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第一章
終焉と覚醒…②
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「エル!エル!」
意識が薄れる中で自分を呼ぶ声が聞こえた。
それは見知った声。
ストレイト小侯爵が血相を変えて飛び込んできた。
「エル!ああ、ヒドイ。すぐに出してあげるよ」
彼の力では到底無理だ。ひ弱で運動神経が皆無なのは知っている。
昔から怪我ばかりする人だった。
パーティーで何度か顔を合わせても、いつも何かしら失敗していた。
お茶をこぼしたり、展示品を落としたりと言った程度の事だけれど、それでも笑っていた彼が好きだった。向こうはルシアの方が好きだったんだろうけれど…。
私にまた彼のファーストネームを呼ぶ勇気があれば、少しは関係性も違ったのかしら?
ずっと爵位の違いを気にして、距離を取り続けていたから。
違う。ルシアと一緒にいる彼を見るのが耐えられなかったから。
だから、自分から離れたのだ。
でも、今は彼に頼むしかない。
「お願いがあります」
「なんだい?」
「ラルフをリッチー伯爵様の所へ連れて行って。おば様の所に…」
「ああ、連れていくよ。君を助けてから」
「それじゃあ、遅いの。今すぐよ。お願い。一生に一度のお願いですから。幼馴染の…いえ、ルシアの姉の願いだと思って!」
「分かった。だが、すぐに戻ってくるから」
「ありがとうございます」
意識を失っているラルフを抱えて、彼は出て行った。これでいい。壁近くに花束が転がっていた。おそらく、リッチー小侯爵がルシアのために持ってきた物かもしれない。
ルシアに愛を囁いていた男達は誰も来ていないのに、彼は来てくれたのね。
皇宮を穢した令嬢という汚名を着せられた妹のために…。
穢した?違う!
ルシアはその身を傷つけられたのよ。
それなのに悪女みたいな扱いをされるなんて…。
お母様もお父様もラルフもこんな目にあわされる必要なんてなかったはず。
それもこれも先祖が犯したというクーデターのせいなの?
けれど、私達には関係ないじゃない!
アイツらに何もせずにこのまま死ぬの?
復讐もできないまま?
ルシアの命を奪った奴もお母様達にこんな扱いをした奴らも…。
みんな笑っているのに!
運が悪かったで済ませたない!
子どもにまで邪心を抱く奴らなのよ!
許せない!
このまま死にたくない!
誰でもいいから助けて!
心から願った。神でも悪魔でもなんでもよかった。
けれど、そんな願い叶えてくれる者がいないとも分かっている。
だって、もう時間が迫っていたから。意識がもう持たない。
その場ですべてを手放した。
そのはずだったのに…。
なぜだか、体が浮上する感覚に包まれる。
焦げ臭い匂いが鼻を通り抜けて、思いっきりせき込んだ。
無意識に体を起こすと、そこは焼野原の中だった。
周辺には屋敷だったはずのレンガや焼けた木片が転がっている。
自身の手の中にはなぜだか、嘆きの乙女の愛骨という名の家宝が握られていた。
調整師には価値がないとされたそれがどうしてここに?
しかし、どうでもよかった。その美しい装飾品は私が認識した途端に灰に変わり、消えていったから。
そして、今、頭を駆け巡るのはこの状況を作り出した招かれざる客達への怒りだけだからだ。
まるで、何かに駆り立てられるように体が動く。
獲物を追いかけるように…。
痛みも何も感じなかった。
意識が薄れる中で自分を呼ぶ声が聞こえた。
それは見知った声。
ストレイト小侯爵が血相を変えて飛び込んできた。
「エル!ああ、ヒドイ。すぐに出してあげるよ」
彼の力では到底無理だ。ひ弱で運動神経が皆無なのは知っている。
昔から怪我ばかりする人だった。
パーティーで何度か顔を合わせても、いつも何かしら失敗していた。
お茶をこぼしたり、展示品を落としたりと言った程度の事だけれど、それでも笑っていた彼が好きだった。向こうはルシアの方が好きだったんだろうけれど…。
私にまた彼のファーストネームを呼ぶ勇気があれば、少しは関係性も違ったのかしら?
ずっと爵位の違いを気にして、距離を取り続けていたから。
違う。ルシアと一緒にいる彼を見るのが耐えられなかったから。
だから、自分から離れたのだ。
でも、今は彼に頼むしかない。
「お願いがあります」
「なんだい?」
「ラルフをリッチー伯爵様の所へ連れて行って。おば様の所に…」
「ああ、連れていくよ。君を助けてから」
「それじゃあ、遅いの。今すぐよ。お願い。一生に一度のお願いですから。幼馴染の…いえ、ルシアの姉の願いだと思って!」
「分かった。だが、すぐに戻ってくるから」
「ありがとうございます」
意識を失っているラルフを抱えて、彼は出て行った。これでいい。壁近くに花束が転がっていた。おそらく、リッチー小侯爵がルシアのために持ってきた物かもしれない。
ルシアに愛を囁いていた男達は誰も来ていないのに、彼は来てくれたのね。
皇宮を穢した令嬢という汚名を着せられた妹のために…。
穢した?違う!
ルシアはその身を傷つけられたのよ。
それなのに悪女みたいな扱いをされるなんて…。
お母様もお父様もラルフもこんな目にあわされる必要なんてなかったはず。
それもこれも先祖が犯したというクーデターのせいなの?
けれど、私達には関係ないじゃない!
アイツらに何もせずにこのまま死ぬの?
復讐もできないまま?
ルシアの命を奪った奴もお母様達にこんな扱いをした奴らも…。
みんな笑っているのに!
運が悪かったで済ませたない!
子どもにまで邪心を抱く奴らなのよ!
許せない!
このまま死にたくない!
誰でもいいから助けて!
心から願った。神でも悪魔でもなんでもよかった。
けれど、そんな願い叶えてくれる者がいないとも分かっている。
だって、もう時間が迫っていたから。意識がもう持たない。
その場ですべてを手放した。
そのはずだったのに…。
なぜだか、体が浮上する感覚に包まれる。
焦げ臭い匂いが鼻を通り抜けて、思いっきりせき込んだ。
無意識に体を起こすと、そこは焼野原の中だった。
周辺には屋敷だったはずのレンガや焼けた木片が転がっている。
自身の手の中にはなぜだか、嘆きの乙女の愛骨という名の家宝が握られていた。
調整師には価値がないとされたそれがどうしてここに?
しかし、どうでもよかった。その美しい装飾品は私が認識した途端に灰に変わり、消えていったから。
そして、今、頭を駆け巡るのはこの状況を作り出した招かれざる客達への怒りだけだからだ。
まるで、何かに駆り立てられるように体が動く。
獲物を追いかけるように…。
痛みも何も感じなかった。
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