#秒恋6 桜咲き、恋は砕け散る。〜恋人目前の2人は、引き裂かれる?甘いデートの筈が、絶望に染まった1日〜

ReN

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piece4 絶望

幸せになってね

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「あ、剛士! バスケ部のみんなで、これからメシでも行こうかって話が出てるんだけど、どう?」

副キャプテンの山口健斗に廊下で呼び止められ、剛士は済まなそうに微笑んだ。
「ああ、悪い。俺、今日は約束があって」

健斗は気を悪くした様子も見せず、笑って答える。
「そっか。じゃあ、また今度な」
「うん。明日もムリなんだけど、明後日の練習後なら、行けるよ」
「オッケ」
健斗は明るく微笑むと、隣りの自分のクラスに入っていった。


剛士も足早に教室に戻り、一直線に自分の席に向かう。
修了式も無事に終わり、春休みへの期待に浮き立つクラス内。
剛士は、クラスメイトたちの会話には加わらず、手早く荷物を纏め始めた。

もうすぐ、悠里に会える――
そう思うと、暖かい喜びが胸に広がり、自然と彼の頬は緩んだ。


剛士の元に、勢いよく拓真が滑り込んでくる。
「よっ! 準備は万端か?」

拓真は、空いていた前の席に座ると、剛士に微笑みかけた。
「もう。ゴウったら、嬉しそうな顔しちゃってー!」
剛士に劣らず、嬉しそうな顔をした拓真が、クシャクシャと剛士の頭を撫でる。

いつもの剛士なら、そんなんじゃねえよ、とでも言って、手を払うところだ。
しかし今日の彼は、笑ったまま拓真にされるがままでいる。
柔らかな空気に包まれた剛士を見つめ、拓真も優しく微笑んだ。

「良かったな、ゴウ。今日は悠里ちゃんと2人で、ゆっくり楽しめよ」
「ん。さんきゅ」
「……もしかして、告白しちゃう?」
悪戯っぽい問いに、剛士はふっと唇を緩める。


明日、自分はエリカと高木と会う。
過去にケリをつけて、悠里と会う約束をしている。
きちんと彼女の顔を見て、思いを伝えるために。
しっかりと悠里の手をとって、包み込むために――


剛士は拓真を見つめ、柔らかく頷いた。
「……ん。明日する」
「明日?」
拓真が首を傾げつつも、明るい笑顔を広げた。
「ついにゴウの口から、具体的なお日取りが出ましたか!」
まるで、慶事の日程が決まったかのような言葉のチョイスに、剛士も笑ってしまう。

そのまま、ひとしきり2人で笑うと、拓真が嬉しそうに剛士の顔を覗き込んだ。
「悠里ちゃんとお前の、心の準備。ついに整った感じ?」
「……うん」
剛士は、切れ長の目を僅かに伏せ、照れたように微笑む。
「そっか」
拓真も柔らかな微笑を浮かべると、また剛士の頭をクシャクシャと撫でた。


拓真は優しい目で、剛士に確認する。
「お前ん中に残ってた、元カノへのわだかまりは、うまく解決できそう?」
「うん。明日、元カノとその彼氏と、話す約束してるんだ」
「なるほど、そういうことか。がんばれよ!」
「ん。しっかり、終わらせてくる」

「元センパイのこと、殴んなよ~?」
ファイティングポーズを取った拓真の冗談に、剛士は軽い笑い声を上げる。
「はは、大丈夫だよ。悠里を怖がらせるような乱暴なことは、絶対しない」
「ん! そうだよな。そもそもゴウは、暴力に訴えたりする奴じゃないよな」

拓真からの揺るぎない信頼を、嬉しく思う。
剛士はしっかりと頷き、続けた。
「悠里とは、それが終わったら会う約束してるんだ」
「うんうん。そこで告白するわけだ!」
「ん。悠里に、予告も、予約もした」
「どんだけ!」
弾かれたように、拓真が笑い出す。


「そっかそっかあ。やっと、この時が来たかあ」
拓真は、感慨深く呟いた。
「お前ら、出会って割とすぐに、恋人秒読みまで行ってたのにさ。いつまで、そこで時を刻んでんねん!って感じだったもんな」
「はは、うっせ」
若手芸人のような口調で、この数か月の自分たちを評され、剛士は笑いながら拓真の頭を小突いた。


「……でも本当、すんごい時間かけたよね」
拓真が、優しい笑顔で剛士を見つめる。
「ぶっちゃけもっと早く、悠里ちゃんと付き合いたい!って、思わなかったの?」
「はは、思ってたに決まってんだろ」
剛士も、柔らかく微笑む。
「でも俺は、きちんと過去を乗り越えてから、言いたかったし。悠里には、俺のことを知って。ゆっくり、俺に慣れて欲しかったから」
「ん、そっかあ」

拓真は穏やかな表情で、剛士の言葉に聞き入る。
「悠里ちゃんになら、いくらでも時間をかけていいって。ゴウは、思ったんだね?」
剛士は頷き、そっと目を伏せた。


「……悠里さ。男の大声とか笑い声が聞こえると、一瞬、ビクってするんだ」
「えっ? ……ごめん。オレ、気づいてなかったわ」
目を丸くして謝る拓真に、剛士は微笑んで首を振る。
「うん。多分、悠里自身も、気づいてないと思う」
「そうなんだ……」

剛士は、静かに目を伏せた。
「元々、男の大声が苦手なのかも知れないけどさ。どっちにしても、ウチの学校の奴にストーカーされた影響が、絶対でかいだろ」
「そうだな。トラウマになってるかも知れないね……」
「うん……だから悠里が俺に対して、絶対に大丈夫って、安心してくれるまで。いつまででも待とうって、思ってたんだ」
「そっかあ……」

拓真は静かに相槌を打つと、クシャクシャと、また柔らかく剛士の頭を撫でた。
「ゴウはホントに、悠里ちゃんのこと、大好きなんだな」
剛士は、ふっと微笑む。
「うん……大事にしたい」
「ん!」

拓真は、にっこりと大きく頷いた。
「2人で、幸せになってね?」
「うん」
拓真の祝福を、剛士は心地好く受け止めた。
「ありがとな」


拓真が、笑顔で立ち上がる。
「さて、そろそろ行く?」
「そうだな」
剛士は拓真を見つめ、首を傾げた。
「お前は、今日どうすんの?」
「オレは、ライトミュージック部の連中とカラオケ」
「じゃあ、今日は遅くなりそうだな」
「そうかも。あ、デートの報告は、喜んで受け取るぞ?」
「はは、バーカ」

拓真は、嬉しそうに微笑んだ。
「春休み、また4人でも集まろうな?」
「ん、もちろん」
剛士は、悪戯っぽく答える。
「次にみんなで会うときは、悠里はもう、俺の彼女だから」
「あっはっは! 惚気やがってー!」
拓真が、バシバシと剛士の肩を叩いた。

剛士は、笑いながらスマートフォンを手に取る。
「俺、悠里にメッセージしてから出るわ」
「そっか! じゃあオレは、先に行くね!」
拓真が手を振って、教室を出て行った。
が、ピョコンとドアから顔を覗かせて、声を掛けてくる。
「あ、ウチの部のみんなが、またゴウとカラオケ行きたいって!」
剛士は笑って、ヒラヒラと手を振った。
「はいよ。よろしく言っといてな」


親友の晴れ晴れとした笑顔を見送った後、剛士は悠里へのメッセージを打った。

『こっちは終わったよ。駅前のカフェで待ってる』


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