調整師の幸運術~すべてを奪われた令嬢は運を操る

兎緑夕季

文字の大きさ
4 / 88
第一章

聖装飾物と運鬼…①

しおりを挟む
「仲がいいんだね」

老紳士が上等な杖を片手に優しく微笑んでいた。
以前、見かけたよりも痩せており、顔色も悪い。
そろそろ、時が近づいているのかもしれない。

「悪いね。屋敷まで来てもらって…」
「構いません。長くご贔屓にしていただいているストーク様のためです」
「そう言ってもらえると助かるよ。おや、そちらのレディは?」
「シア・シエリーと申します。ヴァノン様の弟子でございます」

シアはとても美しい所作でお辞儀をした。

「これはサプライズだね。ヴァノン君が弟子をとるとは」
「成り行きでそうなったまでです。それよりお体は?よろしければ、施術を…」
「今日はそっちはいい。君を呼んだのはコレクションを引き受けて欲しいからだ」
「私にすべて?」
「当然だよ。専門家の君なら適切に処理してくれるだろう?」

せき込み、ふらつくストーク氏をシアはとっさに支える。

「大丈夫ですか?」
「すまないね。使用人は皆、暇を出してしまって。良ければ、部屋までこのまま運んでくれないか?」
「もちろん構いません」
「ヴァノン君にはこれを…。宝物庫は屋敷の奥だ。君ならすぐ見付けられるだろう」

ヴァノンはストーク氏から鍵を受け取り、奥へと足を進めていく。
なんて、冷たい空気が流れている屋敷なんだろう。
“彼ら”の姿を見なくても漂う運の停滞感を肌で感じる。


「ここでよろしいですか?」

ストーク氏を椅子に座らせる。

「ああ、ありがとう。レディ」

穏やかで上品な物腰にシアの心が少しだけときめいた。とはいえ、年配の方が恋愛対象になった事はない。ゆえに、この方の若い頃に合っていたら確実に心を奪われていたと想像できる。そんな、印象をストーク氏には感じた。

別に惚れっぽい方ではなかったと思うんだけど。
でも、なぜだかホッとさせられる。
ずっと、気を張っていたからかしら。

上等な品物に取り囲まれた部屋…おそらく寝室には良い運が流れている。この空間だけでもかなりの数の聖装飾物が並んでいる。ここにあるだけで数十点に上ると思われる。
だとすると宝物庫となっている部屋にはどれだけの数のコレクションが収められているのかしら。

シアの視界には部屋中を行きかう光がかすめていく。
それは手のひらサイズの小動物。それらはせわしなく空や壁を走り回っていた。
優しい光をまとう目を持つネズミのような、猫のような青い生き物。


「レディにも視えるんだね。彼らが…ああ、すまない。貴女も調整師だったね」
「まだ見習いですから、お気になさらずに…。それにしても、とても元気な幸運鬼たちですね。ストーク様のコレクションにくっついている子達ですか?」
「そうだよ。彼らとは長い付き合いだ。しかし、終わりが近づいている。それも分かるだろう?」
「ええ…」

ストーク氏の体にまとわりつく黒い靄。重苦しい匂いを漂わせたそれも小動物だ。だが、その瞳はどんよりとしたグレーの輪郭の中に赤色が混じっている。逆立つ毛。鋭く尖った爪を立てていた。
それが幸せをもたらす幸運鬼と対となる不運鬼だと一目で確認できる。

「心配せんでいい。わしにも視えている。お迎えにはいい時期だろう」

笑うストーク氏の頭上にシアは視線をずらせる。そこにはヒビが入った透明の小さな運釜うんがまが宙に浮かんでいる。人が生まれた時から持っている運をおさめる器だ。通常の人には視えないがシアの目にはハッキリと映っている。

ストーク氏の運釜はすでに空だ。増える事はないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

メイドは見た。

しゃもん
ファンタジー
恐怖の漂白魔法をあみだした転送おばさんメイドが繰り広げる愉快な話です。

処理中です...