10 / 40
piece2 剛士の翌日――崩れゆく努力の証
ユタカの告白
しおりを挟む
***
剛士はユタカを見据え、静かに問う。
「……お前。安藤カンナのこと、好きだったんだろ?」
ユタカは一瞬、言葉を詰まらせる。
が、はぐらかす意味はないと悟り、微苦笑を浮かべた。
「……気づいてたのかよ」
「でなきゃお前、こんなことに手貸してないだろ」
「……はは。まあ、そうだな」
ユタカは目を伏せ、寂しげに笑う。
剛士はそっと、呟いた。
「だったら本当は、止めるべきだったんだよ」
「……うん」
ユタカは微かに頷き、眉を顰めた。
「ま、もう、遅いけどな……」
ユタカがようやく、心に沈澱させていた思いを――彼が何故、カンナの暴挙に加担したのかを、打ち明け始めた。
「お前からしたら、信じられないだろうけどさ……あれで結構、可愛いとこあんのよ、あの人。一生懸命で、不器用で。自分にも、他人にも厳しくて。理想に向かって突っ走るんだけど、いっつも、どっかズレてて」
目を伏せたまま、ユタカは曖昧な微苦笑を浮かべた。
「ブレーキかけてあげないと、盛大に事故る。危なくて……可愛い人。だからオレが、傍にいてやりたかったんだよね」
剛士は黙して、ユタカの告白を聞く。
ユタカの顔からは、すっかり嘘の笑みは消えていた。
そうして、ひた隠しにしていたのであろう彼なりの苦悩を、初めて剛士の前に晒け出した。
「あの人って、思い込んだら一直線だからさ。剛士のこと好きって、1回思っちゃったら、お前しか見えないのよ。オレがどんだけアピールしても、ムダ。正攻法じゃ、近づけもしなかった」
自嘲気味の暗い笑いを零し、ユタカが言う。
「剛士の細々した話を餌に、セフレになるので、精一杯。いや、正直、セフレですらなかった。あの人にとってオレは、剛士の情報を得るための駒ってだけ。情報と引き換えに、カラダ使わせてやる、くらいの意識だったのかもな」
ユタカは苦笑混じりに、軽い口調で話す。
けれどその声は、微かに震えていた。
剛士は、静かな声で、問いかける。
「……本気で、お前の気持ちを伝えたことは、なかったのか?」
ユタカはかぶりを振り、悲しい笑顔で剛士を見た。
「あの人が、聞く耳持つと思う?」
「……いや」
剛士は困った顔をして、自分の問いを引き下げた。
見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じる。
そして、自分にとって要らないもの、不快なものは、徹底的に排除する。
カンナは、そういう人間だと思う。
もしもユタカが告白などすれば、あの女は不快感に顔を歪め、にべもなく彼の思いを斥けるだろう。
そうして二度と、ユタカが傍に寄ることを許さなかっただろう。
剛士は、エリカやバスケ部の活動を通してしか、カンナのことを知らない。
しかし、ユタカの言わんとすることは、充分理解できた。
だろ? とでも言うように、ユタカは笑みを深める。
ポリポリと、こめかみの辺りを掻き、彼は照れ隠しのような仕草をして言った。
「まあ、それでもさ。都合の良いオトコでも、何でもいいから。あの人の傍に、いてやりたかったんだよな」
その表情を見ると、ユタカが本気でカンナを好きでいたのだと。
だからこそ、間違った行動をも、共にしたのだと。
間違っているとわかっていても、共に罪を背負わずにはいられなかったのだと、伝わってきた。
ユタカの、歪になってしまった愛を垣間見て、剛士は複雑な思いに囚われる。
――もしもユタカが、しっかりと思いを伝えることができていて。
もしもカンナが、それを受け入れていたならば。
こんなことには、ならなかったかも知れない。
そうしたら、悠里をあんな目に遭わせずに済んだのかな……
ユタカの声を反芻しながら、剛士は、あらぬことを考えてしまった。
「……オレ、さ。あの人に頼られたの、初めてでさ」
ユタカは遠慮がちに、剛士と視線を合わせた。
「お前からしたら、バカみたいだろうけど……正直、嬉しかったんだ」
剛士は微かに、首を横に振ってみせる。
ユタカは、掠れた声で続けた。
「間違ったことをしようとしてるって、思ったよ。止めなきゃいけないって、わかってたよ。でも、オレまであの人を突き放したら、あの人がぶっ壊れそうで……従うしかなかった」
剛士の抱える怒りは、自分の内に沈んでいき、代わりに悲しみが胸を浸していく。
ユタカは、ふぅっと、小さく息をついた。
「あの人、とっくの昔に、壊れてたんだろうな……オレ、一応傍にいたんだけどな。結局、何にもできなかった」
ユタカは、そっと椅子から立った。
そうして机の横に膝をつき、剛士に向かって深く頭を下げた。
「悪かった。お前にも……あの子にも。すいませんでした」
「……やめろよ」
剛士は、ふいと彼から目を逸らし、呟いた。
土下座なんて、されたいのではない。
そんな姿を見たいのではなかった。
「お前のせいだなんて、思ってない」
立て、と手で示し、剛士は言った。
ユタカは困った目をして、剛士を見つめる。
剛士は目を伏せたまま、自分に言い聞かせるように呟いた。
「あの子を守れなかったのは、俺だから」
誰かに責任転嫁しても、意味は無い。
約束を守れなかったのは。
彼女を守ってあげられなかったのは、自分だ。
逃げてはいけない。目を逸らしてはいけない。
自分は、しっかりと罪を背負って、彼女に償っていかなければ。
――どうやって?
