#秒恋7 それぞれの翌日――壊れた日常を取り戻すために

ReN

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piece2 剛士の翌日――崩れゆく努力の証

ユタカの告白

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***


剛士はユタカを見据え、静かに問う。
「……お前。安藤カンナのこと、好きだったんだろ?」


ユタカは一瞬、言葉を詰まらせる。
が、はぐらかす意味はないと悟り、微苦笑を浮かべた。
「……気づいてたのかよ」
「でなきゃお前、こんなことに手貸してないだろ」
「……はは。まあ、そうだな」

ユタカは目を伏せ、寂しげに笑う。
剛士はそっと、呟いた。
「だったら本当は、止めるべきだったんだよ」
「……うん」
ユタカは微かに頷き、眉を顰めた。
「ま、もう、遅いけどな……」


ユタカがようやく、心に沈澱させていた思いを――彼が何故、カンナの暴挙に加担したのかを、打ち明け始めた。

「お前からしたら、信じられないだろうけどさ……あれで結構、可愛いとこあんのよ、あの人。一生懸命で、不器用で。自分にも、他人にも厳しくて。理想に向かって突っ走るんだけど、いっつも、どっかズレてて」

目を伏せたまま、ユタカは曖昧な微苦笑を浮かべた。
「ブレーキかけてあげないと、盛大に事故る。危なくて……可愛い人。だからオレが、傍にいてやりたかったんだよね」

剛士は黙して、ユタカの告白を聞く。
ユタカの顔からは、すっかり嘘の笑みは消えていた。
そうして、ひた隠しにしていたのであろう彼なりの苦悩を、初めて剛士の前に晒け出した。


「あの人って、思い込んだら一直線だからさ。剛士のこと好きって、1回思っちゃったら、お前しか見えないのよ。オレがどんだけアピールしても、ムダ。正攻法じゃ、近づけもしなかった」

自嘲気味の暗い笑いを零し、ユタカが言う。

「剛士の細々した話を餌に、セフレになるので、精一杯。いや、正直、セフレですらなかった。あの人にとってオレは、剛士の情報を得るための駒ってだけ。情報と引き換えに、カラダ使わせてやる、くらいの意識だったのかもな」

ユタカは苦笑混じりに、軽い口調で話す。
けれどその声は、微かに震えていた。


剛士は、静かな声で、問いかける。
「……本気で、お前の気持ちを伝えたことは、なかったのか?」
ユタカはかぶりを振り、悲しい笑顔で剛士を見た。
「あの人が、聞く耳持つと思う?」
「……いや」
剛士は困った顔をして、自分の問いを引き下げた。


見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じる。
そして、自分にとって要らないもの、不快なものは、徹底的に排除する。
カンナは、そういう人間だと思う。

もしもユタカが告白などすれば、あの女は不快感に顔を歪め、にべもなく彼の思いを斥けるだろう。
そうして二度と、ユタカが傍に寄ることを許さなかっただろう。

剛士は、エリカやバスケ部の活動を通してしか、カンナのことを知らない。
しかし、ユタカの言わんとすることは、充分理解できた。


だろ? とでも言うように、ユタカは笑みを深める。
ポリポリと、こめかみの辺りを掻き、彼は照れ隠しのような仕草をして言った。

「まあ、それでもさ。都合の良いオトコでも、何でもいいから。あの人の傍に、いてやりたかったんだよな」


その表情を見ると、ユタカが本気でカンナを好きでいたのだと。
だからこそ、間違った行動をも、共にしたのだと。
間違っているとわかっていても、共に罪を背負わずにはいられなかったのだと、伝わってきた。
ユタカの、歪になってしまった愛を垣間見て、剛士は複雑な思いに囚われる。


――もしもユタカが、しっかりと思いを伝えることができていて。
もしもカンナが、それを受け入れていたならば。

こんなことには、ならなかったかも知れない。

そうしたら、悠里をあんな目に遭わせずに済んだのかな……

ユタカの声を反芻しながら、剛士は、あらぬことを考えてしまった。


「……オレ、さ。あの人に頼られたの、初めてでさ」
ユタカは遠慮がちに、剛士と視線を合わせた。
「お前からしたら、バカみたいだろうけど……正直、嬉しかったんだ」

剛士は微かに、首を横に振ってみせる。
ユタカは、掠れた声で続けた。
「間違ったことをしようとしてるって、思ったよ。止めなきゃいけないって、わかってたよ。でも、オレまであの人を突き放したら、あの人がぶっ壊れそうで……従うしかなかった」


剛士の抱える怒りは、自分の内に沈んでいき、代わりに悲しみが胸を浸していく。

ユタカは、ふぅっと、小さく息をついた。
「あの人、とっくの昔に、壊れてたんだろうな……オレ、一応傍にいたんだけどな。結局、何にもできなかった」

ユタカは、そっと椅子から立った。
そうして机の横に膝をつき、剛士に向かって深く頭を下げた。
「悪かった。お前にも……あの子にも。すいませんでした」


「……やめろよ」
剛士は、ふいと彼から目を逸らし、呟いた。
土下座なんて、されたいのではない。
そんな姿を見たいのではなかった。

「お前のせいだなんて、思ってない」
立て、と手で示し、剛士は言った。
ユタカは困った目をして、剛士を見つめる。


剛士は目を伏せたまま、自分に言い聞かせるように呟いた。
「あの子を守れなかったのは、俺だから」

誰かに責任転嫁しても、意味は無い。
約束を守れなかったのは。
彼女を守ってあげられなかったのは、自分だ。

逃げてはいけない。目を逸らしてはいけない。
自分は、しっかりと罪を背負って、彼女に償っていかなければ。


――どうやって?


そこで思考は飛散する。
どうやって、償えばいいのだろう。
泣いて、脅えて、剛士の手を拒む程に。
深く深く、傷ついてしまった悠里に。

自分は一体、彼女のために何ができるというのだろう。

剛士の両手は震え、力を失っていく。
我知らず、剛士は頭を垂れてしまう。


「剛士……」
ユタカが、心配そうに自分を呼ぶ。

かつての仲間。かつての友だち。
今はもう、他人よりも、遠い人間――


剛士は目を上げ、彼の顔を見据えた。
「お前の気持ちも、わからなくはない。正直、同情もする。お前に責任を問うつもりもないよ」
「ごう……」
「けど、」

名を呼ぶなと言わんばかりに、剛士は厳しい声音で彼の言葉を遮った。
「お前が、悠里にやったこと。それだけは絶対に、許さない」


剛士は、決然と立ち上がる。
そうして、まだ机の前に跪いたままだったユタカを、冷たい目で見下ろした。
「お前と話すのは、これで最後。俺の前に、二度と顔出すな」


ユタカの返事を待たず、剛士は足早に部屋を後にした。


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