21 / 46
第二十一話 予想の上のそのまた上へ
しおりを挟む
リベンジ。
それは復讐ということ。
だけどリベンジを誰になにをするものなのかということがいっさい明らかにされないまま、とあるシティホテルにやってきた私。
高い建物を見上げる。
龍空はなにも言わずにただ黙ってホテルへと入っていく。
そう、ホテルなんだ。
――なにすんのよ、こんなところで!
安いか安くないかの違いこそあれ、ここは正真正銘のホテルなわけで。
ランチの時間はとっくに過ぎてしまっている。
本来ならば会社に戻らねばならない時間だ。
高嶺からLIMEメッセージがばんばん届いている。
そのことを理由にしてここで帰ることはできないわけじゃない。
回れ右して、舌出して、あんたの思惑にゃ乗りませんよって言ってしまうことだって簡単にできるはずなのに、こんなところまでのこのこついて来ちゃうあたり、私も相当この男に毒されているという他ない。
だって龍空は人の好奇心というのか、『知りたい』気持ちをかきたてるような言い方なんだもの。
――だけどさ。
ホテルだぞ、愛希。
ホテルなんだぞ。
ここまでついて来たということはそうなることを承知してついてきているって思われているに違いないんだ。
元々『セックスしてみる?』の一言から始まっているわけだし。
そういう特別な関係になるためにこうして詰め寄ってきているわけだし。
その一歩手前まで的なこともすでにしてしまっているわけなんだし。
それ以上があってももはやおかしくない。
いや、むしろ絶対それしかない状況にまで到達していると言っていい。
それでも行くのか。
行くなら覚悟を決めろ、愛希!
別に処女ってわけじゃない。
少ないかもしれないが男性経験はある。
勿体つけるようなものも持っていない。
会ってから何回目かなんて、ぜんぜん数えていない。
いつも突然現れて、なんだかんだと一緒にいて、時間に換算すればそんなに長い時間を過ごしているわけじゃないかもしれない。
それでも特別なことを一緒にやり遂げた感覚はある。
特別な関係になってみて、あの男が言うほど大した男じゃなかったらそのときはそのときで笑ってやればいいだけの話で終わる。
――そうよ、愛希。笑ってやればいいのよ!
きつく唇を結ぶ。
大きく胸を反って一呼吸置いた後でシティホテルの扉をくぐる。
龍空はすでにエレベーターの前にいて、おいでおいでと満面の笑顔でこちらに手を振っていた。
慌てる様子を見せずにエレベーター前の龍空の隣に並び立って、降りてくるエレベーターを待つ。
でもやっぱり気になって龍空の手元をちらりと見る。
鍵は持っていなさそう。
「緊張してる?」
そう切り出したのは龍空だった。
やってきたエレベーターには私達二人以外乗る人がいなかったため、乗り込むとすぐに龍空は高層階のボタンを押した。
扉が閉まるとすぐに堪えきれなかったかのように「警戒しまくりじゃん」と噴き出した。
「あんたがなにも言わないからでしょうが!」
「えー? だってリベンジしようって言ったじゃん」
「リベンジしようってどういう意味なのかを説明してないでしょうが! こんなところに連れてきて、目的はどうせこの間の続きでしょ? わかってるわよ、そんなこと。で、自分ってすごいだろってアピッて落とすつもりでいるんでしょ? あんたみたいな男の考えそうなことくらい、こっちはちゃんとお見通しなんだから」
思いっきり言葉を投げつける。
しかし龍空は「それもいいね」と私の言葉攻撃を笑い飛ばした。
「それもいい? なに言ってんの、あんた?」
さきほど全速力で走ったせいで脳みそが頭蓋骨にぶつかって小さくなったのか。
じっと見つめる先で龍空はまたカラカラと声を転がして笑うと「それはまだ取っておきたいな」と答えたのだった。
「自信がないってわけね?」
「そうじゃなくて、順番が違うってこと」
順番が違う?
セックスしようと誘っておいて、今さらなにが違うっていうのよ、この男?
