極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ

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Lesson 18 デート決定

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 葵に『お仕置き』という名の『拷問』をされてから、一週間が経っていた。

 その間のテストと言えば、もう本当に散々な結果だった。

 いや、一応は頑張ったのだけれど。

 あのキスはあまりにも衝撃が強すぎて。

 寝ても覚めても、あのときの葵の顔とその感触が浮かんでしまい、どうしようもなく動揺し、全てに集中できなかった。

 平均点以下こそないけれど、いつもよりもずっと低い点数で、自分自身戻ってきた答案用紙を見て頭を抱え込んだ。

 こんなもの、見せられやしない。

 なんと言われるのかも予想がつくだけに、家に帰りたくない日々が続いている。


「……しも! なぁ、大霜!」


 名前を呼ばれていたことに気付き、顔を上げる。

 そこにいたのは、純粋そのものなキレイな笑顔を浮かべた松永だった。

 キラキラオーラが目に痛く、目を逸らしたくなるほどまばゆい松永を見た途端にため息が出た。

 そんな私に松永は不満げにぷっと頬を膨らませて見せる。

 こういうリアクションも、他の女子から見れば『カワイイ一面』なのかもしれない。

 けれど、鬼のようなどこかの誰かと比べたら、恐ろしいほど幼く見えて、少し物足りなささえも覚えてしまう。

 松永が悪いわけでも、嫌いなわけでもない。

 とにかく、あんな男の傍にいるという環境が悪すぎるのだ。

 私はもう一度小さくため息をつくと「なに?」と松永に聞いた。

「なぁ、テストどうだった?」

 ――このタイミングでそれを聞きますか?

 松永を睨みつける。
 けれど、松永は余計に嬉しそうに笑って見せた。

「これ、俺の成績」

 松永が細長い紙を私に差し出した。
 各教科の点数と合計点、それから学年順位が載っている紙だ。
 私はそれを受け取ると、自分の成績の載った同じ紙を取り出す。
 見比べて愕然とする。

「ウソ……」

 思わず口を押さえ、松永を見ると、彼は胸を張って見せた。

「なぁ、俺、がんばったろう?」

 全教科で私は松永に負けていた。
 松永が頑張ったのもあるんだろうけれど、それ以上に私の成績がいつもとはかけ離れ過ぎていたというのもある。

「デート決定だな」
「う……」

 立てた親指を突き出して、松永はこれ以上はできないだろうと思えるほどにまばゆい笑顔を、その顔いっぱいにのせてみせた。

 反論もなにもできない。
 私たちのやり取りを遠巻きに見ているクラスメートたちの目が痛過ぎて、どうにかしてほしくてたまらないのに……好奇の目は減るどころか増えていっている。

 心の中で小さくため息をつく。
 あんな約束をするんじゃなかった。
 でも、あれはもう松永の策略にまんまとはまった結果なのだ。

 どうにかしたいけれど、どうにもならない。

 ――なんでこうなっちゃうのかな?

 周りの人間に揺さぶられるだけ揺さぶられ、抵抗もできず、波の上の船のように道を進む。
 舵をきるのがあの意地悪カテキョか、それとも目の前の爽やか王子かの違いだけ。

「……了解」

 それ以上も、それ以下も言えないまま、私は机の上に突っ伏した。

 顔をほんのちょっとだけ横に向ける。
 上機嫌な松永が鼻歌交じりに自分の席へと戻って行く。
 勿論、その席の周りは一気に男子達で埋め尽くされる。

 いったい……あの男子連中たちと松永は何を話し合っているんだろう?
 そんな私の頭をコツンと叩く手に、私はゆっくりと顔を持ちあげた。

「悲惨な顔してるねえ、陽菜子」

 私の顔を見た瞬間に、千波はそう言った。
『悲惨な顔』ってどんな顔だろうと考え、恐ろしいほどひどい顔が浮かんでまた突っ伏した。

「松永は本気よお、どうするの?」
「わかってる」

 千波の言う通り松永は本気なんだと思う。

 それは分かる。
 分かっているつもり。

「あんたは違うでしょ?」

 千波にそう言われてもはっきり答えられない私がいる。
『YES』も『NO』もどっちも言えない。

「わかんない」

 それなのに、浮かぶのは葵の顔ばかり。
 葵のことこそ、どっちとも言えないはずなのに。

「んじゃ、デートすべきねぇ」
「……だね」

 顔を持ちあげ、千波を見る。
 千波はそんな私の頭を優しく撫でて「いろいろ見えるわよ」と言った。

「悩めばいいのよ、若いんだから」
「同じ年でしょ、千波?」
「悩みが多くて羨ましいくらいよ」
「だから……同じ年でしょ?」

 千波はふふふと笑うと「恋する女はキレイになるから」と私の質問に答えることなく、マイペースに言った。

「カテキョも松永もほっとけなくなるくらいに、陽菜子は今『キレイ』になってるんだと思うわよ? だからゆっくり決めればいいのよ。焦る必要なんてない。なんなら、両方と付き合う手だってあるんだからさ」

 アドバイスなんだか、焚きつけているのか分からないような千波の言葉に、私は思わず苦笑した。

「笑ってなさい。陽菜子は笑った顔が一番よ。ため息ばっかりじゃ人生つまらないわよ」

 同じ年なのに、そんなふうに妙に大人びたことを言う千波が本当に大好きだと思った。

「うん」

 こうやって、どこかで私をほっとさせてくれるから、沈んだままでいなくて済むのだなと思う。

 約束は約束。
 とりあえず、楽しんでみればいいと――そう思いながら、私はグッと伸びをした。

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