そこで思考は飛散する。
どうやって、償えばいいのだろう。
泣いて、脅えて、剛士の手を拒む程に。
深く深く、傷ついてしまった悠里に。
自分は一体、彼女のために何ができるというのだろう。
剛士の両手は震え、力を失っていく。
我知らず、剛士は頭を垂れてしまう。
「剛士……」
ユタカが、心配そうに自分を呼ぶ。
かつての仲間。かつての友だち。
今はもう、他人よりも、遠い人間――
剛士は目を上げ、彼の顔を見据えた。
「お前の気持ちも、わからなくはない。正直、同情もする。お前に責任を問うつもりもないよ」
「ごう……」
「けど、」
名を呼ぶなと言わんばかりに、剛士は厳しい声音で彼の言葉を遮った。
「お前が、悠里にやったこと。それだけは絶対に、許さない」
剛士は、決然と立ち上がる。
そうして、まだ机の前に跪いたままだったユタカを、冷たい目で見下ろした。
「お前と話すのは、これで最後。俺の前に、二度と顔出すな」
ユタカの返事を待たず、剛士は足早に部屋を後にした。
剛士はユタカを見据え、静かに問う。
「……お前。安藤カンナのこと、好きだったんだろ?」
ユタカは一瞬、言葉を詰まらせる。
が、はぐらかす意味はないと悟り、微苦笑を浮かべた。
「……気づいてたのかよ」
「でなきゃお前、こんなことに手貸してないだろ」
「……はは。まあ、そうだな」
ユタカは目を伏せ、寂しげに笑う。
剛士はそっと、呟いた。
「だったら本当は、止めるべきだったんだよ」
「……うん」
ユタカは微かに頷き、眉を顰めた。
「ま、もう、遅いけどな……」
ユタカがようやく、心に沈澱させていた思いを――彼が何故、カンナの暴挙に加担したのかを、打ち明け始めた。
「お前からしたら、信じられないだろうけどさ……あれで結構、可愛いとこあんのよ、あの人。一生懸命で、不器用で。自分にも、他人にも厳しくて。理想に向かって突っ走るんだけど、いっつも、どっかズレてて」
目を伏せたまま、ユタカは曖昧な微苦笑を浮かべた。
「ブレーキかけてあげないと、盛大に事故る。危なくて……可愛い人。だからオレが、傍にいてやりたかったんだよね」
剛士は黙して、ユタカの告白を聞く。
ユタカの顔からは、すっかり嘘の笑みは消えていた。
そうして、ひた隠しにしていたのであろう彼なりの苦悩を、初めて剛士の前に晒け出した。
「あの人って、思い込んだら一直線だからさ。剛士のこと好きって、1回思っちゃったら、お前しか見えないのよ。オレがどんだけアピールしても、ムダ。正攻法じゃ、近づけもしなかった」
自嘲気味の暗い笑いを零し、ユタカが言う。
「剛士の細々した話を餌に、セフレになるので、精一杯。いや、正直、セフレですらなかった。あの人にとってオレは、剛士の情報を得るための駒ってだけ。情報と引き換えに、カラダ使わせてやる、くらいの意識だったのかもな」
ユタカは苦笑混じりに、軽い口調で話す。
けれどその声は、微かに震えていた。
剛士は、静かな声で、問いかける。
「……本気で、お前の気持ちを伝えたことは、なかったのか?」
ユタカはかぶりを振り、悲しい笑顔で剛士を見た。
「あの人が、聞く耳持つと思う?」
「……いや」
剛士は困った顔をして、自分の問いを引き下げた。
見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じる。
そして、自分にとって要らないもの、不快なものは、徹底的に排除する。
カンナは、そういう人間だと思う。
もしもユタカが告白などすれば、あの女は不快感に顔を歪め、にべもなく彼の思いを斥けるだろう。
そうして二度と、ユタカが傍に寄ることを許さなかっただろう。
剛士は、エリカやバスケ部の活動を通してしか、カンナのことを知らない。
しかし、ユタカの言わんとすることは、充分理解できた。
だろ? とでも言うように、ユタカは笑みを深める。
ポリポリと、こめかみの辺りを掻き、彼は照れ隠しのような仕草をして言った。
「まあ、それでもさ。都合の良いオトコでも、何でもいいから。あの人の傍に、いてやりたかったんだよな」
その表情を見ると、ユタカが本気でカンナを好きでいたのだと。
だからこそ、間違った行動をも、共にしたのだと。
間違っているとわかっていても、共に罪を背負わずにはいられなかったのだと、伝わってきた。
ユタカの、歪になってしまった愛を垣間見て、剛士は複雑な思いに囚われる。
――もしもユタカが、しっかりと思いを伝えることができていて。
もしもカンナが、それを受け入れていたならば。
こんなことには、ならなかったかも知れない。
そうしたら、悠里をあんな目に遭わせずに済んだのかな……
ユタカの声を反芻しながら、剛士は、あらぬことを考えてしまった。
「……オレ、さ。あの人に頼られたの、初めてでさ」
ユタカは遠慮がちに、剛士と視線を合わせた。
「お前からしたら、バカみたいだろうけど……正直、嬉しかったんだ」
剛士は微かに、首を横に振ってみせる。
ユタカは、掠れた声で続けた。
「間違ったことをしようとしてるって、思ったよ。止めなきゃいけないって、わかってたよ。でも、オレまであの人を突き放したら、あの人がぶっ壊れそうで……従うしかなかった」
剛士の抱える怒りは、自分の内に沈んでいき、代わりに悲しみが胸を浸していく。
ユタカは、ふぅっと、小さく息をついた。
「あの人、とっくの昔に、壊れてたんだろうな……オレ、一応傍にいたんだけどな。結局、何にもできなかった」
ユタカは、そっと椅子から立った。
そうして机の横に膝をつき、剛士に向かって深く頭を下げた。
「悪かった。お前にも……あの子にも。すいませんでした」
「……やめろよ」
剛士は、ふいと彼から目を逸らし、呟いた。
土下座なんて、されたいのではない。
そんな姿を見たいのではなかった。
「お前のせいだなんて、思ってない」
立て、と手で示し、剛士は言った。
ユタカは困った目をして、剛士を見つめる。
剛士は目を伏せたまま、自分に言い聞かせるように呟いた。
「あの子を守れなかったのは、俺だから」
誰かに責任転嫁しても、意味は無い。
約束を守れなかったのは。
彼女を守ってあげられなかったのは、自分だ。
逃げてはいけない。目を逸らしてはいけない。
自分は、しっかりと罪を背負って、彼女に償っていかなければ。
――どうやって?
そこで思考は飛散する。
どうやって、償えばいいのだろう。
泣いて、脅えて、剛士の手を拒む程に。
深く深く、傷ついてしまった悠里に。
自分は一体、彼女のために何ができるというのだろう。
剛士の両手は震え、力を失っていく。
我知らず、剛士は頭を垂れてしまう。
「剛士……」
ユタカが、心配そうに自分を呼ぶ。
かつての仲間。かつての友だち。
今はもう、他人よりも、遠い人間――
剛士は目を上げ、彼の顔を見据えた。
「お前の気持ちも、わからなくはない。正直、同情もする。お前に責任を問うつもりもないよ」
「ごう……」
「けど、」
名を呼ぶなと言わんばかりに、剛士は厳しい声音で彼の言葉を遮った。
「お前が、悠里にやったこと。それだけは絶対に、許さない」
剛士は、決然と立ち上がる。
そうして、まだ机の前に跪いたままだったユタカを、冷たい目で見下ろした。
「お前と話すのは、これで最後。俺の前に、二度と顔出すな」
ユタカの返事を待たず、剛士は足早に部屋を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
救助隊との色恋はご自由に。
すずなり。
恋愛
22歳のほたるは幼稚園の先生。訳ありな雇用形態で仕事をしている。
ある日、買い物をしていたらエレベーターに閉じ込められてしまった。
助けに来たのはエレベーターの会社の人間ではなく・・・
香川「消防署の香川です!大丈夫ですか!?」
ほたる(消防関係の人だ・・・!)
『消防署員』には苦い思い出がある。
できれば関わりたくなかったのに、どんどん仲良くなっていく私。
しまいには・・・
「ほたるから手を引け・・!」
「あきらめない!」
「俺とヨリを戻してくれ・・!」
「・・・・好きだ。」
「俺のものになれよ。」
みんな私の病気のことを知ったら・・・どうなるんだろう。
『俺がいるから大丈夫』
そう言ってくれるのは誰?
私はもう・・・重荷になりたくない・・・!
※お話に出てくるものは全て、想像の世界です。現実のものとは何ら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ただただ暇つぶしにでも読んでいただけたら嬉しく思います。
すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる