#秒恋4 恋の試練は元カノじゃなくて、元カノの親友だった件。

ReN

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piece9 親友

優しい電話

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夜、久しぶりにゆったりとした気持ちで、悠里は髪の手入れをしていた。

気に入っているブランドが毎年この時期に出す、桜の香りがするヘアオイル。
お風呂上がりのまだ少し濡れている髪に、丁寧に塗りこんでいく。

最近、思い悩むことが多かったせいで、手入れを怠りがちだった。
ややパサつきを感じる髪に触れ、悠里は反省する。


遊園地で囁かれた、剛士の甘い言葉を、大切に思い起こした。

『髪……長くて、綺麗だから』

大きな手で、長い指で、髪を撫でてくれる優しい感覚を。

「……大切にしなきゃね」
悠里は鏡に向かい、小さく微笑んだ。


スマートフォンが、着信を告げて震える。
悠里は胸を弾ませて、応えた。
「ゴウさん!」

『おお、悠里』
やや驚いたような、剛士の声が聞こえる。

『何か、元気だな?』
「ふふ、元気だよ」
悠里は照れ笑いを浮かべた。
そして、小さな声で付け加える。
「いま、ゴウさんのこと考えてたの……」
剛士が嬉しそうに笑った。
『そっか』

悠里は、ケアをしたばかりの髪をそっと撫でながら、囁く。
「ゴウさん、お疲れさま」

剛士は今日、バスケ部の送る会を取り仕切ったはずだ。
時計を見ると、時間は22時。
彼はいま、帰宅したばかりだろうか。

『うん。無事に終わったよ』
ほうっと、ひと息ついたような、穏やかな声が返ってきた。

「良かった。ゴウさん、がんばってたもんね」
『はは、そうだな』

剛士が、静かに呟く。
『去年は送る会、できなかったからさ。まあ、送るべき先輩が違うから、俺の自己満足でしかないけど……今年は、ちゃんとできて、ほっとしてる』
「うん……」

剛士にとって卒業式は、消えることのない、痛みの記憶を伴う日。
彼が、去年の卒業式を忘れられる日は、きっと来ない。

それでも今年、穏やかで優しい卒業式と送る会を、3年生に捧げることができて。
少しでも、剛士の心が晴れたのならば、嬉しい。
悠里は、そう思った。


悠里はもう一度、優しい声でねぎらう。
「ゴウさん。お疲れさま」
『うん……ありがとな』

剛士が、気の抜けたような柔らかい声で言った。
『……何か、悠里と話すと、ホッとする』
「ふふ、本当?」
『うん。癒されるわ』


2人で照れ笑いを零した後、剛士は続ける。
『送る会のサプライズでさ。去年卒業した、元キャプテンが来てくれたんだ』
「そうだったんだ!」
『うん。副キャプテンが、声かけたらしい。今日来ること、俺だけが知らなくてさ。マジでびっくりした』

剛士が楽しそうに、送る会の模様を報告してくれるのを、悠里は幸せな気持ちで聞いた。

「ふふっ、ゴウさんへのサプライズだったんだね」
『まさか、自分がターゲットだとは思わなくて。頭真っ白になったよ』
「あはは」

そんな嬉しいサプライズを仕掛けられる剛士は、本当に部内で愛されているのだろう。
いつもよりも浮き立っている剛士の声を聞きながら、悠里も一緒に笑う。

改めて、バスケ部という場所に、剛士が必要とされていること。
そして剛士が、バスケ部の仲間を必要としていることを実感できた。

大切な居場所で、幸せそうに笑う彼を見るのは、嬉しい。
暖かい思いに浸りながら、悠里は剛士の声に聞き入った。


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