#秒恋7 それぞれの翌日――壊れた日常を取り戻すために

ReN

文字の大きさ
20 / 40
piece5 剛士――過去との和解

副キャプテン 健斗の言葉

しおりを挟む
学校を出た剛士は、高木とエリカとの集合場所へと向かう。
例の、バスケットゴールのある小さな公園だ。
歩きながら剛士は、先程の健斗とのやり取りを思い返していた――


***


「ごめんな、健斗。迷惑かけて」
「馬鹿、気にすんなって」

健斗は、部員の皆を体育館に向かわせると、下校する剛士を見送ってくれた。
剛士は靴を履き、健斗に頭を下げる。
「俺のせいで、こんなことになって。部員3人も辞めさせてしまって……本当に、ごめん」
改めて、謝罪の言葉を口にした。


その瞬間、健斗の空気が変わった。

「……あの3人に、お前1人分の価値なんかねぇよ」

「……え?」
呻くように呟かれた健斗の言葉に、剛士は、耳を疑う。
健斗は、ハッと我に返り、取り繕うための微笑を浮かべた。

「……いや。それはもう、気にすんなよ。終わったことなんだしさ。あいつらも、剛士は悪くないって、監督に言ってくれてたらしいしさ。お前が気にすることじゃないって」

矢継ぎ早に言葉を重ねる彼を、剛士は、じっと見つめる。
「健斗……」
「あ……じゃあ俺、もう体育館行くわ」
剛士から顔を背け、健斗は不自然に明るい声で、話を切り上げてしまう。

「あ、ああ……」
部活に戻ると言われてしまえば、剛士から引き留めることはできない。
剛士は、問いかけたかった言葉を飲み込み、頷いた。
「迷惑かけるけど、よろしくな」
「うん、じゃあまた明日!」

健斗は口早に答えて手を振ると、踵を返した。
剛士は、慌ただしく自分から離れていく彼の背中を、ただ見つめることしかできなかった――


***


『あの3人に、お前1人分の価値なんかねぇよ』

健斗の刺々しい声音が、耳から離れない。
剛士は、小さな溜め息を零した。

彼の意図がどうであれ、部の人間に優劣をつけるような言葉だ。
それがたとえ、退部する部員を指したものだとしても。
副部長という立場の健斗が、してはならない発言だった。


レギュラーであろうが、そうでなかろうが、先輩であろうが、後輩であろうが、部員は皆、平等である。

監督の信念のもと、バスケ部は、メンバーを等しく大切に活動することを心掛けている。
キャプテンと副キャプテンである剛士と健斗も、常に意識し、気を配っていることだ。

健斗がいつも、同級生にも後輩にも公平な態度で接していることを、剛士はよく知っている。
彼は本来、あんな言い方をする人間ではない筈だ……


自己嫌悪に苛まれ、剛士は小さな溜め息をつく。
彼にあんなことを言わせてしまったのは、自分の責任だと思った。

3年生になる直前の春休み。
この大事な時期に、自分がキャプテンの責務を離れる。
負担の多くは、副キャプテンであり、キャプテン代行に任命された健斗に行く。
何より彼は、剛士を部に残留させるために、昨日から駆けずり回ってくれていたのだ。
相当な心労を与えてしまっているだろう。

健斗のあの発言は、彼の苦しみから来てしまったものだと、剛士は思った。


健斗とも、ゆっくり時間を取って、話さないと。
本当なら今日、彼と話をしたかった。
そうするべきだった。

しかし自分は、これから高木とエリカに会い、少しでも悠里の現状を理解しなければならない。
傷ついた彼女を救う突破口を、何としても見つけ出さなければならない。
拓真とも話をして、力を貸して貰わなければ。


どうしても、今日は譲れなかった。


剛士から顔を逸らし、逃げるように体育館へと向かった健斗の背中を思う。

――ごめん、健斗。
今日を終えたら、必ず時間を作るから。
バスケ部のことも、しっかりがんばるから。
どうか、もう少しだけ、甘えさせて欲しい……


剛士は重苦しい身体に鞭を打ち、足早に歩を進めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

救助隊との色恋はご自由に。

すずなり。
恋愛
22歳のほたるは幼稚園の先生。訳ありな雇用形態で仕事をしている。 ある日、買い物をしていたらエレベーターに閉じ込められてしまった。 助けに来たのはエレベーターの会社の人間ではなく・・・ 香川「消防署の香川です!大丈夫ですか!?」 ほたる(消防関係の人だ・・・!) 『消防署員』には苦い思い出がある。 できれば関わりたくなかったのに、どんどん仲良くなっていく私。 しまいには・・・ 「ほたるから手を引け・・!」 「あきらめない!」 「俺とヨリを戻してくれ・・!」 「・・・・好きだ。」 「俺のものになれよ。」 みんな私の病気のことを知ったら・・・どうなるんだろう。 『俺がいるから大丈夫』 そう言ってくれるのは誰? 私はもう・・・重荷になりたくない・・・! ※お話に出てくるものは全て、想像の世界です。現実のものとは何ら関係ありません。 ※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ただただ暇つぶしにでも読んでいただけたら嬉しく思います。 すずなり。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...