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piece3 剛士の家族
ガキ
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***
剛士は、できるだけ短い言葉で、起こった出来事を話した。
詳しくは、話さなかった。
エリカ。カンナ。ユタカ。そして、悠里と自分。
誰が、どんな立ち位置にいて、どのような目的を持って、何をしたのか。
箇条書きのような簡潔さで、剛士は打ち明けた。
兄は、切れ長の目を伏せて、耳を傾ける。
そうして質問は挟まず、最低限の相槌だけを打って、聞いてくれた。
「ふぅん」
剛士の言葉が切れると、源希は目を上げて、真っ直ぐに弟を見据えた。
「今日のことは、お前が自制するべきだったな。下手したら、部活動禁止令や停学喰らう可能性だってあった」
冷静で、誰の味方というわけでもない、平坦な声だった。
「お前がそうなったとき、迷惑を被るのは、バスケ部員だろ」
何の反論の余地もない。
第三者の視点で言葉にされると、改めて自分は、なんて愚かなことをしたのだろうと思う。
バスケ部キャプテンの責任を放棄した自分の行為に、嫌悪感が込み上げた。
剛士は眉を顰め、うな垂れてしまう。
源希が、弟の重苦しい空気を吹き飛ばすように、ふっと笑った。
「……お前もまだ、子どもだな」
「な、何だよ」
慌てて剛士は顔を上げ、兄を睨みつける。
源希の、柔らかく微笑む切れ長の瞳とぶつかった。
「お前が、バスケ部辞めさせられたり、島流しになったりしたら。女の子の方が、辛いだろうが」
源希は噛んで含めるように、ゆっくりと囁く。
「お前。その子に、全責任を負わせるつもりかよ」
ハッと、剛士は顔を強張らせる。
「……そこまで、頭が回らなかった? それとも、償いになるとでも、思った?」
目を細め、源希は探るように弟を見つめた。
「それ、逃げてるだけだぜ?」
『違う』。
そう言いたかった。
けれどきっと、図星だった。
傷ついて、失って、自分も被害者になって。
向き合うことから、逃げようとしただけだ。
弱くて、情けなくて、狡い自分。
嫌というほど、気づかされた。
ズキリと胸が痛み、剛士は唇を引き結ぶ。
反論してこない弟に対し、源希は苦笑する。
「お前ってホント、自分の傷を受け止めるの、下手くそだよな」
頼りない目で自分を見つめる剛士に、源希は笑って、首を傾げた。
「お前はなんで、1人で背負い込もうとすんの?」
「……だって、俺の責任だから」
「だとしても、1人で立ち向かう必要なくね?」
「誰かを巻き込みたくねえんだよ!」
思わず剛士は、声を荒げてしまう。
自分でも、声の大きさに驚いてしまい、慌てて剛士は息を飲み込む。
それから意識的に声を抑え、呟いた。
「……誰かに責任転嫁するのは、嫌だ」
取り乱す弟を意に介した様子もなく、源希は笑う。
「でもお前、1人で対応できてねぇじゃん」
「……ちゃんとする、絶対。もう家族にも迷惑かけない」
「できねぇって」
「できる!」
源希はまた、カラカラと大きな声で笑った。
「できねぇから、こんなことになってんだろ?」
自分を睨みつけてくる剛士の頭を、クシャクシャと撫で回す。
「……なに、すんだよ!」
剛士は怒りを露わに、乱暴に手を払いのけた。
「余裕ねぇなぁ、ゴーちゃん」
手負いの獣のように、激しく牙を剥く彼に、源希は言った。
「そんだけ、弱ってんだよな」
剛士は一瞬、言葉を失う。
しかし再び、鋭く兄を睨みつけると、硬く否定した。
「違う。適当なこと言ってんじゃねえよ」
源希は、弟の顔を覗き込むようにして、微笑んだ。
「認めろ。お前はいま、傷ついてんだよ。1人で立てないくらいにな」
兄の断定的な口調に、剛士は更に苛立つ。
「うるせえ。俺のことはどうでもいいだろ」
「あのなあ、ゴーちゃん」