「まずはクリアしないとね」
と、龍空は上っていくエレベーターの階数を知らせる扉上のランプを見上げて答えた。
「クリアしないとって……ゲームでもやってるつもりなのね、あんた」
「それは誤解だよ。だってさ。愛希にはリベンジしたい相手がいるでしょ? まずはそれをクリアしないとさあ。心が透明にならなそうだなと思ったわけ。すっごい嫌な男がいなかった? あ、オレってのはなしね。オレにリベンジするのは愛希と心と体をちゃんと繋げてからにしてね」
パチンと左目をつむってウィンクを投げてくる龍空はシシシ……と白い歯を見せて笑った。
――すっごい嫌な男……
確かにいる。
なにかにつけてフィードバックする嫌な記憶は必ずその男だったから。
「ほら図星」
「いなかったら嫌いになってないわよ」
セックスを――という言葉はあえて濁す。
口にしたくないことだ。
過去の男とのことがかなり尾を引いていて、別れた後もセックスに対する嫌悪感を募らせているんだから。
「だよねえ。だから、その男をさ。ギャフンとやりこめたいわけよ、オレとしては」
「なんで?」
「過去だとしても、愛希を傷つけた男は誰だろうと許せないから」
「え?」
こちらを見ることなくさらりとそう龍空が言い切ったとき、押したボタンの階にタイミング良くエレベーターがとまった。
高いベル音が鳴って、幾何学模様の施された鋼鉄扉が静かに開いた。
「ほい、到着~」
『さあ、どうぞ』と『開く』ボタンを押した龍空が降りるように手を横に振って促した。
「あ……あ……うん」
小さくうなずいて素直に降りてしまう。
これもコイツの策略なのか。
私が降りるのを見計らってエレベーターから降りた龍空の手が優しく背中に添えられた。
龍空の体温が服を伝わって心臓に届く。
同時に思い出したのはさっきの言葉だった。
『過去だとしても、愛希を傷つけた男は誰だろうと許せないから』
聞いた瞬間、跳ね上がるように鼓動した胸は今は落ち着いている。
なぜ、あんなきざったらしい言葉を惜しげもなくさらりと言いきるんだろう、この男は。
――ホストホストホストホスト、そうホストだから!
口がうまいのはホストだからだ。
だってそうじゃなきゃたくさんのお客さんを獲得できるわけがない。
――お店に来た女の子たちにもこういうことを言うのかな。
前に美波が言っていた。
『破れた心を癒す男』としてこの男は有名なのだと。
こんな言葉を言われたら、たとえそれがうわべだけの言葉だとしてもみんなホロっとなるに違いない。
そして莫大なお金を落とすんだろうな、この男に会うために。
この男にもう一度優しい言葉を言ってもらうがために――
廊下をひた歩いた一番奥の部屋の扉を、龍空はコンコンコンッと小さくノックをした。
なぜノック?
鍵はどうした?
しばらくの沈黙の後、ガチャリと鍵が外れる音が小さく響いた。
隙間から自分たちより少し上、30代前半くらいの黒いショートカットの可愛らしい女性が顔を覗かせた。
彼女は私と龍空を確認するとすぐに中に入るように急がせた。
押し込まれるように部屋の中へ転がり入る。
「まったく、おっそいじゃないの!」
下着が透けて見えそうなほど真っ白なブラウスはしっかりとアイロンかけされていて、しわひとつない。
黒のタイトスカートと同じ色の高いピンヒールを履いたお姉さま系女子が、不満そうな顔をこちらに向けながら奥の部屋へと案内してくれた。
「本当にあんたって時間守んない男よね、リク! 私もカメラマンも待ちくたびれたわよ!」
「ああ、すんません。愛希、なかなか見つからなくって」
「まあ、美味しい話だからいいけどさ。でもいいのぉ? ちゃんと彼女に主旨説明してくれてるんでしょうねえ? あと彼女の上司にきちんと許しをもらってきてるでしょうねえ?」
「いやあ。それがその暇ないまま連れてきちゃったから……」
龍空が答えた瞬間、加奈子と呼ばれた女性の足がとまって私のほうを振り返る。
この美人は何者?
仕事できそうな匂いがプンプンするけど、高級な香水つけてるからかな?
って、それよりもカメラマンってなに?
美味しい話って?
いいの?とか主旨とか上司の許しってなんなの?
もしかして今からホテルでAV撮影!?
私をじっと観察していた加奈子さんはピッとこちらを指さすと「本物?」と龍空に尋ねた。
「ええ、正真正銘本物です。あ、それとメイクさんももうすぐ来ると思うので、それまではとりあえずインタビューからってことでいいですかね?」
「それは構わないけど。衣装はあなたが言ったように揃えたわよ。それもメイクさん来てからってことよね。すぐに編集回さないと間に合わなくなるから、いいわ、仕方ない」
本物、メイクさん、衣装、インタビュー、編集?
鳩が豆鉄砲を食らったとき――とはこういうシチュエーションのことを指しているに違いない。
加奈子は目が点になっている私に一歩近づくと、スカートのポケットからショッキングピンク色の名刺入れを取り出した。
一枚抜き出して私に差し出す。
差し出された名刺を「頂戴いたします」と丁寧に受け取りながら目を走らせる。
――なんてこと!
名刺に並ぶ文字を見て、もう一度加奈子と龍空を見る。
龍空はピカピカ光る白い歯を見せて笑い、加奈子に目くばせをした。
彼女はひとつ深い息を吐くと背筋を伸ばしてこう告げた。
「女性ファッション雑誌Luna編集長の名倉加奈子です。今日は今噂の星野龍空のCM美女独占インタビューということで、この場をセッティングさせていただきました。どうぞよろしくね、藤崎愛希さん」
「は……ははは……はぃ……?」
おそらくこの日本の20代以上の女性で知らない人はいないだろう老舗人気ファッション雑誌『Luna』の編集長様は、そう言って龍空と私が宣伝している話題の口紅を塗りなおして見せながらそう言ったのだ。
私の人生がまた一つ予想をはるかに上回る速度と方向で動いていた。
どこまでもどこまでも予想の上のそのまた上を――
-
それは復讐ということ。
だけどリベンジを誰になにをするものなのかということがいっさい明らかにされないまま、とあるシティホテルにやってきた私。
高い建物を見上げる。
龍空はなにも言わずにただ黙ってホテルへと入っていく。
そう、ホテルなんだ。
――なにすんのよ、こんなところで!
安いか安くないかの違いこそあれ、ここは正真正銘のホテルなわけで。
ランチの時間はとっくに過ぎてしまっている。
本来ならば会社に戻らねばならない時間だ。
高嶺からLIMEメッセージがばんばん届いている。
そのことを理由にしてここで帰ることはできないわけじゃない。
回れ右して、舌出して、あんたの思惑にゃ乗りませんよって言ってしまうことだって簡単にできるはずなのに、こんなところまでのこのこついて来ちゃうあたり、私も相当この男に毒されているという他ない。
だって龍空は人の好奇心というのか、『知りたい』気持ちをかきたてるような言い方なんだもの。
――だけどさ。
ホテルだぞ、愛希。
ホテルなんだぞ。
ここまでついて来たということはそうなることを承知してついてきているって思われているに違いないんだ。
元々『セックスしてみる?』の一言から始まっているわけだし。
そういう特別な関係になるためにこうして詰め寄ってきているわけだし。
その一歩手前まで的なこともすでにしてしまっているわけなんだし。
それ以上があってももはやおかしくない。
いや、むしろ絶対それしかない状況にまで到達していると言っていい。
それでも行くのか。
行くなら覚悟を決めろ、愛希!
別に処女ってわけじゃない。
少ないかもしれないが男性経験はある。
勿体つけるようなものも持っていない。
会ってから何回目かなんて、ぜんぜん数えていない。
いつも突然現れて、なんだかんだと一緒にいて、時間に換算すればそんなに長い時間を過ごしているわけじゃないかもしれない。
それでも特別なことを一緒にやり遂げた感覚はある。
特別な関係になってみて、あの男が言うほど大した男じゃなかったらそのときはそのときで笑ってやればいいだけの話で終わる。
――そうよ、愛希。笑ってやればいいのよ!
きつく唇を結ぶ。
大きく胸を反って一呼吸置いた後でシティホテルの扉をくぐる。
龍空はすでにエレベーターの前にいて、おいでおいでと満面の笑顔でこちらに手を振っていた。
慌てる様子を見せずにエレベーター前の龍空の隣に並び立って、降りてくるエレベーターを待つ。
でもやっぱり気になって龍空の手元をちらりと見る。
鍵は持っていなさそう。
「緊張してる?」
そう切り出したのは龍空だった。
やってきたエレベーターには私達二人以外乗る人がいなかったため、乗り込むとすぐに龍空は高層階のボタンを押した。
扉が閉まるとすぐに堪えきれなかったかのように「警戒しまくりじゃん」と噴き出した。
「あんたがなにも言わないからでしょうが!」
「えー? だってリベンジしようって言ったじゃん」
「リベンジしようってどういう意味なのかを説明してないでしょうが! こんなところに連れてきて、目的はどうせこの間の続きでしょ? わかってるわよ、そんなこと。で、自分ってすごいだろってアピッて落とすつもりでいるんでしょ? あんたみたいな男の考えそうなことくらい、こっちはちゃんとお見通しなんだから」
思いっきり言葉を投げつける。
しかし龍空は「それもいいね」と私の言葉攻撃を笑い飛ばした。
「それもいい? なに言ってんの、あんた?」
さきほど全速力で走ったせいで脳みそが頭蓋骨にぶつかって小さくなったのか。
じっと見つめる先で龍空はまたカラカラと声を転がして笑うと「それはまだ取っておきたいな」と答えたのだった。
「自信がないってわけね?」
「そうじゃなくて、順番が違うってこと」
順番が違う?
セックスしようと誘っておいて、今さらなにが違うっていうのよ、この男?
「まずはクリアしないとね」
と、龍空は上っていくエレベーターの階数を知らせる扉上のランプを見上げて答えた。
「クリアしないとって……ゲームでもやってるつもりなのね、あんた」
「それは誤解だよ。だってさ。愛希にはリベンジしたい相手がいるでしょ? まずはそれをクリアしないとさあ。心が透明にならなそうだなと思ったわけ。すっごい嫌な男がいなかった? あ、オレってのはなしね。オレにリベンジするのは愛希と心と体をちゃんと繋げてからにしてね」
パチンと左目をつむってウィンクを投げてくる龍空はシシシ……と白い歯を見せて笑った。
――すっごい嫌な男……
確かにいる。
なにかにつけてフィードバックする嫌な記憶は必ずその男だったから。
「ほら図星」
「いなかったら嫌いになってないわよ」
セックスを――という言葉はあえて濁す。
口にしたくないことだ。
過去の男とのことがかなり尾を引いていて、別れた後もセックスに対する嫌悪感を募らせているんだから。
「だよねえ。だから、その男をさ。ギャフンとやりこめたいわけよ、オレとしては」
「なんで?」
「過去だとしても、愛希を傷つけた男は誰だろうと許せないから」
「え?」
こちらを見ることなくさらりとそう龍空が言い切ったとき、押したボタンの階にタイミング良くエレベーターがとまった。
高いベル音が鳴って、幾何学模様の施された鋼鉄扉が静かに開いた。
「ほい、到着~」
『さあ、どうぞ』と『開く』ボタンを押した龍空が降りるように手を横に振って促した。
「あ……あ……うん」
小さくうなずいて素直に降りてしまう。
これもコイツの策略なのか。
私が降りるのを見計らってエレベーターから降りた龍空の手が優しく背中に添えられた。
龍空の体温が服を伝わって心臓に届く。
同時に思い出したのはさっきの言葉だった。
『過去だとしても、愛希を傷つけた男は誰だろうと許せないから』
聞いた瞬間、跳ね上がるように鼓動した胸は今は落ち着いている。
なぜ、あんなきざったらしい言葉を惜しげもなくさらりと言いきるんだろう、この男は。
――ホストホストホストホスト、そうホストだから!
