上 下
47 / 94
piece5 悠里の戦い

脅迫

しおりを挟む
カンナが、落としていた悠里の写真を踏みつけ、ぐしゃりと廊下に擦り付けた。
腕を掴むカンナの指に力がこもり、悠里は身を竦ませる。

カンナが、にやりと口の端を歪ませた。
「私の知り合いがね、アンタと写真撮りたいんだって。放課後、付き合いなよ」
「……お断りします」

勇気を振り絞って、悠里は答えた。
そして、カンナの腕を振りほどき、距離を取った。


「……ふぅん?」

怒り出すかと思ったが、カンナは何故か、ゆったりと冷笑を浮かべる。
「ああ、そうなんだ。悠里ちゃんは来ないんだ。ざんねーん、じゃあ仕方ないね」

悠里は、訝しげに眉を顰める。
カンナが楽しそうに、もう1枚の写真を撮り出してみせた。


赤メガネ。ダークカラーのロングヘア。一眼レフ。

「あ……」
悠里は目を見開き、唇を噛み締めた。

「……石川彩奈ちゃん。だっけ」
ヒラヒラと写真を振り、ニィッとカンナは笑みを広げる。


それはカメラを構え、誰かを撮っている彩奈の姿だった。

被写体と何かを話していたのだろう、赤メガネの下の目が、キラキラと輝いている。
自信に満ちた彼女の明るい笑顔に惹き込まれる、美しい1枚だった。


彩奈とともに初めて勇誠学園に行き、拓真に会ったときに言われた言葉が、鮮明に蘇る。

『知ってるよ。橘悠里ちゃん。と、石川彩奈ちゃん。でしょ? キミたち、割と有名だもん』

そう。学祭では彩奈の写真も撮られ、勇誠学園で出回っていたのだ。

これまで実際には、彩奈の写真を見る機会はなかった。
それがまさか、こんな形で見ることになるなんて――


カンナは、彩奈の写真と悠里を見比べながら囁く。
「この子も、けっこう人気あるんだねえ? 悠里ちゃんより好きって言ってるヤツも、割といたよ?」

ズキリ、ズキリ、と悠里の胸が軋む。

「アンタが来ないなら、いいよ。こっち呼ぶから」
「やめて!」
悠里は目を揺らめかせて叫んだ。
「彩奈を、巻き込まないでください……」


カンナが、勝ち誇ったように冷笑を浮かべた。
悠里は、涙を堪えて尋ねる。

「……放課後。どこに行けばいいですか」
「最初からそう言えよ、クソビッチ」

カンナは、駅前のカラオケボックスを指定し、満足げに去っていった。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

可哀想な私が好き

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,140pt お気に入り:539

失業日記(仮)

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:2

ジンクス~雨時々曇り

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:235pt お気に入り:0

水没都市と空のクジラ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:200pt お気に入り:0

婚約を破棄された令嬢は舞い降りる❁

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:3,168

処理中です...