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piece3 公開練習
勇誠バスケ部のメンバーとして、ここにいます
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悔しくて、悠人はギリギリと歯を食い縛る。
この女は、剛士が部員とケンカをしなければならなかった理由など、どうでもいいのだろう。
ただ剛士に話しかけて、弄るネタができたことが嬉しいだけだ。
反論してこない剛士を、面白半分にいたぶっているだけだ。
剛士の気持ちなど、考えようともしない――
女教師が、パッと目を輝かせた。
「そうだ! ウチの子たちを指導してくれなかったお詫びとして、今度ウチの学校に来てよ」
名案でしょ?と言わんばかりに、女教師は上目遣いに剛士を見つめる。
「今日、私のコト、無駄足にしちゃったんだから。それぐらい、やってくれるわよね? いつにする?」
「勇誠側がお邪魔することを依頼される場合は、ホームページから申し込みできます。バスケ部紹介ページに……」
「まだるっこしいこと言わないでよ」
剛士の言葉を遮り、女教師は笑った。
「柴崎くんが。個人的に。来てくれればいいだけよ」
「――それもう、セクハラだろ……」
思わず悠人は、心の声をそのまま、小声で呟いていた。
悠人の隣りに座っていた仲間も聞いていたらしく、ボソリと耳打ちしてくる。
「……おい、あのババァ、何なの?」
「ムカつくよね。さっきから、柴崎さんのことイビってさあ」
悠人と仲間は、顔をしかめた。
この状況にハラハラしていた2人の耳に、剛士の落ち着いた声が届いた。
「僕は、勇誠学園バスケ部のメンバーとして、ここにいます。個人的に動くことは、あり得ません」
剛士は笑顔を保ったまま、真っ直ぐに女教師を見据えていた。
剛士に反論されるとは思っていなかったのか。
女教師はたじろぎ、言葉を失う。
悠人たちは顔を見合わせ、深く頷いた。
「……かっけぇ」
横暴な教師に臆することなく、『自分は勇誠学園バスケ部の人間』だと。
毅然とした態度をとる剛士に、胸のすく思いがした。
見兼ねていたのは、近くに座っていた他の教師たちも同じだったらしい。
剛士が言い返したのを皮切りに、口々に彼を擁護する言葉をかけ始めた。
「キャプテン解任といっても、春休みの間だけでしょ?」
「柴崎くんのシュート練習を見たいなら、次の公開練習も来たらいいだけの話ですよ」
「あんまり柴崎くんを困らせないであげてよ」
一斉に他の教師たちの非難を浴びることになってしまった女教師は、顔を赤くして言い訳をする。
「い、いえ、私はただ、今日がムダになってしまったウチの生徒たちのことを思って……」
瞬間、剛士の切れ長の瞳が、強く輝いた。
「今日は、体験型のブースを作って、部員と一緒に練習しています。来てくれた皆さんに有意義な時間を過ごしていただけるよう、部員一丸となって取り組んでいます」
部員総出で対応している公開練習を、剛士がいないことで「ムダ」だと評された。
その侮辱は、許せなかったのだろう。
剛士の顔からは、笑みが消えていた。
剛士に同調し、他の教師たちも一様に頷く。
「うん。柴崎くんはもちろんのこと、部員みんな、よくやってくれているよ」
「勇誠の部員さんと合同練習できるなんて、本当にありがたいからね」
「うちの生徒も、毎回楽しみにしているから」
穏やかに剛士の援護をしてくれる教師陣のなか、1人の男性教師は、真っ直ぐに女性教師を見た。
「おたくの生徒さんを、よく見なさいよ。楽しそうに各ブースを回っていたし、今も熱心に試合を応援してるでしょ?」
女教師は、グッと口をつぐむ。
男性教師が、はっきりと叱責を口にした。
「自分の生徒をダシにして、柴崎くん、ひいては勇誠の部員を侮辱するのは辞めなさい。ましてや、いまは試合中です。ゲームに関する話以外は、謹んでいただきたい」
女教師は、顔を真っ赤にして男性教師を睨みつけた。
しかし周囲の冷たい視線に、いたたまれなくなったのだろう。
「――用事を思い出しました。失礼します」
早口で言い捨てると席を立ち、あたふたと去っていった。
***
「……すみませんでした。お騒がせしました」
剛士が男性教師、そして周囲に座っていた教師たちに頭を下げる。
男性教師は、首を振って微笑んだ。
「いやいや。我慢して対応してる君の気持ちを、尊重したかったんだけどね。さすがに黙っていられなかったよ。悪いね」
他の教師たちも、剛士に向かって口々に慰めと励ましの言葉をかけていた。
教師たちの笑顔に囲まれて、柔らかく微笑んだ剛士を確認し、悠人はホッと胸を撫で下ろす。
隣りの仲間が、感心したように呟いた。
「……やっぱ、勇誠のキャプテンって、大変だよなぁ」
悠人も同調し、頷いた。
「バスケのことだけじゃないもんな。他のガッコの先生と喋ったり、あのオバサンみたいな、変な人の相手までするんだもんな」
さんざんイヤミを言われても、丁寧に対応していた剛士。
けれど、勇誠の部員をバカにする発言には、毅然とした態度をとった剛士。
他の学校の先生たちも、剛士の味方になってくれた。
それは、バスケ部のために懸命に働く、彼の日頃の行いのおかげだと思う。
剛士が、キャプテンとして積み上げてきた人徳を、垣間見た気がした。
悠人は、彼に対して、ますます尊敬の念を抱いたのだった。
この女は、剛士が部員とケンカをしなければならなかった理由など、どうでもいいのだろう。
ただ剛士に話しかけて、弄るネタができたことが嬉しいだけだ。
反論してこない剛士を、面白半分にいたぶっているだけだ。
剛士の気持ちなど、考えようともしない――
女教師が、パッと目を輝かせた。
「そうだ! ウチの子たちを指導してくれなかったお詫びとして、今度ウチの学校に来てよ」
名案でしょ?と言わんばかりに、女教師は上目遣いに剛士を見つめる。
「今日、私のコト、無駄足にしちゃったんだから。それぐらい、やってくれるわよね? いつにする?」
「勇誠側がお邪魔することを依頼される場合は、ホームページから申し込みできます。バスケ部紹介ページに……」
「まだるっこしいこと言わないでよ」
剛士の言葉を遮り、女教師は笑った。
「柴崎くんが。個人的に。来てくれればいいだけよ」
「――それもう、セクハラだろ……」
思わず悠人は、心の声をそのまま、小声で呟いていた。
悠人の隣りに座っていた仲間も聞いていたらしく、ボソリと耳打ちしてくる。
「……おい、あのババァ、何なの?」
「ムカつくよね。さっきから、柴崎さんのことイビってさあ」
悠人と仲間は、顔をしかめた。
この状況にハラハラしていた2人の耳に、剛士の落ち着いた声が届いた。
「僕は、勇誠学園バスケ部のメンバーとして、ここにいます。個人的に動くことは、あり得ません」
剛士は笑顔を保ったまま、真っ直ぐに女教師を見据えていた。
剛士に反論されるとは思っていなかったのか。
女教師はたじろぎ、言葉を失う。
悠人たちは顔を見合わせ、深く頷いた。
「……かっけぇ」
横暴な教師に臆することなく、『自分は勇誠学園バスケ部の人間』だと。
毅然とした態度をとる剛士に、胸のすく思いがした。
見兼ねていたのは、近くに座っていた他の教師たちも同じだったらしい。
剛士が言い返したのを皮切りに、口々に彼を擁護する言葉をかけ始めた。
「キャプテン解任といっても、春休みの間だけでしょ?」
「柴崎くんのシュート練習を見たいなら、次の公開練習も来たらいいだけの話ですよ」
「あんまり柴崎くんを困らせないであげてよ」
一斉に他の教師たちの非難を浴びることになってしまった女教師は、顔を赤くして言い訳をする。
「い、いえ、私はただ、今日がムダになってしまったウチの生徒たちのことを思って……」
瞬間、剛士の切れ長の瞳が、強く輝いた。
「今日は、体験型のブースを作って、部員と一緒に練習しています。来てくれた皆さんに有意義な時間を過ごしていただけるよう、部員一丸となって取り組んでいます」
部員総出で対応している公開練習を、剛士がいないことで「ムダ」だと評された。
その侮辱は、許せなかったのだろう。
剛士の顔からは、笑みが消えていた。
剛士に同調し、他の教師たちも一様に頷く。
「うん。柴崎くんはもちろんのこと、部員みんな、よくやってくれているよ」
「勇誠の部員さんと合同練習できるなんて、本当にありがたいからね」
「うちの生徒も、毎回楽しみにしているから」
穏やかに剛士の援護をしてくれる教師陣のなか、1人の男性教師は、真っ直ぐに女性教師を見た。
「おたくの生徒さんを、よく見なさいよ。楽しそうに各ブースを回っていたし、今も熱心に試合を応援してるでしょ?」
女教師は、グッと口をつぐむ。
男性教師が、はっきりと叱責を口にした。
「自分の生徒をダシにして、柴崎くん、ひいては勇誠の部員を侮辱するのは辞めなさい。ましてや、いまは試合中です。ゲームに関する話以外は、謹んでいただきたい」
女教師は、顔を真っ赤にして男性教師を睨みつけた。
しかし周囲の冷たい視線に、いたたまれなくなったのだろう。
「――用事を思い出しました。失礼します」
早口で言い捨てると席を立ち、あたふたと去っていった。
***
「……すみませんでした。お騒がせしました」
剛士が男性教師、そして周囲に座っていた教師たちに頭を下げる。
男性教師は、首を振って微笑んだ。
「いやいや。我慢して対応してる君の気持ちを、尊重したかったんだけどね。さすがに黙っていられなかったよ。悪いね」
他の教師たちも、剛士に向かって口々に慰めと励ましの言葉をかけていた。
教師たちの笑顔に囲まれて、柔らかく微笑んだ剛士を確認し、悠人はホッと胸を撫で下ろす。
隣りの仲間が、感心したように呟いた。
「……やっぱ、勇誠のキャプテンって、大変だよなぁ」
悠人も同調し、頷いた。
「バスケのことだけじゃないもんな。他のガッコの先生と喋ったり、あのオバサンみたいな、変な人の相手までするんだもんな」
さんざんイヤミを言われても、丁寧に対応していた剛士。
けれど、勇誠の部員をバカにする発言には、毅然とした態度をとった剛士。
他の学校の先生たちも、剛士の味方になってくれた。
それは、バスケ部のために懸命に働く、彼の日頃の行いのおかげだと思う。
剛士が、キャプテンとして積み上げてきた人徳を、垣間見た気がした。
悠人は、彼に対して、ますます尊敬の念を抱いたのだった。
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