#秒恋7 それぞれの翌日――壊れた日常を取り戻すために

ReN

文字の大きさ
13 / 40
piece3 剛士の家族

ガキ

しおりを挟む
***


剛士は、できるだけ短い言葉で、起こった出来事を話した。

詳しくは、話さなかった。
エリカ。カンナ。ユタカ。そして、悠里と自分。
誰が、どんな立ち位置にいて、どのような目的を持って、何をしたのか。
箇条書きのような簡潔さで、剛士は打ち明けた。
兄は、切れ長の目を伏せて、耳を傾ける。
そうして質問は挟まず、最低限の相槌だけを打って、聞いてくれた。


「ふぅん」
剛士の言葉が切れると、源希は目を上げて、真っ直ぐに弟を見据えた。

「今日のことは、お前が自制するべきだったな。下手したら、部活動禁止令や停学喰らう可能性だってあった」
冷静で、誰の味方というわけでもない、平坦な声だった。
「お前がそうなったとき、迷惑を被るのは、バスケ部員だろ」

何の反論の余地もない。
第三者の視点で言葉にされると、改めて自分は、なんて愚かなことをしたのだろうと思う。
バスケ部キャプテンの責任を放棄した自分の行為に、嫌悪感が込み上げた。
剛士は眉を顰め、うな垂れてしまう。


源希が、弟の重苦しい空気を吹き飛ばすように、ふっと笑った。
「……お前もまだ、子どもだな」
「な、何だよ」
慌てて剛士は顔を上げ、兄を睨みつける。
源希の、柔らかく微笑む切れ長の瞳とぶつかった。

「お前が、バスケ部辞めさせられたり、島流しになったりしたら。女の子の方が、辛いだろうが」
源希は噛んで含めるように、ゆっくりと囁く。

「お前。その子に、全責任を負わせるつもりかよ」
ハッと、剛士は顔を強張らせる。


「……そこまで、頭が回らなかった? それとも、償いになるとでも、思った?」
目を細め、源希は探るように弟を見つめた。
「それ、逃げてるだけだぜ?」


『違う』。
そう言いたかった。
けれどきっと、図星だった。

傷ついて、失って、自分も被害者になって。
向き合うことから、逃げようとしただけだ。

弱くて、情けなくて、狡い自分。
嫌というほど、気づかされた。
ズキリと胸が痛み、剛士は唇を引き結ぶ。


反論してこない弟に対し、源希は苦笑する。
「お前ってホント、自分の傷を受け止めるの、下手くそだよな」

頼りない目で自分を見つめる剛士に、源希は笑って、首を傾げた。
「お前はなんで、1人で背負い込もうとすんの?」
「……だって、俺の責任だから」
「だとしても、1人で立ち向かう必要なくね?」
「誰かを巻き込みたくねえんだよ!」
思わず剛士は、声を荒げてしまう。

自分でも、声の大きさに驚いてしまい、慌てて剛士は息を飲み込む。
それから意識的に声を抑え、呟いた。
「……誰かに責任転嫁するのは、嫌だ」

取り乱す弟を意に介した様子もなく、源希は笑う。
「でもお前、1人で対応できてねぇじゃん」
「……ちゃんとする、絶対。もう家族にも迷惑かけない」
「できねぇって」
「できる!」

源希はまた、カラカラと大きな声で笑った。
「できねぇから、こんなことになってんだろ?」
自分を睨みつけてくる剛士の頭を、クシャクシャと撫で回す。

「……なに、すんだよ!」
剛士は怒りを露わに、乱暴に手を払いのけた。
「余裕ねぇなぁ、ゴーちゃん」
手負いの獣のように、激しく牙を剥く彼に、源希は言った。
「そんだけ、弱ってんだよな」

剛士は一瞬、言葉を失う。
しかし再び、鋭く兄を睨みつけると、硬く否定した。
「違う。適当なこと言ってんじゃねえよ」
源希は、弟の顔を覗き込むようにして、微笑んだ。

「認めろ。お前はいま、傷ついてんだよ。1人で立てないくらいにな」
兄の断定的な口調に、剛士は更に苛立つ。
「うるせえ。俺のことはどうでもいいだろ」
「あのなあ、ゴーちゃん」
兄が、言葉を噛み砕くようにして、ゆっくりと語りかけた。

「誰かを大事にしたいならさ。自分のことも大事にできなきゃ、駄目だぜ?」

源希は、弟の鞄に長い指を向ける。
「お前が寝てる間、何回もスマホがブルブル言ってた。電話もメッセも、大量に来てんじゃね?」


剛士の脳裏に、バスケ部のメンバー――ことに、副キャプテンの健斗の顔が浮かんだ。

それを皮切りに、次々と親友の拓真や彩奈、それから高木やエリカの顔が溢れ出す。
剛士は唇を引き結び、その衝撃に耐える。


「頼ればいいじゃん。お前には、心配してくれる人が、沢山いるんだから」
源希は、何でもないことだと言わんばかりに笑った。

「1人で戦うなんて、ちんけなプライド、さっさと捨てちまえ」
兄の長い腕が伸びてきて、グシャグシャと頭を撫でてきた。
振り払おうとした剛士の手を躱し、
源希は、ガシッと弟の首を押さえつけてしまう。
そして、剛士の耳元で囁いた。

「自分1人でどうにかしようなんて、烏滸がましいんだよ、ガキが。もっと人を使え。仲間を利用しろ」


彼の中で、話は終わったのだろう。
源希は満足げに、弟を解放した。
そうして、軽い足取りでドアへと向かう。

「7時には晩飯できるって、聡子さん言ってたぞ。スマホ見るのは後にして、さっさと出て来い」
ドアを開けながら兄が振り返り、悪戯っぽく自分の目元を指してみせた。
「――あ。来る前に、顔洗って来いよ」

剛士は、ハッと目を丸くする。
言葉の意図を弟が察したのを見届けると、源希は笑って、ヒラヒラと手を振った。


パタン、とドアが閉まり、剛士は静寂に取り残される。
剛士はのろのろと、兄が示した目元に触れた。
涙の後が残っていたのであろう、自分の目元を。
起きる直前に感じた兄の指先は、やはり本当に、涙を拭っていたということか――

恥ずかしさと、感謝の気持ちが、ない交ぜになる。
「……くそ。アイツ」

大嫌いな兄貴。
でもやはり、彼の方が1枚上手だ。
剛士はグシャグシャと頭を掻き、長い溜め息をついた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

救助隊との色恋はご自由に。

すずなり。
恋愛
22歳のほたるは幼稚園の先生。訳ありな雇用形態で仕事をしている。 ある日、買い物をしていたらエレベーターに閉じ込められてしまった。 助けに来たのはエレベーターの会社の人間ではなく・・・ 香川「消防署の香川です!大丈夫ですか!?」 ほたる(消防関係の人だ・・・!) 『消防署員』には苦い思い出がある。 できれば関わりたくなかったのに、どんどん仲良くなっていく私。 しまいには・・・ 「ほたるから手を引け・・!」 「あきらめない!」 「俺とヨリを戻してくれ・・!」 「・・・・好きだ。」 「俺のものになれよ。」 みんな私の病気のことを知ったら・・・どうなるんだろう。 『俺がいるから大丈夫』 そう言ってくれるのは誰? 私はもう・・・重荷になりたくない・・・! ※お話に出てくるものは全て、想像の世界です。現実のものとは何ら関係ありません。 ※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ただただ暇つぶしにでも読んでいただけたら嬉しく思います。 すずなり。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...