口がうまいのはホストだからだ。
だってそうじゃなきゃたくさんのお客さんを獲得できるわけがない。
――お店に来た女の子たちにもこういうことを言うのかな。
前に美波が言っていた。
『破れた心を癒す男』としてこの男は有名なのだと。
こんな言葉を言われたら、たとえそれがうわべだけの言葉だとしてもみんなホロっとなるに違いない。
そして莫大なお金を落とすんだろうな、この男に会うために。
この男にもう一度優しい言葉を言ってもらうがために――
廊下をひた歩いた一番奥の部屋の扉を、龍空はコンコンコンッと小さくノックをした。
なぜノック?
鍵はどうした?
しばらくの沈黙の後、ガチャリと鍵が外れる音が小さく響いた。
隙間から自分たちより少し上、30代前半くらいの黒いショートカットの可愛らしい女性が顔を覗かせた。
彼女は私と龍空を確認するとすぐに中に入るように急がせた。
押し込まれるように部屋の中へ転がり入る。
「まったく、おっそいじゃないの!」
下着が透けて見えそうなほど真っ白なブラウスはしっかりとアイロンかけされていて、しわひとつない。
黒のタイトスカートと同じ色の高いピンヒールを履いたお姉さま系女子が、不満そうな顔をこちらに向けながら奥の部屋へと案内してくれた。
「本当にあんたって時間守んない男よね、リク! 私もカメラマンも待ちくたびれたわよ!」
「ああ、すんません。愛希、なかなか見つからなくって」
「まあ、美味しい話だからいいけどさ。でもいいのぉ? ちゃんと彼女に主旨説明してくれてるんでしょうねえ? あと彼女の上司にきちんと許しをもらってきてるでしょうねえ?」
「いやあ。それがその暇ないまま連れてきちゃったから……」
龍空が答えた瞬間、加奈子と呼ばれた女性の足がとまって私のほうを振り返る。
この美人は何者?
仕事できそうな匂いがプンプンするけど、高級な香水つけてるからかな?
って、それよりもカメラマンってなに?
美味しい話って?
いいの?とか主旨とか上司の許しってなんなの?
もしかして今からホテルでAV撮影!?
私をじっと観察していた加奈子さんはピッとこちらを指さすと「本物?」と龍空に尋ねた。
「ええ、正真正銘本物です。あ、それとメイクさんももうすぐ来ると思うので、それまではとりあえずインタビューからってことでいいですかね?」
「それは構わないけど。衣装はあなたが言ったように揃えたわよ。それもメイクさん来てからってことよね。すぐに編集回さないと間に合わなくなるから、いいわ、仕方ない」
本物、メイクさん、衣装、インタビュー、編集?
鳩が豆鉄砲を食らったとき――とはこういうシチュエーションのことを指しているに違いない。
加奈子は目が点になっている私に一歩近づくと、スカートのポケットからショッキングピンク色の名刺入れを取り出した。
一枚抜き出して私に差し出す。
差し出された名刺を「頂戴いたします」と丁寧に受け取りながら目を走らせる。
――なんてこと!
名刺に並ぶ文字を見て、もう一度加奈子と龍空を見る。
龍空はピカピカ光る白い歯を見せて笑い、加奈子に目くばせをした。
彼女はひとつ深い息を吐くと背筋を伸ばしてこう告げた。
「女性ファッション雑誌Luna編集長の名倉加奈子です。今日は今噂の星野龍空のCM美女独占インタビューということで、この場をセッティングさせていただきました。どうぞよろしくね、藤崎愛希さん」
「は……ははは……はぃ……?」
おそらくこの日本の20代以上の女性で知らない人はいないだろう老舗人気ファッション雑誌『Luna』の編集長様は、そう言って龍空と私が宣伝している話題の口紅を塗りなおして見せながらそう言ったのだ。
私の人生がまた一つ予想をはるかに上回る速度と方向で動いていた。
どこまでもどこまでも予想の上のそのまた上を――
-
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる
ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。
だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。
あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは……
幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!?
これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。
※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。
「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる