母は、まだ言い足りないと思ったのか、
「あの子をそっとしておいてくださいね。大事な時期なの」そう言って常二の顔を見た。
常二は、その意味を美彌とは男女の深い関係になるなと言っているのだと解釈した。
「約束してくださるわね」
「わかりました」と答えたあと、常二は、何とも憂鬱な気分になった。
美彌の母のこの言葉が常二には呪いの言葉になった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
春の雨に濡れて―オッサンが訳あり家出JKを嫁にするお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。なお、本作品はヒロイン目線の裏ストーリー「春の雨はあたたかい」のオリジナルストーリーです。
春の雨の日の夜、主人公(圭)は、駅前にいた家出JK(美香)に頼まれて家に連れて帰る。家出の訳を聞いた圭は、自分と同じに境遇に同情して同居することを認める。同居を始めるに当たり、美香は家事を引き受けることを承諾する一方、同居の代償に身体を差し出すが、圭はかたくなに受け入れず、18歳になったら考えると答える。3か月間の同居生活で気心が通い合って、圭は18歳になった美香にプロポーズする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる