#秒恋7 それぞれの翌日――壊れた日常を取り戻すために

ReN

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piece2 剛士の翌日――崩れゆく努力の証

お前の謝罪に何の価値もない

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谷と、互いの母親が隣室に移動した後。
2人は冷たい沈黙の中、互いを探り合った。

ややあって、ユタカが苦笑混じりに言う。
「もう、さぁ……お前、泣くなよー」
ポリポリと頭を掻きながら、彼は戯けた空気の中に謝意を示した。
「ぶん殴られるより、キッツいわ、あれ。いくらなんでもオレ、そこまでやるつもり、なかったし……」


「……どういうつもりだよ」
剛士は、低い声で呟く。
「お前の目的は、俺から全て奪うことだろ? そうすりゃいいじゃねえか。なに適当なこと喋ってんだよ」
「い、いや……」

剛士は目を上げ、鋭くユタカを睨みつけた。
「俺を退部させて、島流しにすればいいじゃねえか。お前の望み通りだよ。満足だろ」

「いや、まあ、そうじゃねぇっつうか……」
いつも顔は笑っていて、のらりくらりと躱わすのが得意なユタカが、困ったように口籠もる。

彼は、少しの間沈黙に身を委ねていたが、やがて意を決して剛士を見つめた。
「……悪かったよ」


剛士は、ふいとユタカから目を背け、吐き捨てるように呟いた。
「お前の謝罪に、何の価値もねえよ」

何を言っても言われても、今更だ。
剛士の胸の中に、悠里の優しい笑顔と、絶望に満ちた泣き顔が浮かんだ。
悠里の受けた傷は、消せやしない。
彼女を痛めつけられたという事実は、剛士の目の前に、無惨に横たわっている。


「……いやまあ、そうなんだけどさあ、」
ガリガリ、とユタカは頭を掻きむしり、溜め息をつく。

「……っていうかオレ、どっちかって言うと、あの子をカンナさんから、守ってたんだけど?」
剛士は応えず、ただヒリヒリとした沈黙が、ユタカを刺した。

返事をしない彼に苛立ったのか、ユタカの声が大きくなる。
「あのとき、オレがカンナさんのご機嫌取ってなかったら、あの子、もっと殴られてたし! なんなら、ハダカに剥かれてたって、おかしくなかったんだからな!」

瞬間、切れ長の黒い瞳が鋭く牙を剥き、ユタカの心を貫いた。
ユタカは、狼狽えて目を逸らしながらも、言い募る。

「オ、オレだって、本気であの子に乱暴する気はなかったよ。わかるだろ? もしオレたちが、ホントにヤる気だったんなら……お前が来たときには、とっくに終わってたって」


「……ああ。俺は、わかるよ」
「だ、だろ?」
頬を緩めかけたユタカに、剛士は言い放った。
「でも、あの子にはわからない。お前が本気かどうかなんて」
ハッと、ユタカが顔を強張らせた。


本気ではなかったんだと、ユタカが免罪符を取り出したところで、何の意味もない。
悠里の感じた恐怖と絶望は本物で、些かも和らぐことはない。
彼女をズタズタに傷つけた罪はもう、消えない。それなのに。


こいつは一体、何を言っているんだ?
剛士のはらわたが、熱く疼いた。


「……なあ、ユタカ」
剛士は、真っ直ぐにユタカを見て、訴える。
「お前本当に、何とも思わなかったのか? あんなに怖がって泣いてるあの子を見て。動画まで撮って、笑い物にして。何が面白かったんだよ」

答えられないユタカを見つめ、剛士は更に問いかける。
「なんで、あの子を巻き込んだ。なんで、なんであの子を傷つけたんだよ」

剛士の声が、痛みに震える。
必死で繋ぎ止めていた理性が、霞んでいく――


このままユタカの顔を見つめていたら、また、理性を手放してしまいそうだった。
耐えきれず、剛士は目を伏せる。
そうして振り絞るように、やるせない思いを呟いた。
「俺が嫌いなら、俺に直接やれよ……ふざけんな……」


剛士の悲しい瞳と声を浴びたユタカの顔が、歪んでいく。
自分のした裏切り、そして非道が、少しは理解できたのか。
ユタカは、しどろもどろに答えた。

「……マジで、悪かった。あのときは、頭に、血が昇ってたと思う。あの子が、ずっと一生懸命、お前のこと呼んでて……そういうのが、羨ましくて」


必死に自分を呼んで、助けを求めてくれたであろう悠里。
彼女の泣き声と悲鳴が――彼女の絶望の叫びが、聴こえる気がする。
剛士は、グッと唇を引き結んだ。

ユタカは、うろうろと視線を彷徨わせる。
「……やり過ぎたと思ってる。あの子のこと、あそこまで傷つける気は、本当になかった。ちょっと、脅かすだけのつもりだったんだ」
その小さな声は、後悔に掠れていた。


「ど、動画、もう消したから。誰にも見せてないし、どっかに保存とか拡散も、してないから。オレ、もう絶対、あの子には関わらないから」

少しでも、反省の意を示そうというのか。
ユタカは、早口で言葉を重ねる。

「ほ、ほら、スマホ見ていいよ。写真のフォルダも、クラウドも。全部見せるから。なあ、触って、確認してくれよ。ホントに全部、消したから。もともと、保存しとくつもりも無かったし」

必死になってスマートフォンを見せてくるユタカに応え、剛士はそれを受け取る。
彼の目の前で、写真フォルダやクラウド、バックアップデータなど、ひとつひとつを確認する。


確かに、ユタカのスマートフォンには、悠里に関するものは、何ひとつ残されていなかった。

「本当に……これは信じて」
無言でスマートフォンを返してきた剛士に、ユタカは頼りない声で呟く。
「本当に、申し訳なかったと思ってる。もう二度と、あの子に関わらない。傷つける真似はしない……信じてください」


これ以上、ユタカを糾弾しても、意味はない。
今さら彼を追い詰めたところで、時間が戻るわけでも、悠里の傷が癒えるわけでもない。

謝罪と、そして二度と関わらないという約束を得た。
動画が削除されていることも、確認はした。


ユタカからはもう、何も要らない――


「……うん。わかった」
剛士はようやく、ユタカに向かって小さく頷いた。


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