兄が、言葉を噛み砕くようにして、ゆっくりと語りかけた。
「誰かを大事にしたいならさ。自分のことも大事にできなきゃ、駄目だぜ?」
源希は、弟の鞄に長い指を向ける。
「お前が寝てる間、何回もスマホがブルブル言ってた。電話もメッセも、大量に来てんじゃね?」
剛士の脳裏に、バスケ部のメンバー――ことに、副キャプテンの健斗の顔が浮かんだ。
それを皮切りに、次々と親友の拓真や彩奈、それから高木やエリカの顔が溢れ出す。
剛士は唇を引き結び、その衝撃に耐える。
「頼ればいいじゃん。お前には、心配してくれる人が、沢山いるんだから」
源希は、何でもないことだと言わんばかりに笑った。
「1人で戦うなんて、ちんけなプライド、さっさと捨てちまえ」
兄の長い腕が伸びてきて、グシャグシャと頭を撫でてきた。
振り払おうとした剛士の手を躱し、
源希は、ガシッと弟の首を押さえつけてしまう。
そして、剛士の耳元で囁いた。
「自分1人でどうにかしようなんて、烏滸がましいんだよ、ガキが。もっと人を使え。仲間を利用しろ」
彼の中で、話は終わったのだろう。
源希は満足げに、弟を解放した。
そうして、軽い足取りでドアへと向かう。
「7時には晩飯できるって、聡子さん言ってたぞ。スマホ見るのは後にして、さっさと出て来い」
ドアを開けながら兄が振り返り、悪戯っぽく自分の目元を指してみせた。
「――あ。来る前に、顔洗って来いよ」
剛士は、ハッと目を丸くする。
言葉の意図を弟が察したのを見届けると、源希は笑って、ヒラヒラと手を振った。
パタン、とドアが閉まり、剛士は静寂に取り残される。
剛士はのろのろと、兄が示した目元に触れた。
涙の後が残っていたのであろう、自分の目元を。
起きる直前に感じた兄の指先は、やはり本当に、涙を拭っていたということか――
恥ずかしさと、感謝の気持ちが、ない交ぜになる。
「……くそ。アイツ」
大嫌いな兄貴。
でもやはり、彼の方が1枚上手だ。
剛士はグシャグシャと頭を掻き、長い溜め息をついた。
剛士は、できるだけ短い言葉で、起こった出来事を話した。
詳しくは、話さなかった。
エリカ。カンナ。ユタカ。そして、悠里と自分。
誰が、どんな立ち位置にいて、どのような目的を持って、何をしたのか。
箇条書きのような簡潔さで、剛士は打ち明けた。
兄は、切れ長の目を伏せて、耳を傾ける。
そうして質問は挟まず、最低限の相槌だけを打って、聞いてくれた。
「ふぅん」
剛士の言葉が切れると、源希は目を上げて、真っ直ぐに弟を見据えた。
「今日のことは、お前が自制するべきだったな。下手したら、部活動禁止令や停学喰らう可能性だってあった」
冷静で、誰の味方というわけでもない、平坦な声だった。
「お前がそうなったとき、迷惑を被るのは、バスケ部員だろ」
何の反論の余地もない。
第三者の視点で言葉にされると、改めて自分は、なんて愚かなことをしたのだろうと思う。
バスケ部キャプテンの責任を放棄した自分の行為に、嫌悪感が込み上げた。
剛士は眉を顰め、うな垂れてしまう。
源希が、弟の重苦しい空気を吹き飛ばすように、ふっと笑った。
「……お前もまだ、子どもだな」
「な、何だよ」
慌てて剛士は顔を上げ、兄を睨みつける。
源希の、柔らかく微笑む切れ長の瞳とぶつかった。
「お前が、バスケ部辞めさせられたり、島流しになったりしたら。女の子の方が、辛いだろうが」
源希は噛んで含めるように、ゆっくりと囁く。
「お前。その子に、全責任を負わせるつもりかよ」
ハッと、剛士は顔を強張らせる。
「……そこまで、頭が回らなかった? それとも、償いになるとでも、思った?」
目を細め、源希は探るように弟を見つめた。
「それ、逃げてるだけだぜ?」
『違う』。
そう言いたかった。
けれどきっと、図星だった。
傷ついて、失って、自分も被害者になって。
向き合うことから、逃げようとしただけだ。
弱くて、情けなくて、狡い自分。
嫌というほど、気づかされた。
ズキリと胸が痛み、剛士は唇を引き結ぶ。
反論してこない弟に対し、源希は苦笑する。
「お前ってホント、自分の傷を受け止めるの、下手くそだよな」
頼りない目で自分を見つめる剛士に、源希は笑って、首を傾げた。
「お前はなんで、1人で背負い込もうとすんの?」
「……だって、俺の責任だから」
「だとしても、1人で立ち向かう必要なくね?」
「誰かを巻き込みたくねえんだよ!」
思わず剛士は、声を荒げてしまう。
自分でも、声の大きさに驚いてしまい、慌てて剛士は息を飲み込む。
それから意識的に声を抑え、呟いた。
「……誰かに責任転嫁するのは、嫌だ」
取り乱す弟を意に介した様子もなく、源希は笑う。
「でもお前、1人で対応できてねぇじゃん」
「……ちゃんとする、絶対。もう家族にも迷惑かけない」
「できねぇって」
「できる!」
源希はまた、カラカラと大きな声で笑った。
「できねぇから、こんなことになってんだろ?」
自分を睨みつけてくる剛士の頭を、クシャクシャと撫で回す。
「……なに、すんだよ!」
剛士は怒りを露わに、乱暴に手を払いのけた。
「余裕ねぇなぁ、ゴーちゃん」
手負いの獣のように、激しく牙を剥く彼に、源希は言った。
「そんだけ、弱ってんだよな」
剛士は一瞬、言葉を失う。
しかし再び、鋭く兄を睨みつけると、硬く否定した。
「違う。適当なこと言ってんじゃねえよ」
源希は、弟の顔を覗き込むようにして、微笑んだ。
「認めろ。お前はいま、傷ついてんだよ。1人で立てないくらいにな」
兄の断定的な口調に、剛士は更に苛立つ。
「うるせえ。俺のことはどうでもいいだろ」
「あのなあ、ゴーちゃん」
兄が、言葉を噛み砕くようにして、ゆっくりと語りかけた。
「誰かを大事にしたいならさ。自分のことも大事にできなきゃ、駄目だぜ?」
源希は、弟の鞄に長い指を向ける。
「お前が寝てる間、何回もスマホがブルブル言ってた。電話もメッセも、大量に来てんじゃね?」
剛士の脳裏に、バスケ部のメンバー――ことに、副キャプテンの健斗の顔が浮かんだ。
それを皮切りに、次々と親友の拓真や彩奈、それから高木やエリカの顔が溢れ出す。
剛士は唇を引き結び、その衝撃に耐える。
「頼ればいいじゃん。お前には、心配してくれる人が、沢山いるんだから」
源希は、何でもないことだと言わんばかりに笑った。
「1人で戦うなんて、ちんけなプライド、さっさと捨てちまえ」
兄の長い腕が伸びてきて、グシャグシャと頭を撫でてきた。
振り払おうとした剛士の手を躱し、
源希は、ガシッと弟の首を押さえつけてしまう。
そして、剛士の耳元で囁いた。
「自分1人でどうにかしようなんて、烏滸がましいんだよ、ガキが。もっと人を使え。仲間を利用しろ」
彼の中で、話は終わったのだろう。
源希は満足げに、弟を解放した。
そうして、軽い足取りでドアへと向かう。
「7時には晩飯できるって、聡子さん言ってたぞ。スマホ見るのは後にして、さっさと出て来い」
ドアを開けながら兄が振り返り、悪戯っぽく自分の目元を指してみせた。
「――あ。来る前に、顔洗って来いよ」
剛士は、ハッと目を丸くする。
言葉の意図を弟が察したのを見届けると、源希は笑って、ヒラヒラと手を振った。
パタン、とドアが閉まり、剛士は静寂に取り残される。
剛士はのろのろと、兄が示した目元に触れた。
涙の後が残っていたのであろう、自分の目元を。
起きる直前に感じた兄の指先は、やはり本当に、涙を拭っていたということか――
恥ずかしさと、感謝の気持ちが、ない交ぜになる。
「……くそ。アイツ」
大嫌いな兄貴。
でもやはり、彼の方が1枚上手だ。
剛士はグシャグシャと頭を掻き、長い溜め息をついた。
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