#秒恋8 隔てられる2人〜友情か、恋か。仲間か、恋か〜

ReN

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piece9 何にもうまくできないの

母の帰宅

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「悠里!」
「姉ちゃん!」

「……え?」
帰宅するなり、血相を変えた弟と母がリビングから走ってきて、悠里は固まってしまう。


「姉ちゃん! どこ行ってたの!」
ぎゅっと眉を吊り上げた悠人が、まだ靴も脱いでいない悠里に詰め寄ってくる。
「スマホも、また電源切ってるし! 何やってんの。心配するでしょ!」

弟の勢いに気負され、悠里は思わず玄関で後ずさる。
「あ……あの……」
頭が、真っ白になって、うまく言葉も紡ぎ出せなかった。


「まあまあ、悠人。まずは、リビングに戻りましょう」
見兼ねた母が、助け舟を出してくれる。
悠人、続いて悠里が振り向くと、母は、にっこりと柔らかな微笑を浮かべた。

「お帰り、悠里」
「た、ただいま。……というか、お母さんこそ、お帰りなさい」


悠里は必死に、頭を働かせる。
今日は、木曜日。母は父と一緒に、金曜日まで出張の筈なのに。

悠里の疑問を読んだかのように、母は笑みを深める。
「仕事が、順調に片付いたからね。お母さんだけ、ひと足先に帰ることにしたの」
「母さんから、昼頃メッセージあったじゃん。まさか、それも見てないの?」
「ご、ごめん……見落としてた、みたい……」

そうだ。仕事の進捗状況によっては、母が先に帰って来ることは珍しくない。
これまでも、何度もあったことではないか。
今回の出張でも、その可能性があると想像していなかったのは、迂闊だった。

弟の鋭い視線が痛くて、悠里はまた、その場で俯いてしまう。


「まあまあ、悠人」
笑いながら、母はまた、子どもたちを促した。
「話の続きは、リビングに戻ってからね。悠里も疲れてるでしょうし」

その柔らかな声に誘われ、ようやく2人は玄関から離れた。


***


リビングの壁掛け時計の時刻は、20時を過ぎたところだった。
普通ならば、帰宅が遅すぎると言われるほどの時間ではない。

しかし悠人にしてみれば、一大事だ。
部活を終え、家にいる筈の姉がいない。
時間は19時半過ぎ。連絡してみても返事がない。
電話を掛けると、なんと電源すら入っていない。

そういえば、昼過ぎに送った『今日はみんなで軽く晩めし食って来る』というメッセージにも、返信が無かった。

姉が今日一日、何をしていたのか。
自分は全く把握できていないことに気づく。
悠人が、慌てふためいていたところで、ちょうど母が帰ってきた。

心配の気持ちが高じていた悠人は、数日前に悠里が熱を出したこと、ずっと元気が無く、様子がおかしいことなど、洗いざらい母に話した、というわけだ。


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