#秒恋4 恋の試練は元カノじゃなくて、元カノの親友だった件。

ReN

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piece1 花のような笑顔

謝りたかった

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「あ……」
目の前にいる彼女を見つめたまま、悠里は微かに声を上げる。


それで我に返ったのか、彼女は、慌てて笑みを浮かべてみせた。
「……良かった。いつか、会えたらいいなって思ってた」

何とも応え難く、悠里はただ、彼女の華やかな笑顔に見入っていた。

彼女は、明るい声で言う。
「あのカラオケの日のこと。謝りたかったんだ」


カラオケの日。
エレベーター。
彼女の勝ち気な笑顔。
剛士の、悲しい瞳。

脳裏に浮かんだ映像は、たったいま廊下に散乱してしまった書類のよう。
バサバサと悠里の胸に落ちて、彼女の心を掻き乱す――


「あの日は、楽しんでるところを邪魔して、ごめんなさい」
彼女は、すまなそうな笑みを目元に刻み、悠里に向かって頭を下げた。
「い、いいえ」
悠里は慌てて、会釈を返す。


歳こそ2つ上だが、同じ聖マリアンヌ女学院の生徒だ。
学内で会っても不思議はない。
けれど、こんな状況はさすがに予想していなかった。

突然の出会いに、悠里の頭は働かない。
それに、あの日のことを彼女から謝られるとは、思ってもみなかった。


初めて彼女を見たときの、勝ち気な笑顔。
そしていま、自分に向けられている、控えめな笑顔。
ふたつの表情が、悠里の心で複雑に交錯する。


彼女に対して、自分はどのような気持ちを持つべきなのだろうか――

答えはすぐには見つからず、悠里はただ、彼女の顔を見つめることしかできなかった。


悠里の迷いの視線を正面から受け止めた彼女は、今度は大輪の華が咲いたような、美しい微笑を見せた。
「三田エリカです」


『エリ……』

あの日、微かに聴こえた剛士の声が、悠里の中で鈍い痛みと共に蘇る。
エレベーターホールで彼女と出会った瞬間、剛士の唇から零れ落ちた。
彼女を呼ぶ、悲しい声。


ーーエリさん、じゃなかったんだ……

ぼんやりと、悠里は思う。
剛士は、エリカのことを、愛称で呼んでいたのだと。


「……大丈夫? もしかして、どっか痛い?」
エリカに、少し心配そうに声を掛けられ、悠里はハッとする。

エリカのくっきりとした目が、じっと悠里を見つめていた。
慌てて悠里は頭を下げる。
「す、すみません。あの……橘悠里です」

「悠里ちゃん」
悠里の名前を知り、嬉しそうにエリカの顔がほころんだ。
が、次の瞬間、ハッと自分の口を押さえる。

「……ごめん。嫌だよね、私に名前呼ばれるの」
エリカは、すまなそうに眉を下げた。


凛として華やかな美貌を持つエリカが、まるで叱られた子犬のような顔をする。
その表情が可愛らしくて、思わず悠里は笑ってしまう。

「そんなことないですよ」
悠里は首を横に振り、微笑んでみせる。
するとエリカも、ホッとしたように笑顔になった。


バサバサッと、またひとつ、書類の束が風に吹かれていく。
「うわっ、しまった」
慌ててエリカが立ち上がる。

「ごめん、悠里ちゃん。私、仕事に戻るわ」
散らばった書類を拾い上げながら、エリカは廊下を走り出す。

そうこうしているうちにも、風の悪戯は続いている。
「ヤバっ、これ、どこまで飛んでったんだろ?」
焦った声が、廊下をこだまする。

「私、手伝います」
悠里も立ち上がり、書類を集め始めた。
エリカが目を丸くする。
「い、いいよ悠里ちゃん。帰るところだったんでしょ?」

悠里は、微笑んで応えた。
「2人でやった方が、早いですよ」
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