調整師の幸運術~すべてを奪われた令嬢は運を操る

兎緑夕季

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第二章

ロベスティエ・キアンの闇…①

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「ねえ、ベスティ…」

ああ、こうやって優しく頭を撫でられる瞬間が好きだ。

「なんだい。ママ…」

ローズと過ごす時はいつもそう呼ぶし、彼女には母親のように接してもらうようにお願いしている。

「今日はお疲れなの?顔色が悪いわ。ちゃんと寝てるの?」
「分かってくれる?そうなんだよ。聞いてくれよ。ママ」
「なあに?」
「皇子様は何もなさらない方なんだ。執務のすべてを全部僕任せにするんだ」
「あら、いいじゃない。それって、指図されないって事でしょう?自由にできるのよね」
「そういう考え方があったから。さすがママ、元気がでたよ」
「よかったわ。ベスティは優しいからすぐに悩んでしまうのね」

普通の母親が子供をあやすように背中をさすられる。

ああ、幸せだ。
ローズはまさに僕が理想とする母親そのものだ。
実の母親から与えられなかった愛がここにはある。
始めて、この場所に来た時はむしろ毛嫌いしていた。
社交クラブなんて大層な名前がついていたとしても、娼館に変わりはない。
女や男達が媚びを売り、客にその身を売る場所。しかし、

「男なら女の一人や二人、相手に出来ずしてどうする」

キアン侯爵の本家の当主にそう言われてしまえば、分家の自分は断れなかった。
そんな僕が目を奪われたのがこのローズだ。

「もっと、若い娘もいるのに、それを選ぶのか?」

当主はそう言ったが、彼女がよかった。
記憶の母と同じ歳ごろのローズ。
だが、性格は真逆だ。
母はキアン家よりも名門の家柄の令嬢で、気位が高かった。
だから、キアン家の本家ではなく、分家筋に嫁がされたのが不満だったのだ。
今でも頭の中に住む母は当時と同じように当たり散らしている。
父はそんな母を毛嫌いし、ほとんど愛人の屋敷に入り浸っていた。
元々、愛のない政略結婚。よくある話だ。
さらに、たちが悪いのは母は女でもあったという点だ。

どこから連れてきたかもわからない男達と夜を共にし、僕の事は全部使用人任せだった。

それでも、ずっと思っていた。

僕を見て欲しい。愛してほしい。
しかし、それはかなわない。
生まれて10歳も満たない頃に母はあっけなくこの世を去ったから。
この心にある願いはけして叶う事はなくなった。
だから、女が嫌いだ。

「お許しください。ロベス様…」

しかし、メイドたちを痛めつけても傷はふさがらない。
哀れみの視線にイライラは募るだけだ。
そして、悲しい事に恋愛対象が男というわけでもない。
何もかもが不満だ。
このもどかしい感情を埋めてくれる何かを求めていた。
くすぶる思いに蓋をするように勉強にいそしんだ。
それが功をそうしたのか皇族の側近に抜擢されたのは素直に嬉しかったが…。

たとえ、主が無能であっても…。

とはいえ、ずっと根付く鬱蒼としたものが晴れる事はなかった。
それを解消してくれたのがローズだ。
始めて二人きりになった彼女はすべてを察したようにこの心に入り込んできた。
事に及ぶでもなく、ただ寄り添い、僕の言葉に耳を傾けてくれる。

生まれて初めての安らぎを得たのだ。
だから、ローズを手放せない。
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